2 これジャンルが違うよね?
本日3回目の更新です。
我が輩は赤いキツネである。
名前はまだ無い。
……名付ける人間もいないから、一生名前が無い可能性もあるけど、正直いって獣のままなら、名前の必要性は今のところ感じていない。
だが、ここは異世界だ。
スライムから魔王になった例もあるのだから、キツネだって人型になれる可能性があるのかもしれない。
諦めたら試合はそこで終了ですよ。
ただ、おそらく人型に変化できる能力を持つのは、魔物の類いだろう。
私がただの動物だった場合は、そこで詰む。
しかも、キツネの寿命は精々10年、野生の環境だと2~3年だと聞いたことがある。
私の種族にそれが当てはまるのかは分からないが、残された時間は少ないと想定しておいた方がいいかもしれない。
だけどこれからどうすればいいのか、具体的には何も分からない。
というか、野生動物の子供が生き残る確率は低いから、まずは生き残れるかどうか、それが問題だ……。
まずは成獣になってから、人型になれる方法を考えるべきか……。
……でもこれにはちょっと、途方に暮れるなぁ。
なにこのハードモード……。
そんな風に私が黄昏れていたら……、
「きゅうぅーん!」
何かが私の背中に乗りかかってきた。
……ああ、妹ちゃんか。
いや、実際には姉の可能性もあるんだけど、私よりも身体が小さいので、妹だと思うことにしている。
私の目が見えるようになった当初、彼女はその身体の小ささの所為で、授乳時に他の子供達に押し退けられてしまい、十分に母乳を飲めない状況に置かれていた。
このままでは弱って死ぬかもしれないと思った私は、妹ちゃんの授乳場所を確保してやったりと、何かと世話を焼いていたのだが……。
そしたら、なんだか懐かれてしまったようだ。
だから彼女は、私によくじゃれついてくる。
しかも毛繕いのつもりなのか、ペロペロと私の身体を舐め回してくる。
ちょっ、くすぐったい!
……でもこれ、私も舐め返してあげた方がいいのかなぁ。
私達は地面の上に転がったりしているから、体中が土とかで汚れているので、舐めるのはちょっと抵抗があるんだけど、汚れているからこそ舐めて綺麗にしてやった方が、妹ちゃんの健康維持には良いのかもしれないし……。
私は思いきって、妹ちゃんの身体を舐めてあげた。
「きゅう~ん♪」
あ……凄く嬉しそう。
気持ちいいのかな?
それならばと、私は更に念入りに妹ちゃんの身体を綺麗にしていった。
すると、今度は妹ちゃんも私を舐め返してくる。
そして、顔まで舐めてくるので、偶発的に舌と舌が触れ合う……!
こっ……これは百合キス!?
しかもベロチューですよ!?
はあぁ……姉妹百合尊い……。
……でも、これなんか違うよね?
どっちかというと、ケモナーが喜びそうなシチュエーションだよね!?
妹ちゃんも悪くはないんだけど、やっぱり人間の美少女と百合百合したいよぉ……。
とはいえ、やっぱり妹ちゃんもペット的な意味では可愛いので、頑張ってお世話をするよ!
しかし当初は弱々しかった妹ちゃんも、大分元気になってきたし、お転婆になりそうな兆候も出てきたので、なかなか目が離せない。
野生の世界では、何が命取りになるか分からないしね。
取りあえずは、ママンからあまり離れないようにしないとな。
たとえ外敵が来ても、親がいればある程度は守ってくれるはずだ。
だけどそれが分からない馬鹿もいる。
そいつは雄の個体で、子供達の中でも身体が大きい所為か、凄く元気がいい。
そして興味本位であちこち動き回って、非常に危なっかしいのだ。
私も何度か注意したのだけど、聞きやしない。
つか、言葉が通じないからなぁ……。
とにかくそのお兄ちゃん(なのか弟なのかよく分からないが、便宜上そう呼ぶ)については、いつか取り返しの付かないことになるのではないか──と、危惧していたのだけど、その危惧はついに現実の物となってしまった。
ある日、私達はママンと一緒に巣穴の外へ出て遊んでいた。
私と妹ちゃんは、何かあってもすぐに守ってもらえるように、ママンの傍で遊んでいたんだけど、お兄ちゃんは少し離れた場所まで足を運んでいた。
ママンも今までは吠えて警告したり、可能ならば連れ戻したりしているのだけど、私達兄妹は6匹もいるので(お●松さんかな?)、お兄ちゃんだけを見ている訳にもいかない。
だけどそこに生じた隙が、致命的だった。
「きゅっ!?」
お兄ちゃんが短い悲鳴を残して、消えた。
同時に聞こえた「バサバサ」という羽音から、鷹か何かに連れ去られたようだ。
あまりに瞬間的なことで、その姿はまったく確認できなかった。
これではママンが傍にいたとしても、どうにもできなかったかもしれない。
そしておそらくはもう、完全に手遅れだ。
お兄ちゃんを助け出すことは、きっと不可能だろう。
あまりにもあっさりと、その未来は奪われてしまったのだ。
私はその呆気ない死に、戦慄するしかなかった。
……求めてない……。
異世界転生に、こんな大自然の厳しい洗礼とか、まったく求めてないよ……。
次回は明日の予定。