14 仇討ち
ナユタは手斧を構えて、影の魔物が操る父の遺体──シャドーゾンビに対峙した。
このまま戦うということは、実の父の身体を傷つけることになる。
だけど彼女にとっては、このまま魔物に父の身体が穢され続けることの方が、我慢ならないようだった。
「父ちゃんの身体から、出ていけーっ!」
ナユタが振り下ろした手斧は、ゾンビの右肩に突き刺さる。
ゾンビの動きは極端に素早いということもなく、彼女の攻撃が外れることはなかった。
だが、既に死体であるゾンビの活動は、その程度では止まらない。
完全に肉体を破壊されるか、操っている存在を外へ引きずり出すまでは──。
それでも彼女の攻撃は、無意味では無い。
振り上げられゾンビの拳が、ナユタに襲いかかろうとしていた。
しかし彼女は叫ぶ。
「思いっきり、やっちまえ!」
よし、お許しが出た。
さすがに私も、既に死んでいるとはいえ人の親を攻撃することには、かなりの躊躇いがある。
ナユタは自らが攻撃することで、私が父親を攻撃することを躊躇わなくてもいいと、行動で示してくれた。
そして更に言葉にすることで、私の迷いを完全に消してくれた。
『光になれぇぇぇぇぇぇぇ!!』
私は極太のビームを、ゾンビの頭上から降らせる。
光に飲み込まれたその身体は、溶けるように分解されていった。
この地下の──しかも屋内で炎や熱を使うのは危険なので、光に魔力を込めて飲み込んだ物を粉々に砕いているのだ。
実の娘に見せたい光景ではないが、どのみちいずれは火葬すると言う話だし、少し早めに同様のことをしたのだと、勘弁して欲しい。
ともかくこれでもう、影が操る身体であり、身を守る鎧はもう無くなった。
しかし──、
「ギュアァァァァァァァァァ──っ!!」
消滅していくゾンビの身体から、影が飛び出した。
鎧に守られていたとはいえ、この攻撃を耐えるのか……!!
だけど形は既に失いかけ、その姿はもう狼でも人でもなく、不定型な何かでしかない。
それが玄関の方に向かって、一目散に逃げる。
『待てっ!!』
私は追おうとするが、このままじゃ間に合わない。
「ギッ!?」
ところが玄関は光の壁で塞がれてしまい、影は逃げ場を失った。
『お姉ちゃ~ん、間に合った~?』
『シス、いいタイミングだ!』
光の壁を作ったのはシスか。
私はごんぶとビームを撃った直後で、すぐに別の魔法は使うことはできなかったから、シスのフォローは助かったよ。
そして──、
『ナユタ、トドメを!』
「お、おう!」
ナユタは拳を構える。
それはぼんやりと、光を放っていた。
父親の仇である影の魔物は、光が弱点だ。
敵討ちをさせるつもりなら、その弱点属性の扱いを教えていないはずがない。
もっともナユタは魔法が得意ではないらしく、術を使いこなすには至っていはいないが……。
昔の私もそうだったけど、魔力を体外へ放出して属性魔法に変換するのは、なかなか難しい。
だから彼女には、拳に魔力を集中させ、そこから漏れ出た魔力を光に変換させることを徹底的に練習させた。
未だに失敗も多いが、今は上手く拳に光を乗せることができている。
行けっ! ゴッ●フィンガー!!
「おらあぁぁぁぁぁ!!」
「ギュアッ!?」
ナユタの拳が、影を捉える。
現時点でのナユタの攻撃力はまだ大したことないけれど、今の弱り切っている影にとっては、それで十分だった。
「ギ……ギア……ギ……ギ……」
光る拳に撃ち抜かれた影は、霧のように霧散していく。
「や……やったのか……?」
やっていないフラグはやめぇい!!
でも、あっさりと影が消滅したのは事実だし、そのことに拍子抜けしたのか、ナユタは唖然とした表情をしていた。
ただ、極度の緊張状態から解放された所為か、息が上がっている。
ハアハアと、喘ぐように──。
『うん、ナユタがお父さんの仇を討ったんだよ!』
「そ……そうか……」
ナユタは脱力したように、腰を床に下ろす。
「やった……やったぞ、父ちゃん……!!」
そして握りしめた両手の拳を、天井に向けて突き上げた。
「見ていてくれたか……?
これがオレの、偉大な冒険者になる為の第一歩だ……っ!!」
そんなナユタの顔は、涙に濡れていた。
だけどそこにあるのは、悲しみだけではない。
1つの目的をやり遂げた、喜びがある。
まあ……坑道の中に、まだ影の仲間が残っているのか、その確認作業は必要だろうけど、これで影にまつわる事件は、取りあえず終わった……のかな?
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