11 弔うべきもの
数日後、再び坑道の探索が始まった。
あの影の魔物は、私のことを警戒している可能性もある。
だから私は極限まで気配を消して、闇に紛れながら参加しようと思ったのだが……、
「おいおい、何処にいるのか分からんぞ?
それじゃあいざという時に、間違えて攻撃してしまうわい」
と、ガラルから指摘された。
う~ん……それじゃあ……。
『要するに私だと分からなければいいんでしょ?』
幻術でドワーフの姿を生み出して、私に被せる。
「おお、誰だこいつ!?」
ガラルが思わずそんな感想を漏らすほどの、高クオリティ映像。
それは前世の映画で見た、世界で1番有名だと思われるドワーフがモデルだ。
『気品に溢れているでしょ?』
「……あんた、なんでもできるんだな……」
ドワーフの少女であるナユタ(アラフォー)も、若干引きつつも感心はしてくれたらしい。
『魔法はイメージが大事だよ。
明確にイメージすればするほど、その性能が上がると私は思っています。
その為には色々なことを知る必要がありますよ。
たとえば火がどうやって発生するのか、それを知っていた方が魔法でも火は扱いやすくなる……』
まあ、この世界の人間に、酸素が燃焼するとかの原理まで理解するのは、ちょっと難しいかもしれないけれどね……。
「イメージ……」
ナユタは理解したのかしていないのか、難しい顔をしていた。
元々私は、ドワーフが魔法を使うというイメージを持っていなかったのだけど、実際には地下に住んでいる為か、地属性の魔法は得意らしい。
あと、魔法で照明を作るくらいのこともできるし、鍛冶仕事の時には水・火・風の属性魔法だって使う。
まあ、その殆どは生活に根ざしたもので、戦闘ではあまり使わない。
だから戦闘スタイルが、斧や槌を用いた肉弾戦がメインだという事実は変わらないようだ。
それでもドワーフは、優れた魔法戦士になれるポテンシャルがあると私は考える。
さあナユタ!
私と契約して、魔法少女になってよ。
……そう言いたいところだけど、ナユタは私の存在を完全に受け入れた訳ではなく、まだ何処かに壁がある状態だ。
それが消えなければ、私の言葉も何処まで素直に聞いてくれるのか分からない。
ともかく、今日も坑道の探索に出発だ。
なお、シスは私が置いてきた。
修行はしたが、ハッキリ言ってこの探索についていけない……(言語的に)。
まだヒアリング能力が駄目なので、とっさの事態にはドワーフ達と連携が取れないからね。
『そういえば、あなた達の言語って、他の人間やエルフにも通じるんです?』
「多少違いはあるが、ある程度は通じるはずだ。
エルフには会ったことは無いが、人間達と交易することもあるんでな」
そうか、それなら良かった。
人間と会った時に、また言語を学び直すのは大変だからなぁ……。
まあそんな感じで、ドワーフ達と雑談しながら、坑道を進んで行く。
以前点検した場所は選択肢から外して、未点検の場所を中心に探索を進めた。
一度点検した場所が安全とは限らないけど、まだすべてを点検していない現状では、それを言い出したらキリが無いし……。
いずれにしても影の襲撃は、未だに無い。
一応索敵もしっかりしているのだが、たまにネズミなどの気配が引っかかる程度で、影らしき反応は見つからなかった。
もしかしたら既にこの坑道から出ていってしまったのではないか、まさかゴブリン達の方へ行ってないよね?──そう思い始めた頃……、
「あ……!」
前方に、誰かが倒れている。
未回収の、ドワーフの遺体か……。
そしてそれは──。
「父ちゃん!?」
ナユタが叫び声を上げた。
まだ見つかっていない、彼女の父親か。
私には他のドワーフ達と遺体の差は分からなかったけれど、家族だからこそ分かる特徴があったのだろうな。
装備のデザインとか、遠目からでも一発で分かるような何かが……。
そんな父の遺体に、ナユタは駆け寄ろうとするが、
「待て」
ガラルが止める。
「な、なんだよっ!?」
「2ヶ月は経過した遺体だぞ?
それに魔物にだって、食い荒らされているかもしれん。
生前の面影なんて、残ってはいない酷い状態なんだぜ?
覚悟はできているのか?」
「う……!」
ガラルの指摘で、ナユタは躊躇の色を顔に浮かべた。
確かに変わり果てた家族の姿を目の当たりにするのは、酷な話だ。
彼女はそのまま暫し葛藤していたようだが、やがて意を決して父へと歩み寄っていく。
だけど──、
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
ナユタは半狂乱で、泣き崩れた。
たぶん想定していたよりも、父の遺体の状態が酷かったのだろう。
こんなことなら、彼女に見せる前に、私が火葬しておけば良かったかな……と思ってしまう。
でも家族としては、遺体でもいいから帰ってきて欲しいという想いもあるのだろうし、難しいところだな……。
ともかく、今日はナユタの父親の遺体を回収して、村へと帰らなければならないので、坑道の探索は中止だろう……。
『……ん?』
しかし私は、何か大事なことを忘れているかのような、モヤモヤとした感覚を覚える。
あれ……一体何を忘れているのだろう?
そもそも何故急に、そんなことを感じ始めたのか……。
その理由が分からないまま、私達は帰路へとついた。
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