3 弟子の行方
翌日も雨は降り続けた。
豪雨と言えるほど、激しい。
火を操る種族の私達は、こういう日は能力が少し落ちる。
さすがに身体が濡れた程度ではダメージにはならないけれど、ちょっとだるくなるんだよねぇ……。
まあ、これは人間の時にも天気が悪い日にはあったことだけど、そっちは気圧の影響だろうし、根本的にはちょっと違う問題だと思うが……。
そんな訳で、シスなんかはずーっと寝ているけど、私はそうもいかない。
激しい雨の中、私はナユタの行方を追って町に入る。
しかし人々は雨で濡れるのを嫌っているのか、殆ど家の中から出てこない。
これでは手がかりすら、見つけられないぞ……。
う~ん、屋内に入り込むことができればいいんだけど、人にばれないように入り込むことは難しいし……。
いっそ騒ぎを起こせば、状況が変わるのでは……と、思ったが、それは最終手段だな。
取りあえず影の魔法を極めれば、影に潜みながら影から影へ移動できるはずなので、屋内にだって簡単に入り込めると思う。
雨で動けない時間を利用して、練習するか。
そして雨が降り始めてから3日目の午後、ようやく雨は上がった。
きれいだわ……そら。
久しぶりの青空だ。
これで人の動きも活発になるはずだから、町へ様子を見に行ってみよう。
また気配を消しながら、屋根伝いに移動する。
そういえば、レイチェルはどうなったかな……?
彼女の家に行ってみたけど、中に人のは気配が無かった。
家族で出掛けている……?
いずれにしても、いないのなら話は聞けない。
他に情報を得られそうな──この前会ったポニーテールの娘がいればいいんだけど……。
でも、結局彼女の家も分からないし、この前彼女と会った町外れで待ってみるか。
「あ、きた」
おるやん!?
そこには既に、例の少女がいた。
そしてシスを撫でている。
ふふ……どうやら彼女は、私達の愛らしさの虜になったようだね。
というか、シスもわざわざ撫でられにきたの?
彼女はなかなかの、テクニシャンだったからなぁ……。
分かる分かる、いいよねそのコ。
おっぱい大きいもんね。
とにかく丁度いい、ここは彼女にナユタのことを聞いてみよう。
この際、気味悪がられても仕方がない。
『あの~……ちょっとお聞きしたいことがあるのですが……』
「はい。
………………はい?」
彼女は暫し完全停止した後、周囲をキョロキョロと見渡し始めた。
『今のは、目の前のキツネからでございます』
「えっ、君が!?
キツネが喋ってる!?」
『魔法で……ですけどね』
少女は少し身構えるけど、すぐに逃げだすような素振りは見せなかった。
気が動転している所為なのかもしれないけど、私達が悪い魔物だったら、手遅れになっていたぞ……。
でも、都合がいいので、今の内に色々と聞いてみよう。
『あの……私達と一緒に来たドワーフの女の子が、冒険者になる為に町へ入ったまま行方不明になっているのですが、何か知りませんか?』
「え……ドワーフ?
ドワーフは見たことが無いなぁ……。
でもうちも将来は冒険者になろうと思って、準備をしているところだよ。
15歳からだから、年齢が足りなくてまだ無理だけど、それでもたまにギルドには顔を出しているから、聞いてきてあげようか?」
ああ、彼女が町外れにいたのは、冒険者になるのに備えて、薬草採取の練習でもしていたってことかな?
それで冒険者ギルドに通っているというのなら、ありがたい。
それにしても、その胸で15歳になっていないの!?
もう大人並みのサイズはありそうなんだけど……。
異世界の娘は早熟なのか……?
『それじゃあ、お願いします!
灰色の髪で、身長はあなたの胸くらいまでしかない小さな娘です。
子供……というか、少年のように見えるかもしれませんが、一応30歳を過ぎています。
名前はナユタ』
「え……ドワーフってそうなんだ?
分かった、ギルドで聞いてくるね」
『ありがとうございます。
私はアイ、そちらは妹のシスです。
よろしくお願いします』
「ああ、アイちゃんとシスちゃんね。
うちはキエル・グランジだよ」
キエルね。
なんか消えそうで不吉な名前だが、無事を祈りつつ送りだそう。
私は町へと戻っていくキエルに対して、尻尾を振り続けていた。
『お姉ちゃん、なんかデレデレしてる~』
シスが面白く無さそうな顔で、指摘してきた。
仕方がないじゃん、可愛い女の子とお近づきになれたんだから。
ただ、シスのその態度も嫉妬が故だということは分かっているので、毛繕いをして宥めてあげよう。
そんなことをしながら待つこと約2時間──。
お、キエルが戻ってきた。
ナユタが一緒にいないということは、少なくとも見つかってはいないということかな……?
「ごめん、そのドワーフの子は、確かにギルドにきたみたいなんだけど、ギルドを出た後の行方は分からなかった!」
『そうですか……』
成果は無しか……。
「でも、この辺じゃドワーフの女の子なんて珍しいから、人身売買組織に攫われたんじゃないかって、ギルドの人が……!!」
な、なんだってーっ!?
実はこの町が、かなり治安の悪い場所だということを、私は思い知らされることとなった。
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