1 人間のお友達
そのポニーテールをした少女は、13歳くらいだろうか。
ただ、胸が既にそこそこのサイズをしているので、もっと上の可能性もある。
顔にはそばかすが目立つけれど、それでも可愛らしい子だった。
草木や虫から肌を守る為か、露出度の低い服装をしているので、森には山菜採りにでもきたのだろう。
とにかく私がこの世界に来て初めて会った、人間族の女の子だ。
これは是非、お近づきになりたい!
『シス、何があっても攻撃とかしないでよ』
『……お姉ちゃん?』
何をするのか……と、訝しげな顔のシスをその場に残し、私は無警戒を装いつつ、少女に近づいていく。
「え、え?」
野生動物は通常、自ら人に近づいてくることは無い。
あるとしたら、襲いかかるつもりがある時など、条件は限定的だ。
だから少女も身構えるが、私は敵意が無いことを証明する為に、地面に伏せる。
そして尻尾をフリフリ。
ほら、尻尾をモフモフしてもよろしくてよ?
大丈夫、定期的に身体を火で包んで消毒しているから、ダニや病気の心配は無く清潔なものだ。
私が暫く動かずにいたら、少女の方から恐る恐ると近づいてきて、手を伸ばす。
そして私を撫で始めた。
「うわぁ……柔らかい……」
毛並みには、気を使っているからね。
まあ、私の毛繕いをしてくれるのはシスなので、彼女を褒めてやってと言いたい。
でも、この少女も撫でるのがなかなか上手い。
やっぱり人間族は、指先が器用でいいね。
というか、美少女に撫でられるとか、なんという至福……!
これだよ、私が異世界に求めていたものは……!
いや、本当は私も人の姿になって、イチャイチャしたいところだけどさぁ……。
まだ人の姿へ変化する方法が分からないので、仕方がない……。
「キュウ……」
「……君も、いいのかい?」
シスも撫でて欲しくなったのか、それとも私を少女に独占されているのが気に入らないのか、近づいてきた。
少女の呼びかけに、シスは「ふん」と顔を背けるけど、それを了承と受け取った少女に撫でられると、すぐに心地よさそうな顔になる。
即堕ちツンデレであった。
それから30分ほど、私達は少女と戯れていたが──、
「……ゴメンね。
うち、そろそろ行かなきゃ」
少女は町へと、帰るようだ。
どうしよう、引き留めようかな……?
だけど話しかけたら、気持ち悪がられるかもしれない。
でもこのまま分かれたら、またいつ会えるのか分からないんだよなぁ……。
それに彼女が町の人に私達のことを話しても、「子供の言うことだから」と、無視される可能性もあるし、私達の身の安全には影響が無いかもしれない。
勿論逆に彼女の言葉で、町全体が私達の排斥に動き出す可能性もあるが……。
そうなると、ナユタにも迷惑がかかる……。
ここはもうちょっと、様子を見るか……。
「キューン……」
「またね」
残念だが、私はその少女を見送るしかなかった。
今後のことは、ナユタの結果報告を聞いてから考えるとしよう。
しかしそしてそれからいくら待てども、ナユタが戻ってくることはなかった。
『……遅い!』
夜遅くになっても、ナユタは戻ってこなかった。
果たして彼女は、冒険者の資格を得ることができたのだろうか?
資格を得た後、順当に行けば宿屋を決めているはずだけど、夜間の外出が禁止だという可能性も有り得る。
何かしらの事件に彼女が巻き込まれたのだ──と、判断するのはまだ早い。
……早いのだが、やはり心配だな……。
私はこっそりと町へ、侵入することにした。
気配を消し、あの影に潜り込む術を駆使すれば、人間に見つかることは無いだろう。
一応練習していて良かった。
しかし町の中では、人間の気配が多すぎて、ナユタだけの気配を特定することができない。
臭いも……色々な臭いが混じっていて分かりにくいな……。
基本的にこの世界の人間はあまりお風呂に入らないのか体臭がきつくて、それが混じり合った臭いを嗅いでいると、鼻が利かなくなってくる……。
ドワーフのところは浄化魔法を使っていたからまだマシだったけれど、この町は人口が多い所為か、数少ない魔法の使い手だけでは対処しきれないようだ。
あと、トイレも汲み取り式のようだし、下水の浄化施設も整備されていないらしく、結構臭う……。
将来的に私が人の姿を手に入れたら、この辺の生活環境は改善したいなぁ……。
だけど今は、ナユタのことを優先しなきゃ。
宿屋みたいな場所は見つけたけど、そこからはナユタを見つけることはできなかった。
じゃあ、何処にいるの!?
私は家の屋根の上に登り、屋根伝いに移動する。
上から探しても、ナユタは見つからない。
ナユタは見つからなかったが──、
「……?」
とある一軒家の前に、小さな女の子が膝を抱えて蹲っていた。
こんな夜中に……?
その異常さを感じ取り、その女の子に気付かれないように近づく。
うん……?
家の中から、言い争うような声が聞こえてくる。
ああ……両親が喧嘩しているから、家の中に居づらいのか。
う~ん、なんだか放っておけないな。
ちょっと声をかけてみるか。
小さな子供になら、ちょっとくらい私の存在を知られても問題無いだろう。
『コンバンハー』
「えっ、頭の中に声が?」
女の子は突然の「念話」に驚いたようだが──、
「キツネさん……!?」
私の姿を見た彼女は、そのまま絶句してしまうのだった。
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