18 逆賊の野望
お待たせしました。
我が名はクジュラウス。
いずれは魔王の座を奪い、そして世界を支配する存在だ。
ただし世界を支配することになんぞ、私は興味を持っていない。
私が欲するのは、世界の真理──。
それを解き明かす為に、世界を支配して自由に研究する為の下地を作ろうとしている。
世界を欲するのは、あくまでも手段だ。
しかしそんな我が野望を邪魔する、女ギツネがいる。
魔王ゼファーロリスを使って、魔物の支配力を高める研究も、古代文明の兵器を復活させる計画も、そいつに邪魔をされた。
何百年もかけて進めてきた計画を、よくも……!
しかも今や奴は、この大陸にあるすべての国で、事実上の最高権力者的な立場となっている。
奴の所為でどの国も盤石の体勢になりつつあるし、このままでは一国だけでも我が邪魔となるだけの勢力へと成長するだろう。
そうなってしまう前に、奴を排除しなければ……っ!!
ところがだ、あの女ギツネは突然姿を消した。
結果的に、各国は防衛能力が大幅に下がり、今こそが攻め時に見える。
だが、下手に動けば、それが奴の罠だったということも有り得るだろう。
迂闊に関わって、手痛いしっぺ返しを受けたこともあったからな……。
だから私は、時間をかけて戦力を集めることにした。
その戦力で狙うのは、奴が大きく関わっている4つの都市。
1つ、魔王国首都・パンデモニウム。
1つ、トウキョウ自治領領都・トキオファイアーフォックス。
1つ、ローラント王国王都・チャンドラー。
1つ、クバート帝国帝都・パララキア。
この4都市を同時に攻める。
しかも復活させた勇者に、蟻神クオハデスの複製体、そしてかつての魔王ベルゼブルの複製体──更に培養した魔物や、合成したキメラの群れ。
今用意できる最大最強の戦力だ。
さしもの女ギツネも、これだけの戦力から同時にすべての都市を守り切ることはできないだろう。
そして必ず隙が生じるはずだ。
その隙を突いて、魔王ゼファーロリスを手に入れることができれば、取りあえずの目標は達成できる。
ゼファーロリスの能力は、魔族と魔物を支配し、無敵の軍団を作り上げる為には必要だからな……。
しかし……まさかあの女ギツネ本人が現れず、その眷属達だけで我が軍勢が撃破されるとはな……。
他の天狐族の能力を、甘く見ていたということか。
目的のゼファーロリスは確保できたが、被害は決して小さくはない……。
だがそれでも、これで新たな──それでいて、更に強大な軍勢を構築することができる。
「くははははは。
お久しぶりですね、魔王様。
随分と可愛らしい姿になったようで……」
「…………」
私の前に引っ立てられたゼファーロリスは、何も答えない。
昔から口数が少なく、何を考えているのか分からないところがあった。
だが、彼女が何を思っていようが、その身体を羽交い締めにしている自動甲冑は、魔法を封じる能力を持っている。
ましてや子供の姿になってしまったゼファーロリスでは、筋力によって振りほどくことも不可能だろう。
……さて、こうなればもう、例の国々は邪魔だな。
我が軍勢を打破できる戦力を有するのは、あの女ギツネに次ぐ脅威だ。
今後私の邪魔をさせない為にも、消えてもらおうか。
「波動砲弾、発射用意。
標的は、各国首都とクラサンドのダンジョン──」
「何をする気……?」
ここに至って、ゼファーロリスが初めて口を開いた。
「くくくく……私が発掘した古代兵器を研究し、実用化した波動砲弾──。
都市の1つくらいなら、跡形も無く消し去ることができる。
それを各国へ撃ち込んで、邪魔者を一掃しようというのだ」
あの女ギツネも、帰る場所が無くなれば、さすがに我が敵となったことを悔やむでであろう。
あるいは、何処に潜んでいるのかは分からぬが、国々と一緒に運命を共にするかな?
クラサンドのダンジョンは、奴が潜伏している可能性があるので、同時に潰しておく。
「やめろ……!」
ゼファーロリスは私を睨めつけるが、それ以上のことは何もできないだろう。
そこで無力な自身を呪いながら、本当の滅びという物を、目に焼き付けるといい。
「各標的へ同時に着弾するように、時間をずらしつつ順次発射せよ」
あの女ギツネとて、遠く離れた5つの都市を同時に守ることはできないだろう。
これは「転移魔法」を駆使しても不可能なはずだ。
次々に発射される波動砲弾。
さあ、忌まわしき国々よ、貴重な兵器の実証実験の場として役立ってから消えよ!
それから数分後、5つの巨大な爆発が生じたのが、ここからでも確認できた。
……?
だが、想定よりも威力がやや小さいような……。
あの女ギツネか、その眷属が無駄な抵抗でもしたのか?
いずれにしてもあれだけの爆発ならば、標的の都市は確実に壊滅しているはずだ。
都市とその周囲にいたあらゆる生物は、死滅しているだろう。
あるいは大陸の気候すらも、大きく変動するかもしれない。
だが──、
「ク、クジュラウス様!!」
「何事だ?」
部下が切羽詰まった様子で、私を呼んだ。
「高速で何者かが、ここへ接近しております!!」
「ほう……」
あの女ギツネか?
波動砲弾の弾道を逆算して、この位置を割り出したとでもいうのだろうか?
まったく油断のならぬ……!
だが、ここまで辿り着けるかな?
この古代文明が残した宇宙要塞、アースガルドへと!!
いつも応援ありがとうございます。来週はもうちょっと更新したい……。