プロローグ 運命の出会いかもしれない
「うひゃ~、速い~っ!!」
おう、サラマンダーより、ずっと速いぞ。
私はナユタを背に乗せて、南に向かって走る。
普通のキツネサイズの私でも、ドワーフで人間の子供のような身長のナユタならば、乗せて走ることはできた。
『ちょっ、お姉ちゃん!
本当に速いよっ!?』
おっと、シスを引き離しそうになっていた。
人間の町へ行けるのが楽しみで、ついついスピードを上げすぎていたわ……。
平然としがみついていたナユタは、結構凄いな……。
ジェットコースターが平気なタイプかな?
そんな感じで、割と急いで南下したんだけど、さすがに1日では辿り着けない。
特に森に入ると、道が悪くて草原のようにはスピードが出せないしね……。
……そろそろ転移魔法というものを、練習し始めてもいい頃合いだろうか。
それが使えるようになれば、もっと移動が楽になる。
少なくともあの影の魔物のように、影の中を移動する転移術は実在するので、暇を見つけて試してみよう。
それとも飛行魔法……は、できなくもないんだけど、現状では魔力の消費が大きくて、走った方が楽なんだよなぁ……。
ともかく急ぎたい気持ちもあるのだけど、魔物を見つけたらナユタの訓練も兼ねて、いちいち戦っているので、それなりに移動時間はかかってしまった。
それでもやがて進む先で、伐採された木の切り株を頻繁に見かけるようになってくる。
これから行こうとしているサンバートルは、開拓地でまだまだ小さい町だと聞いている。
家を建てる為に、木材を切り出した跡なんだろうね。
それから更に進むと、町並みが見えてきた。
『おー!
やったーっ!!
人間の町だー!!』
『……こんなにはしゃいでいるお姉ちゃん、初めて……』
おっと、思わずテンションが上がりすぎて、ピョンピョンと跳ね回ってしまった。
でも、ようやく美少女と百合百合できる可能性が、出てきたからね……。
申し訳無いけど身近にいる女子のナユタは弟子だし、それを抜きにしても妹……というよりは弟みたいな感じだからなぁ……。
しかし問題は、このまま町に入れるかどうか……だ。
ガラルの話では、この世界にも「従魔」という概念はあるらしい。
ただしあまり一般的ではなく、人間の町で受け入れてもらえるかどうかは微妙だという。
『私達はナユタの従魔のフリをするから、しっかりとご主人様役を演じるんだよ』
「し、師匠に対して恐れ多いっす」
『人前じゃ、命令口調だからね?』
「お、おう……」
う~ん……根が正直なナユタには、演技力はあまり期待できそうにないなぁ……。
でも結局──、
「駄目だ駄目だ。
そんな訳の分からない動物は、町へは入れられない」
町の入り口で門番に止められたので、演技力とかはまったく意味が無かった。
「キュ~ン……」
やっぱりこんな赤いキツネでは駄目ですか、そうですか……。
「なんでだよ!?
オレの相棒だぞ!?
ほら、オレの言うことはよく聞く!」
予め打ち合わせていた通り、ナユタの合図で私とシスはバク転して見せる。
「それは凄いが……。
だが、万が一人に危害を加えたら、子供のお前が責任を取れるのか?」
「オレは子供じゃねぇよ!?」
ナユタは抗議するが、門番の言うことはもっともだ。
彼女が子供かどうかはともかく、人間の町での社会的な地位が何も無いというのは事実だろう。
つまりは信用が無い。
町の人間からすれば、ナユタは何をするのか分からない、警戒すべき相手だということになる。
そんな存在の自由を制限しようというのは、当然の話だ。
だけどナユタに信用があれば、話は違ってくる。
『仕方がない。
まずはナユタだけ町に入って、冒険者の資格を取ってきて。
ナユタが功績を挙げて町の人からの信用を得れば、私達も堂々と中へ入れてもらえるようになるはずだよ。
それに私達なら、こっそりと入り込むこともできるから』
と、私はナユタにだけ聞こえるように、念話を送る。
まあ、こっそり町に入っても人間とは接触できないので、私個人としてはあまり意味は無いけど、ナユタと連絡を取り合う為に侵入する必要はあるだろう。
ナユタは「念話」が使えないから、彼女の方からメッセージは送れないからねぇ……。
「念話」が届く所まで近づいた上で、私から話しかける必要がある。
「……じゃあ、町の外で待っていて。
後で報告にくる」
と、ナユタは私達を置いて、町に入っていく。
1人で人間の町へ行くことに不安を感じているのか、その足取りは重い。
……大丈夫かな?
本来なら私も同行して、助言を与えたいところだけど、昼間は目立つので町には入れない。
入るとしたら、夜になってからだなぁ……。
う~ん……「幻術」で完全に姿を消したり、人間に化けたりすれば昼間でも行けるけど、あくまで魔法だから、あまり長時間持続できないんだよなぁ……。
取りあえず、「幻術」を長時間使えるように、魔力の運用効率を見直してみるか。
『あはは、おもしろーい!』
近くの森に入った私は、「幻術」で色々な映像を生み出し、それとシスを遊ばせていた。
シスは決して捕らえることができない幻影を追いかけて、走ったり跳んだりしている。
楽しそうでなにより。
暫くすると、何者かが近づいてくる気配を感じた。
町の人間かな?
ここはあえて姿を隠さずに、無害であることをアピールしてみよう。
「えっ?」
私達の姿を見た者から、驚きの声が上がる。
赤いキツネなんて初めて見たのだろう。
それは女の子の声だった。
栗毛をポニーテールにした、女の子の──。
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