蛇足 女神様と御狐様
最終回です。
「ん……ここは?」
気がつくと、私は真っ白な空間にいた。
ここは転生した時に、女神と会った場所だよね?
……そうか、私は死んだのか。
最後の方は朧気だけど、寿命が近づいていたような記憶はある。
「……うん、良い人生でした」
「それはなによりです」
聞き覚えのある声が、聞こえてきた。
これは女神の声──いや……。
「ようこそ女神の部屋へ」
「部屋……って。
こんな精神と時の●屋みたいな部屋は嫌です」
どこからともなく、女神が姿を現した。
以前会った時は、姿を見ることができなかったけど、今は見える。
ゲームの中の登場人物からは、プレイしている人間を観測することはできない──それと同様に、存在する次元の差がかつてはあったのだと思う。
今は私の存在が、その次元に近づいたから見える……ということなのだろうか。
が……、
「なんでクラリスの姿なんですか……?」
女神の姿は、見覚えのある少女の姿だった。
それでいて、気配は私にそっくりだ。
たぶんこの女神って、私だよねぇ……?
「あなたと違うルートを通った結果ですね、アイ……。
私の方では、アイは娘の名前でしたが。
ちなみにスライムでした」
それって、パラレルワールド的な存在ってことかな?
というか、私がスライムになった世界線もあったってこと!?
「なお私は、レイチェルやアリゼ、そしてクラリスを名乗っていました」
「懐かしい名前ですが……訳が分からないよ」
何がどうなってそうなったんだ。
クラリスの姿をしているってことは、他人の肉体を乗っ取る系のスキルか?
え……ヤバクない?
あの子達の身体を奪ったの?
「ようこそ神の領域へ。
ここに至った存在は、私を含めて2人目です」
「神……ですか?」
「様々な世界線の私に、色々なスキルを与えましたが、キツネの時点で命を落としたのが7割、人の姿になったものの途中で命を落とした者が2割、天寿を全うできた者が1割。
その中で神性を得たのは、私とあなただけですね」
「私はガチャで、大当たりを引いたという訳ですか」
「私は半分外れでしたけどね……。
ヘルモードだったからこそ、鍛えられて最強になれたともいえます。
あなたは逆に、ベリーイージーモードだったからこそ……ってところでしょうか」
え、ベリーイージーモードだったの、私?
結構苦労もしたような気がするけど。
いや……強さに関してだけは、そうでもなかったか……?
「そもそも、私のスキルってなんだったのですか?」
「実験的に『成長促進』と、『成長限界突破』の2つを持たせました。
初期からスキル2つ持ちは、あなただけです」
ああ……だから一族の中で、10本尻尾に至ったのは私だけだったんだ。
成長するだけなら、他の子達にもそれができる時間と機会はあったはずだ。
特にネネ姉さんは、食べてエネルギーを溜め込める能力があったから、10本尻尾も不可能ではないと思っていたけど、結局は駄目だった。
そうか……レベルがカンストしていたのか……。
「……で、結局のところ、なんで私はここにいるのですかね……?」
「ああ、折角神性を得たのですから、私の助手として働いてもらおうと思いまして。
天使とか神使とかそんな感じで。
私はワンオペでいくつもの世界を担当しているから、大変なのですよ」
「え……なんで私が私の下で、働かなければいけないんですか……」
せめて平等な待遇を要求したい。
「実力的には私の方が上なので、格付けは仕方がありません。
くぐってきた修羅場の数が違うので。
ちょっと記憶を共有してみましょうか?」
「おろろろろろ……!」
突然、頭の中へ大量に流れ込んできた記憶によって、私は吐いた。
霊体なのになんで!?
でも、それくらいの衝撃だった。
なんだか家族がシス以外全滅したり、男に陵辱されて殺されたりした記憶が混じっていて、かなりキツイんですけどぉ!?
これに耐えてきたのなら、確かに精神的な格が違うわ、この女神……。
「まあ、時折リーザさんに話しかけるだけの簡単なお仕事ですし、三食昼寝付きですよ~?」
え、リーザに変なお告げをしていたの、私なの?
「……時給は?」
「250円で……」
低っ。
何処のゴーストスイーパーの助手だよ。
まあ、お金をもらっても、使い道は無さそうだけど……。
でも、ブラックな臭いがすることには、変わりが無いよ!?
「どちらにせよ、あなたに拒否権は無いのですよ。
それとも、また転生しますか?」
う~ん、人生は嫌と言うほど味わったから、転生はもういいかなぁ……。
かといって、今の記憶を無くすのは勿体ないから、すべてを捨てて別人格に転生し、最初からやり直すのも、何もしないで無に還るのを待つだけってのも嫌だし。
「仕方がありませんね……。
やります、やりますよ!」
そんな感じで、私は女神の使いをすることになった。
それはつまり、御稲荷さんのキツネみたいなものだね。
機会があれば、別の世界にも降臨することができるかな?
そう、異世界にまた征くんだ。
それはちょっと楽しみだな。
百合狐、異世界を征く。 完
これにて完結です。今までブックマーク・☆での評価・誤字報告・いいね・感想などでの応援をありがとうございました!
今作はほぼ先の展開を考えずに、行き当たりばったりで書いたので、無事に完結できてホッとしました。ただ、やっぱりもうちょっと時間をかけて書いた方がいいのかも……と思う部分もあった為、次の作品は、もっと時間をかけて執筆しようかなぁ……と、思っています。
で、最新作も既に始めています。
『異世界で美少女になった俺は、平和的な死の商人を目指します。』
https://ncode.syosetu.com/n2492ir/
こちらもどうかよろしくお願いします。