8 怪獣の後始末
『じゃあ、売りたいという獲物を見せてみな』
『はい、ちょっと離れていてください』
私はドワーフ集落の村長であるガラルに促されて、集落の広場に竜とアルマジロの死体を出した。
するとドワーフ達が、激しくざわつきだす。
あれ……?
ちょっと怖がられてる……?
さっきまでは私達に対して、まるで珍獣でも見るかのような好奇の視線を向けていたドワーフ達は、その顔に明らかな恐れの色を浮かべた。
『マジか……オイ。
マジか……!』
ガラルも驚愕の表情で呻いている。
『原始竜に、甲羅の暴君……。
どちらも年を経た個体は、都市をも滅ぼすとされている危険極まりない魔獣だぞ……!!』
え……と、それってつまりそいつらを倒した私達も、都市を滅ぼせるくらいヤバイ存在ってこと!?
そりゃ、怖がられるわ……。
『あの……無闇に力を使うつもりは、ありませんからね……?』
と、私は無害をアピールする為に、腹を見せて床に転がった。
シスも意味は分かっていないようだが、私の真似をして転がる。
『まあ……敵意が無いのは分かるが……。
だが……期待には答えられんなぁ……』
『えっ!?』
『こいつらを買い取ろうとしたら、ちょっとした村が丸ごと買えるだけの金が必要になる。
さすがにそんな金は、ここには無いな……。
こいつらは国相手でも、取り引きできるほどの素材だぞ』
『それならばどちらか片方だけ……それも分割の支払いでもいいですよ?
それに私達には大金は必要ありません』
魔物の私達では、表ルートでの売買は難しいだろうしね。
『だからお安くしておきますので、その代わりに言葉とかこの世界の常識とか色々と教えて欲しいです。
私達は森の奥から出てきたばかりで、知らないことが多いので……』
『ふむ……それならば、甲羅の暴君の方を買い取ろう。
出せるのは、金貨1000枚が限度だな』
『金貨1000枚って、どれくらいの価値なんです?
人間の町でも使えるんですか?』
金貨だから、たぶん安くはないだろうけれど……。
『人間の町で、豪邸が何軒も建てられるくらいだな』
となると日本円で、数千万円から数億円って感じ!?
大金じゃん!!
『いいんですか、そんなに……?』
『あの甲羅を加工して売れば、元は取れるだろう。
あれはいい防具の材料になる』
いかにも防御力が高そうだもんね。
それにドワーフの技術力で加工を施せば、家一軒分の価格になる防具がいくつもつくれるらしい。
『それじゃあ、それでお願いします』
『おう』
そんな訳で、商談はまとまった。
そして売れなかった方の竜を、空間収納に仕舞い込むと、ドワーフ達はちょっと残念そうな顔をする。
やっぱり素材としては、魅力的だったのかな?
だが、恩の安売りはしないでおこう。
過剰な施しは、お互いにとって良い結果にならないかもしれない。
そもそもあの影から助けた時点で、大きな恩を売っているはずだし、これ以上の配慮は必要無いだろう。
それからドワーフ達は、アルマジロの解体作業を始めた。
私はそれを見学することにする。
血抜きはしてあるので大出血することはないけれど、やっぱり生物がバラバラになっていく姿はグロいなぁ……。
ドワーフ達だって、血で汚れていく。
ん!? 今汚れていたドワーフが、突然綺麗になったぞ!?
汚れを落とす魔法……浄化魔法かな?
私達は「狐火」で全身を包むことで、熱による消毒をすることはあったけど、汚れ自体が消えるあの魔法は便利そうだな。
あの魔法も後で教えてもらうことにしよう。
それから暫くすると、ドワーフの子供……なのかな?
髭の無い男の子は間違い無くそうなのだろうけれど、女の人はちょっと年齢が分かりにくい。
ともかく子供と思われる集団が、こちらの様子を遠巻きに伺っていた。
私は子供達に向かって、チョイチョイと前足で手招きをする。
それを見た子供達は、怖々といった様子で近づいてきた。
そんな子供達に対して私は、「これがお手本よ」と言わんばかりに、シスを舐めて毛繕いして見せる。
『あっ……お姉ちゃん……。
気持ちいい……』
シスが恍惚で目を細める。
さあ、子供達(特に女子)よ、私にも同様の快感を与えておくれ!
すると子供達は私を真似るように、我が毛皮を撫で始めた。
ふむ……なかなかよろしくてよ。
でも、今や私の身体は、クマに殴られても平気なくらい強化されているので、もっと強くしても大丈夫だよ?
うん、撫でられて私達は気持ちいい。
子供達も、愛らしい動物との触れ合いで楽しい。
これぞギブアンドテイク!
事案じゃないよ?
ん……?
離れた場所に、1人だけ近寄ってこない子がいた。
薄着で男の子みたいな格好をしているけれど、女の子だよな……?
その子は、私の視線に気付くと、そのまま何処かへ行ってしまう。
『あそこにいたの、誰……?』
「~~~~」
私の問いに、子供達は何かしら答えていたけど、ちょっと何言っているか分からない。
か……解読班!!
だけど──、
「ナユタ」
という言葉だけは聞き取れた。
『ナユタというのは、あの子の名前?』
と、問うと、子供達は頷く。
ナユタか……なんだか寂しそうにしていて、ちょっと気になる子だな……。
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