19 宇宙要塞戦
お待たせしました。
「来たか、女ギツネ……!」
我が宿敵とも呼べる女ギツネが、この「宇宙要塞アスガルド」へと、高速で飛翔して向かっている。
この司令室に備え付けられた、遠く離れた場所を映し出す魔道具──「千里眼の水晶板」に、そんな奴の姿が映し出されていた。
だが、今我々が拠点としているこの要塞は、世界のはるか上空──宇宙と呼ばれる空間だ。
簡単には辿り着けないだろう。
まさに不幸中の幸いか……。
あの女ギツネによって、ようやく地下から掘り出して復活も間近となっていた古代兵器・「終末の巨人」を破壊された私は、他の古代兵器を探し求めた。
しかし古代文明の痕跡は、当然簡単には見つからない。
古文書を解き明かし、遺跡の位置を特定する為に、私の探索の手は遠い別の大陸にまで伸びていた。
そしてようやく発見した遺跡で、このアスガルドに通じる転移門を発見したのだ。
結果的に「終末の巨神」に匹敵する力を、私は得ることができたと言える。
この要塞の外は、ほぼ無の世界だ。
生物はその空間に放り出されただけで、瞬時に命を失う。
大気すら存在しないから、そこに含まれる精霊も存在しない。
つまり精霊の力を借りる魔法も、使うことはできないのだ。
あの女ギツネが得意とする「火属性魔法」も、著しく力を落とすだろう。
そもそも奴ら天狐族は、その力の源を炎としている。
その炎すら無いこの空間で、あの女ギツネはどれほど生きられるのだろうな?
ただ、生物がこの要塞に接近できること自体が脅威だ。
上空へ行くほど空気は薄くなり、気圧や温度の変化も生じる。
それを生身で耐えられる生物は少ない。
ましてや宇宙空間を簡単に突破できるとも思えないが、油断はせぬ……!!
「高機動追尾砲、全砲門撃ぇ!!」
この要塞に備え付けられた装備は、魔王城よりもはるかに上だ。
魔王城も古代文明の遺物ではあるが、所詮は地方の一要塞だったらしいからな。
その点この「アスガルド」は、古代文明において重要な軍事拠点だったようだ。
それだけに、装備の質が違う。
撃ち出された数百を超えるエネルギー弾は、女ギツネに殺到していく。
奴は悉く回避していくが、エネルギー弾は軌道を変えて追尾する。
「くくくく……そのままなら、永遠に追い続けるぞ」
実際、女ギツネは逃げ切れぬと感じたのか、「魔力障壁」を展開してエネルギー弾を誘爆させた。
何かに当たるまでは追尾は終わらないと悟り、わざと攻撃を受けたか。
普通ならその爆発には耐えられないのだろうが、あの女ギツネならば耐えきるだろうし、このまま逃げ続けるよりはマシと判断したのだろう。
だが、無傷ではあるまい。
このままでは終わらぬぞ。
「第2射、用意」
奴が落ちるまでは、何発でも撃ち続ければいい。
この要塞に満ちるエネルギーは、太陽から吸収し続けており、まさに無限にも等しいからな。
そんな風にエネルギー弾の猛攻を受け続けた女ギツネは、徐々に弱っていく。
動きも鈍ってきたな。
そろそろトドメか。
「主砲──『劫火の剣』、発射用意」
「劫火の剣」は、「終末の巨人」にも装備されていた古代文明における最終兵器だ。
1度撃ち出せば数日は使えないほど莫大なエネルギーを消耗するが、それだけにその威力は強力無比。
あの女ギツネとて、直撃を受ければ消滅は免れないだろう。
それに無数のエネルギー弾に追尾され、その対応に追われている女ギツネに、「劫火の剣」を回避できるほどの余裕は無いはずだ。
最早、逃げ場無し!
「エネルギー充填120%、ターゲットロックオン。
いつでも撃てます」
よし、発射準備も整った。
ついにこの戦いも終わるぞ。
「さあ、魔王様。
あの女ギツネの最期ですぞ」
「…………くっ!」
私の言葉を受けて、ゼファーロリスは悔しげに顔を歪めるだけだった。
今や子供同然のこやつには、もう為す術も無いようだな。
「『劫火の剣』──発射!」
直後、「千里眼の水晶板」から、眩い光が溢れ出す。
膨大なエネルギーの塊が撃ち出され、女ギツネを飲み込まんと迫っていった。
ところがそれを相殺しようとしたのか、女ギツネも巨大な炎の塊を生み出して撃ちだしたのだ。
「馬鹿な、何処にそんな力が!?」
この宇宙空間では、火の精霊に力を借りられないはず……。
仮に体内に残る魔力を糧としたとしても、あれだけの巨大な炎を生み出すなどとは……。
いや、まさかこの要塞と同じように、太陽の力を借りたのか……!?
太陽も巨大な炎の塊だと考えれば、炎を自在に操る天弧族のことだ。
その力を吸収するのも、まったく有り得ない話ではない。
そんなことまでできるとは、つくづく侮れぬ女よ……!
だが、所詮は悪あがき。
奴が放った炎は、「劫火の剣」を数秒ほど押しとどめたが、その後は抗しきれずに霧散する。
当然その後はあの女ギツネも、「劫火の剣」のエネルギーに飲み込まれた。
「ふっ……ふははははっ!!
やった、ついにやったぞっ!!
これでもう邪魔者はいなくなった!!」
あとはもう、ゆっくりと好きなように研究を繰り返し、世界の真理を解き明かして行こうぞ。
それができる時間と力が私にはある。
だが──、
「ふむ……私1人分の力では勝てないか……」
「!?」
その時、ゼファーロリスが、奇妙な発言をした。
そしてその姿は、瞬時に別の姿へと──。
いつも応援ありがとうございます。
仕事の関係で、更新は不定期です。