5 奴隷商の店へ
町に忍び込んだ私は、キエルに教えられ奴隷商の店へと辿り着いた。
けれど、これからどうしようかな?
私の手足はドアや窓を開けることには向いていないし、屋内へ誰も気付かれないように侵入することは難しい。
一応、影に潜る魔法は使えるようになったけれど、物理的に区切られた影と影の間はまだ移動できないのだ。
となると、奴隷商の店に入る為には──正面玄関から堂々とだな。
幻術で人間に化けて、客として入る訳だ。
姿は美少女……といきたいところだけど、奴隷商に出入りする美少女というのもなんか嫌だし、攫われそうなのでやめておこう。
ここは金を持っていそうな、おっさんの姿の方がいいかな?
その方が客として、丁重に扱ってもらえるはずだ。
さあ、敵地へGO!
「いらっしゃいませ」
店に入ると、髭面で恰幅のいい男が声をかけてきた。
『店主殿か?』
「はい……?」
私が「念話」で尋ねると、男は僅かに眉根を寄せる。
「念話」を聞いたのは初めてか。
さすがに客相手にはハッキリとは見せないが、不信感を持ったようだ。
『病で声を失っていてね。
魔法で喋っている。
こんな私に代わって、働く奴隷が欲しい』
「ああ、なるほど……」
店主は納得したようだった。
魔法で代用できるとは言え、声が出せないとなれば、色々と不便もある。
それを補助する奴隷が必要という理由は、そんなにおかしなものではないだろう。
「それでは、どのような奴隷をお望みでしょうか?」
『それは直接見て選びたいと思うのだが、一通り紹介してもらえるかね?』
「かしこまりました」
私は店主に地下室へと案内された。
地下牢か……。
臭気がこもっていて、ちょっとキツイ。
なにせ牢の中にあるのは簡易トイレ──つまり壺だ。
これでは衛生面は期待できない。
しかも奴隷達の服はボロボロだし、入浴は勿論、ろくに身体の水拭きすらもしていないように見える。
奴隷とは言え商品だろうに、こんな粗雑な扱いとは信じられないなぁ……。
……って、2本足で直立している動物がいるのだが……。
えっ、もしかしてこれが、異世界でお馴染みの獣人!?
体型は人間に近いけれど、顔とかは完全に犬とか馬なんだけど……。
これがデフォルトなら、ケモ耳美少女はこの世界には存在しないってこと……!?
つまりネコ耳美少女と百合百合するという、我が夢は潰えた……!?
私が愕然としていると、店主は──、
「おや、獣人が珍しいですか?」
と、首を傾げる。
この世界で獣人は、そんなに珍しくない種族なのか、それとも奴隷としては珍しくないのか……。
『ああ……私の故郷では、あまり見なかったな……。
能力的にはどうなのだ?』
「頭は良くないですが身体能力は高いので、力仕事や戦闘用には向いています」
『戦闘用……。
扱いは難しくはないのか?』
「奴隷の購入は初めてで?
魔法で逆らえないようにしてあるので、問題はありませんよ。
凶悪な犯罪奴隷でも、仔犬のように従順になります」
『そういうものなのか……』
ここにいる奴隷達が妙に大人しいのは、そういうことなんだね……。
それにしても、犯罪奴隷……そういうのもあるのか。
となると、なんでも解放すればいいというものではないんだな……。
ただ、獣人達は差別的な扱いを受けているっぽいし、解放してあげたいな。
今や私も、同じ獣だし。
しかし、ナユタの姿が見えないな……。
ここにはいないのか?
聞いてみるか。
『ドワーフの娘が、入荷したのではないかね?』
「おや、お耳が早い……。
それを何処で?」
店主には心当たりがあるようだ
『なに、町でドワーフの娘が行方不明になったと聞いたので、ここではないか……と思っただけだ……』
「その娘なら、他のお客様に高く売れそうなので、別室に隔離しております」
『見せてみよ』
「へ……?
いや、しかし……」
これはお得意様に売る為に、私には見せたくない……って感じの反応だな。
そのお得意様というと……領主かな?
ナユタみたいな小さな子を、どうする気だ……。
う~ん、本人が女の子のような格好を嫌がったというのもあるが、私も冒険者なんだし動きやすい方がいいだろう……と、男の子みたいな格好をさせていたことが、逆に悪かったのかなぁ……。
ノースリーブで腋は丸見えだし、横からぷっくりとした突起が見えそうになることもある。
それに短パンだから太股も露出しているので、その手の趣味の人間から見れば、目の毒かもしれない。
『気に入れば、買うかもしれんぞ?』
と、私は大量の金貨を懐から出した──ように幻術で見せた。
「と、特別ですよ?」
と、店主は、地下の奥へと私を誘う。
扉をくぐり抜けると、そこには先程よりもマシな状態の牢屋がある。
まあ、マシとは言っても、ちょっと綺麗という程度だが……。
その中には──いた、ナユタだ!!
そこには膝を抱えて座り込んでいる、ナユタの姿があった。
ようやく見つけた……って、え?
どういうこと?
その牢屋に入っていたのは、ナユタだけではなかった。
なんで……レイチェルもいるんだ!?
忙しくてなかなか返信はできませんが、感想はありがたいです。