表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/216

2 キツネさん、お金を貸す

 その少女は10歳……は、いってないな。

 8歳か9歳くらいかな?

 それでも将来は、凄い美女になることが容易に想像できる。

 金髪碧眼で、お姫様ってこういう感じなのだろうなぁ……と思った。


 実際、生まれついての、気品のようなものすら感じる。

 こんな田舎の町には、不釣り合いなほどだ。


 そんな少女は、私の姿を見て唖然とした表情をしていた。

 

「キツネさんが喋ったのです……!?」


 はい赤いキツネです。

 珍獣ですよー。


『私はアイ。

 キツネの妖精です。

 だから魔法でお話しできるんですよ。

 あなたは?』


「わ、私はレイチェルなのです」


 そうか、レイチェルか。

 いい名だ。


『で、レイチェルはこんな夜中に、何をしているのですか?』


「あの……お父さんとお母さんが、喧嘩しているのです」


『そう……。

 どうして?』


「お父さんが……借金を作ってしまって……。

 このままでは、私を売らなければ駄目みたいなのです……」


 ああん!?

 なんだそのクソオヤジ!?

 度しがたい……実に度しがたいぞ!!


 レイチェルの母親は、そんな父親に対して激怒し、責めている訳か。


『そのお父さん、私が叩きのめしてあげましょうか?』


「駄目っ!

 お父さん、本当は優しい人なんだから!」


 優しい父親は、娘を売るなんてしない。

 だけど子供にとっては、どんな酷い奴でも親は親か……。

 何よりもレイチェル自身が、優しいのだと思う。


『……それじゃあ、私がお金を貸してあげましょうか?

 無利子ですし、返済は何十年かかってもいいですよ?』

 

「え……本当なのです?」


『はい、レイチェルが売られてしまうのは可哀想なので、貸しますよ』

 

 幸い使うアテの無い金貨が、1000枚もあるからね。

 そしてぶっちゃけ、返済はあまり期待していない。

 私とレイチェルの接点が、今後どれだけあるのか分からないし、場合によっては返済する機会なんて二度と無いかもしれない。


 それでもこんな幼い子が、売られて酷い目に遭うよりはずっといい。


『で、借金はどれくらいあるんですか?』


「確か……金貨110枚くらい……」


 おっと。

 それは家が建つくらいの額なんじゃないかな?

 金貨1000枚で豪邸が何軒か建てられるらしいから、安い家ならいけるような気がする。


 一体何をしたら、そんな借金を作れるのだろう?

 賭け事か何かか?


 ……う~ん、レイチェルは助けたいけど、正直その父親は助けたくない。

 でも、父親も助けないと家庭崩壊は必至だから、結局はお金を貸すしかないかな……。


『じゃあ……ここに金貨120枚ありますから、これだけあれば大丈夫でしょう?』


 私は空間収納から金貨を出して、レイチェルに差し出す。

 彼女は初めて見るであろう大金に驚愕の表情を浮かべたが、すぐに安堵した顔になり、ボロボロと涙をこぼし始めた。

 これで家族と離ればなれになることもないのだから、当然だろう。

 やっぱり今までは、不安で仕方がなかったのだろうなぁ……。


「あ、ありがとう!

 ありがとうなのです、キツネの妖精さん!」


『いいのですよ。

 返済はいつかまた会った時に、持っている額を少しずつ返してくださいね』


「うん……うん……!」


 頷くレイチェルの顔には、笑顔が浮かんでいた。

 これを見ることができただけで、金貨100枚以上の価値がある。


『お……?』


 その時、雨が降り出した。

 これは結構強くなりそうだな。


『さあ、冷えるから、もう家に入りなさいな』


「うん……本当にありがとうね、キツネの妖精さん!」


 しかしレイチェルは、私から離れようとしない。

 こりゃ、私が去らないと、家に入らないな。


『じゃあ、またいつか』


「うん、またいつかなのです!!」


 それからレイチェルは、私の姿が見えなくなるまで、手を振り続けていた。

 彼女のことは、最後まで見届けたいけれど、魔物の私がこれ以上町の中で目立つようなことはできないし、後ろ髪を引かれる想いで立ち去るよ。


 さて……。

 私はナユタの捜索に戻りたいところだけど、この雨では臭いも足跡も全部流れてしまうし、人間も全員家の中に閉じこもってしまうだろうから、手がかりを見つけることは難しいだろうな……。


 ここは一旦シスのところへ戻るか。

 その晩は、農家の納屋を借りて雨を凌いだ。

 明日は定休日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「……う~ん、レイチェルは助けたいけど、正直その父親は助けたくない。でも、父親も助けないと家庭崩壊は必至だから、結局はお金を貸すしかないかな……。」 借金が本当か、父親が騙されていな…
[一言] メインルートの苦しみの前にレイチェルちゃん、どんな幸せ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ