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9 ナユタ

 その日から私達は、村長であるガラルの家に泊まり、言葉やこの世界の常識などを教えてもらうことになった。

 ただ、さすがに言葉はすぐには習得できないので、ちょっと時間がかかりそうだ。

 それでも今や脳内マッピングも可能な私の頭脳なら、数日で基礎程度はどうにかなるだろう。


 ただ、シスの学習能力は私よりも劣るので、ガラルの奥さんにお願いして補習を受けてもらうことになった。

 やはりレベルが違うと、知能のステータスも違うからなぁ……。

 まあ、具体的にどのくらいの差があるのか、それはよく分からないけど……。

 ただ、尻尾の数は4本と7本で違うから、大きな差があることは間違いない。


『ふえぇぇん……』


 で、シスはあまり人間の言葉を使う必要性を感じてはいないようなので、補習は嫌々といった感じだ。

 でも、これから人間の世界に行こうとしている私に付いてくるのなら、やはり言葉の習得は必須だ。


『シス、頑張ったら、奥さんにゴハンを沢山作ってもらうから、真剣にね?』


『本当!?

 約束だよ、お姉ちゃん!!』


『うん、約束ね』


 シスはドワーフ達が食べている料理が、気に入ったらしい。

 勿論私も好きだ。

 だって、この世界に転生してから、初めて食べたまともな料理だもの。

 美味しくないはずがない。


 初めて食べた時は、懐かしさで泣いてしまったくらいだよ。

 勿論文化が違うから日本料理とは程遠いけど、調味料を使っているだけでも、私達が普段食べている「素材を焼いただけ」の料理とは言いがたいものから比べれば雲泥の差だ。

 いや、たまに岩塩は使うけど、大量には手に入らなかったし、薄味が基本だった……。


 ちなみに動物だと、人間の食べ物が毒になるということはよくあることだけど、私達の種族には関係はないようだ。

 長い旅の中で色々な物を食べてきたけど、今のところ死にそうな目に遭うほどお腹を壊したことは無い。

 もしかしたら、毒への耐性も持っているのかも……。


 ともかく暫くの間この集落に滞在することになったので、食事と寝床のお礼として、坑道内にあの影の魔物が残っていないか点検する作業や、魔物に襲われた者の遺体の回収など、色々と手伝うことにした。

 

 そんな生活の中で、あのナユタという少女と顔を合わせることもあったのだが……、


「コ……コンニチワ」


「……」

 

 覚えたての言葉で挨拶しても、無視されてしまった。

 むう……まだ発音が駄目だったか?

 キツネの声帯では、人間の言葉は発音しくい。

 そこで魔力によって空気を操って調整してはいるのだけど、まだまだ難しい。


 というか私はまだ魔物として、警戒されているのかな……。


「気にするな、あいつも色々とある」


 と、教えてくれたのは、ガラルだ。

 もう聞き取るだけなら、「念話」じゃなくてもある程度言葉は分かる。


『色々……?』


「ああ、あの影の魔物がまだいるのかどうか確認する為に、偵察を送ったという話をしただろう?

 その送り出した者の中に、ナユタの父親もいた』


 あ~……そういう……。

 父の(かたき)である魔物全体を、信用していないのか。

 

「あいつの父親は自ら名乗り出たが、送り出した俺達のことを恨んでいるかもしれんな。

 それにまだ遺体も見つかっていない。

 心の整理ができなくて、当然だ……」


 いや……たぶん父を送り出したのはナユタもそうなのだろうから、彼女は自己嫌悪しているのかもしれない。

 おそらく「何故父親を止められなかったのか」という、自責の念に(さいな)まれていることだろう。

 

 そしてたぶん私達に対しても、「何故もっと早く──父親が死ぬ前に助けにこなかった」という、想いを抱えているのだろうな……。

 勿論それは、私に責任があるような話ではないし、ただの八つ当たりなんだけど、そう簡単に割り切れる感情ではないのだろう。


『そういうことなら、私に任せてください』


「お、おい」


 私はガラルの返事も待たず、ナユタの後を追った。

 そして私は彼女に追いつくと、その背中に呼びかける。


『ねえ、あなたナユタって言うんでしょ?

 ちょっとお話ししましょう?』


 しかしナユタの反応は──、


「近寄るなっ!!」


 明確な拒絶だ。

 だが、ここで引いては何も解決しないので、ウザ絡みしていくよ。

 私に可愛い子をスルーするという、選択肢は無いのだ!


 まあ可愛い子だとは思うよ。

 灰色の髪は短くて、ちょっと少年っぽい雰囲気だけど、成長すれば美人になると感じさせる。

 いや……今の姿が既に成人で、これ以上成長しない可能性も高いけれどね。

 合法ロリは好みではないけど、今は少しでも百合成分を摂取したい。


 だから私は、悲しんでいる女の子を、無視できないのだ。


『私が嫌なら、力尽くで追い返してみなさいよ』


 私が近づいていくと、ナユタは腰からナイフを抜いた。


「く、来るな!」


 ナイフを向けられても、私は平然とナユタに近づいていく。

 刃物は確かに危険だけど、私にしてみれば猛獣の牙や爪の方が危険だった。


「来るなって、言ってるだろ!」


 更に近づく私に対して、ナユタはナイフを振るった。

 いつも応援ありがとうございます。

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