17 標 的
お待たせしました。
さて……クオハデスの複製体、をどう倒せばいいのかな……?
ダメージを与えること自体はできる。
だがそれは余にとって、かなり負担のかかる戦闘方法を用いていた。
余には魔物を操り、そして味方の潜在能力を一時的に引き出して、戦闘力を向上させるスキルがある。
それを余自身の身体にかけることで、普段の身体能力を超越した動きが可能になるのだ。
自分自身を操り人形にしている感じ……。
……まあ、これは消耗が激しいし、無理な動きをすれば筋肉が断裂し、骨が折れる。
逆に言えば、ダメージで動かないはずの身体を無理矢理動かして、戦闘を継続できるということでもあるけど……。
ともかくこれで、クオハデスにはついていけないほどの素早い動きで翻弄し、そして強力な攻撃を叩き込むことができる。
この繰り返しで、普通の魔物ならばとっくに息絶えているようなダメージを与えていた。
しかしクオハデスの装甲をいくら破壊しても、脱皮をして完全に再生する。
普通……エビとかって、脱皮すると甲羅が柔らかくなるのに、防御力がそのままってどういうこと……?
ただ……オリジナルのクオよりは知能が低いのか、行動パターンが単純なのは戦いやすくていいけど……。
……頭を潰せば、さすがに死ぬかな……?
余は掌に魔力を集中し、「熱線」をクオハデスの頭部に向けて撃ち放つ。
この「熱線」はアイママから教えてもらったもので、「火属性魔法」の中でも特に威力が高い。
……が、
「ギュアアアァァァ!!」
余の力では倒し切れない……。
これは「熱線」を何発も撃ち込んでも同じことだろう。
このままでは、クオハデスを倒すのは難しい。
根気強く「熱線」での攻撃を続ければ、いつかは力尽きてくれるかもしれないけれど、余の方が先に魔力が尽きるかもしれない……。
それならばココア達に、力を借りた方が良さそうだね……。
『ココア、最後の大物を倒すのを手伝って。
全員でやれば、すぐに片付くと思う……』
『はい、アリ達も片付いたから、いいですよ。
みんなー!』
ココアが号令をかけると、天狐族がクオハデスへ一斉攻撃を始めた。
ココアのように人型にまで至った完全体は他にいないとはいえ、それでもある程度成長した天狐族は並の魔族よりも強い。
その天弧族が集団で、四方八方から攻撃を撃ち込んでくるのだから、さすがにクオハデスも逃げることすらできないよね……。
あ、勿論余も攻撃をするよ。
「ギュアアァァァァ!?」
炎に包まれたクオハデスが、悲鳴のようなものを上げている。
まあ……アリだから、本当は何を言っているのか、よく分からないけれど……。
こんな意思疎通が難しい存在を、よく魔王にしたね、当時の魔族は……。
いや、その頃は単に1番強い存在を、魔王と称していただけなのかもしれない。
だから彼女が封印されたというのも、実際には害虫を駆除したような感覚に近いのかもしれないなぁ……。
ともかくこれで、王都を襲った魔物達を、無事に殲滅することができそうだ。
私はココア。
憧れのアイお姉様に少しでも近づけるように、毎日努力しています。
今日もお姉様に逆らう愚かな魔物達を殲滅する為に、弟妹達を率いて戦っているのですよ。
「リゼ、チノは右へ!
シャロとチヤは左から敵を追い込んで!」
『『『『はーい!』』』』
私は妹達に指令を出します。
彼女達は選び抜かれた私の側近で、お姉様が名付けました。
更に「ご●うさ隊」という、チーム名も与えられています。
……それがなんなのかは、よく分かりませんが。
お姉様はたまに私の理解できないことを言いますが、偉大なお姉様のことです。
凡人には計り知れない、何か深謀遠慮があるのでしょう。
少なくともチームを結成しているのは、姉妹の中でも私だけなので、お姉様からリーダーとして期待されていることを感じますね!
そんな訳で、敵の首魁と思われる巨大アリも、頑張って倒しますよ!
マオですら倒せなかったようですから、我らが仕留めればお姉様からの評価も上がるというものです。
さあ、アリの丸焼きの完成ですね!
以前お姉様にいただいた、同タイプの巨大アリのお肉は美味しかったので楽しみです。
「マオ、怪我はありませんか?」
私は巨大アリの前で立ち尽くしているマオに、語りかけます。
さすがに一時的とはいえ、この巨大アリを1人で抑えていたのですから、疲れているようです。
「……大丈夫。
でも助かった。
ありがとう」
「どうやら、こちらの人的被害も軽微のようですし、壁が破壊されたこと以外は、物的被害もそれほどではない様子。
まあ、大勝ですね」
「ん……でも、攻め込まれたこと自体は、我々にも油断があったことの証明」
「そうですね、今後は警戒しませんと……」
そんなことを話し合っていたその時、突然巨大アリの死骸が爆発しました。
「なっ!?」
「あっ!」
そして爆発と同時に、巨大アリの死骸から何かが飛び出したのを、爆炎で視界が悪い中、私は確かに見ました。
それは黒い鎧のようでした。
そしてその鎧は、マオを抱きかかえて、そのまま「転移」したのか、その姿を消します。
「ちょっ、マオ~っ!?」
マオか攫われた!?
敵の標的は、最初から元魔王の彼女だったのですか!?
私は思わず叫び声を上げると──、
「……はい?」
返事が聞こえてきます。
その声の方を見ると、爆発で生じた瓦礫に半分埋まっているマオの姿がありました。
「……え、じゃあ、今のは誰です?」
その答えを教えてくれる人は、この場にはいなかったのです。
ちょっと忙しいので、更新ペースが不定期になります。