20 大魔王
「なっ……貴様はーっ!?」
クジュラウスが狼狽えている。
まあ、マオだと思っていた存在が、急に私の姿に変じたのだからね。
そう、このアイさんの姿に!
ちなみに私を拘束していた鎧は、素手で破壊させてもらった。
「で、では、先程倒したのは!?
別の天狐族だったのか!?」
さっきこの宇宙要塞を相手に、戦った子ね。
「あれも私ですよ。
分身の1体ですけどね」
「ぶ、分身……?」
「ただし能力は、私と同等の──ですが。
魔力を少しずつ尻尾に溜め込み、私と同等になったら切り離して、分身として活動させていました」
とはいえ、能力は私と同等でも、私ほどの思考能力は無いけどね。
あくまで予め与えていた命令通りに動く、ロボットのような存在だ。
これは以前アーネ姉さんが仕事をさぼりたいとタダをこねた時に、身代わりを用意する為に考えた方法の発展系である。
まあ、元ネタは白●の者の尻尾だけど。
ただしそれぞれの尻尾に、個性は持たせていない。
将来的には霧化したり、群体化させたりしようかね。
「し……尻尾……!?
だが今、貴様には1本も……っ!!」
無いね。
それはつまり──、
「気付きましたか。
残り8体が別行動中ということですよ。
あなたの軍勢による各国への攻撃も、影ながら邪魔させてもらいました」
分身達の元々の役目は、クジュラウスの居場所を突き止めることだった。
私が世界中を捜しまわっても、見つからなかったからねぇ……。
まさか宇宙空間にいるとは……。
『FF Ⅰ』のティア●ットかよ!
見つからないはずだよ……。
だから分身を各国に潜ませて、クジュラウスが動くのを待っていた。
私の知り合い達に対しても極秘裏に。
敵を欺くには、まず味方から……とも言うしね。
私が姿を見せなければ、その隙を突いてくると確信していたよ。
正面から戦っても、勝てる見込みなんて無かったのだろうし。
そして予想通り、クジュラウスは軍勢を仕向けてきた。
軍勢が動けばある程度は事前に察知できるし、そこに分身を潜入させて、情報収集することもできる。
集団を動かす為には指揮系統は必ず必要になるから、そこでの「念話」でのやりとりを傍受するとか……ね。
そんな各所からの情報を総合すると、宇宙に拠点があることはなんとなく分かっていたが、マオが攫われそうになっているのを見て、「幻術」でマオの姿になって咄嗟に入れ替わったので、捜す手間が省けたなぁ。
ああ、「幻術」と言えば──、
「先程の波動砲弾とやらも、不発ですよ」
「なっ!?
巨大な爆発も確かに……!!」
「砲弾は分身達の『空間収納』に収めています。
爆発は……我々天狐族が、『幻術』を得意としているのはご存じですよね?」
爆発で消滅したと思い込ませておけば、それ以上の攻撃はされないからね。
だから「幻術」で、実際に爆発が起こったかのように偽装した。
ただ、本来はどの程度の爆発が生じるのか、その辺は分からなかったので、あくまで私の想像を──原爆のイメージを反映させた形だが……。
それが上手く波動砲弾とやらの効果と、合致してくれて良かったよ。
単に毒ガスを撒き散らすようなものだったら、偽装だとバレていただろうなぁ……。
「ば……馬鹿な、あの規模の幻術だと……!?
この宇宙空間から視認できる規模だぞ!?」
「できるのだから仕方がありませんね。
あなた程度が、この私の力を推し量ることができると思わないでください。
伊達に一部から、大魔王と呼ばれている訳ではないので」
なんかアカネに適当なこと言ったのが、定着しつつあるんだよなぁ……大魔王。
いずれにしても、クジュラウスごとき小物に、ラスボスムーブなどさせぬわ。
まあ実際、あいつにとっては私がラスボスだろうしね。
でも、負けてやるつもりは一切無い。
ボスに絶対勝てないクソゲーがあっても、いいじゃない?
「さて……そろそろあなたに煩わされるのも、うんざりしていたところなので、ここですべての決着をつけましょうか。
宇宙空間では無敵を誇るこの要塞とて、内部に入り込まれてしまってはどうしようもないでしょう?」
そう、『一寸法師』の逸話にあるように、どんなに強大な敵でも、その内部から攻撃すればあっさりと倒せるというのは、定番の1つである。
ただ、このまま全部吹き飛ばしてしまうというのは簡単ではあるけど、そういう訳にもいかない。
『では、クジュラウス以外の者達には、降伏をお勧めします。
私に従うのなら、命までは取りません。
降伏するつもりがあるのなら、手を上げてください。
この要塞と運命を共にしたくはないでしょう?』
「なっ!?」
私は「念話」によって、要塞内の魔族に呼びかける。
ついでに要塞内のあちこちに、「狐火」を発生させた。
この要塞の外は宇宙空間だから、逃げ場なんか存在しないし、脱出も難しいだろう。
だから助かりたい者は、私に頼るしかない。
うん、クジュラウスは絶対許さないが、それ以外の連中はどうでもいい。
本意ではなくても、立場上は彼に従わなければならないような者達もいるだろうしね。
たとえば家族を人質に取られているとか……。
ただし野放しにもできないので、奴隷契約の術式で行動は制限させてもらうが。
お、手を上げている者が殆どだね。
さすがに、「狐火」で炙られたら、命の危機も感じるか。
じゃ、奴隷契約術式を付与した上で、地上に「転移」させる。
……手を上げなかった者は知らん。
「くっ……貴様らっ!?」
司令室にいた人員も、全員「転移」させた。
それを見て、クジュラウスは慌てる。
「どうやら、あなたに地獄まで付き合おうと思う者は、いないようですね」
人望が無いなぁ、クジュラウス君?
さあ、どんな最期がお望みだ?
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次回は来週後半のどこかになるかと。