エピローグ2 キツネの王国
「いいわね、併合。
そうしましょう」
後日、アーネ姉さんから話を持ち込まれたクラリスは、あっさりと承諾した。
「そんな簡単に!?」
「それじゃあ、新王はアイ殿ということでよいな」
「異議無し~」
3人の女王によって、なんだか勝手に話が進んでいく。
「実力が上の者がいるのなら、その人に王を任せた方がいいじゃない。
人にはそれぞれに、相応しい立ち位置という物があると思うわ」
「大体王になるなるのが嫌と言いつつも、我々の意向に逆らえるというのがおかしいのじゃ。
平民ならば、王の命令は絶対遵守じゃろう。
ということで、王になるのじゃ、アイ殿」
「いや、その理屈はおかしい……です」
だけど確かに王達の威光に逆らえるということだけでも、私が特別な存在だということの証明になってしまうなぁ……。
一般市民の間でも、そういう声が広がっているらしい。
誰だ、情報操作しているのは!?
レイチェル辺りか……?
「アイちゃんも、私のように宰相にお仕事を投げてしまえばいいのよ~。
あとは後宮でも作って、楽しく暮らそうよぉ~」
「姉さん……何を言って……?」
「可愛い女の子が好きなんでしょ~?」
ぐっ……姉さんに対して公言したことは無いのに、ばれてる……!
「そうじゃな、そろそろ結婚相手もきめんとな。
妾でもよいぞ?」
「ちょっと、お姉様と添い遂げるのは私よ!!」
おいクオ、なんで王城の首脳会談をしている場所に、入り込んでいるんだよ!?
「じゃあ、余も~」
「マオまで!?」
「母上!?」
その後も手を上げる者が続出した。
ああ……なんだか外堀を埋められて、押し切られる予感……。
その大陸には、国が1つしか無かった。
だが、その国にはあらゆる種族が共存し、大層栄えていたという。
人もドワーフもエルフも獣人も魔族さえも──。
ただその国には一風変わった文化があり、赤いキツネを神の使いとして神聖視していたそうな。
それどころか、初代国王がキツネだったという神話すらあり、歴代の王族はその子孫だとされている。
また、女性の地位が高く、基本的には女王が国を治めていた。
そして更に、世界で初めて女性同士の結婚が合法化された国であり、しかも女性同士でも妊娠出産できる者が多くいることでも世界的に有名だったった。
それ故に医学的な注目を、世界中から集めたこともあったという。
その国は形を変えてしまい、現在ではそのままの姿をとどめていないが、それでも世界への大きな影響力は残している。
その国の名は、こう呼ばれていた。
神聖キツネ王国──と。
「……私のネーミングセンスじゃないよ?」
誰に対して言うでも無く、私は独りごちる。
歴史書を読んでいて、なんだか色々と昔のことを思い出した。
国名を考えたのは、確かシファだったような……。
その国も、今は同じ形では存在していない。
数百年前に、体制が変わってしまった。
その詳細については、私はノータッチなのでよく分からないんだよね……。
国王としてはとっくに引退しているから……。
今の私は、田舎の小さな神社で、御神体をしながらスローライフを送っている。
なんだか物理的に会える神様として、結構有名だ。
ちなみに御利益は、恋愛成就──ただし女性同士に限る……である。
まあ、利益なんてものは実際には無く、恋愛相談に乗る程度だけどね。
君のラブを見せてくれ……って感じで聞いているだけ。
だって、「生き神」とか呼ばれても、私は本当に神様な訳じゃないし。
……って、おかしい……本来は恋愛の「れ」の字も無い護国神社だったはずなのだが……。
私が国の守護神として祭り上げられた結果が、この神社だった。
国に何かあった場合は、私が国を守る為に動くことになっている。
それが歴代の王──私の後継者達との約束。
……まあ、平和な時代が長く続いたおかげかね……。
あれから随分と時間が経って、もう当時の仲間は殆ど生きていない。
みんな生物として頂点に達した私よりも、寿命が短かった。
それでも彼女達と私の子孫がよく遊びに来るから、そんなに寂しくは無いけどね……。
「おばーちゃーん!」
ほら、また誰か来た。
「はいはーい……って、お姉さんと呼びなさいと、言っているでしょ!」
見た目は昔から変わっていないのに、お婆ちゃん扱いはやめろください。
確かに続柄では、曾孫のそのまた曾孫の……ちょっともうよく分からないくらい遠い子孫だけど。
私はこの子達を見守りながら、これからも生きていく。
この寿命が続く限り、ずっと──。
今回で実質的に最終回ですが、次回の「蛇足」で最後です。