15 茜色の剣
奥義「雷刃」──。
2振りの刀に、「風属性魔法」の雷気を纏わせ、全力で振り下ろす技だ。
大魔王アイ様は、「示現流からヒントを得ました」とか言っていた。
ジゲンリュウがなんなのかはよく分からないけど、とにかく全身全霊の一撃を打ち込んで、相手が反撃する間も無く倒すのが目的だ。
それだけに直撃を受ければ、勇者であるご先祖ですらも無事では済まないだろう。
事実、ご先祖に直撃した斬撃は、全身を覆っていた鎧を打ち砕き、顔を隠していた仮面を弾き飛ばした。
普通の人間が相手なら、即死の手応えだ。
しかし──、
「こっ、これは……!?」
そこに現れるはずの、ご先祖の素顔は無かった。
皮膚も肉も無く、骨があるだけだ。
全身が骨だけの存在──。
クジュラウスめ、よりにもよってご先祖を、死に損ない系モンスターとして復活させたのかっ!!
こんな生前の面影も無い哀れな姿にするとは、なんという辱めを……っ!!
「──っ!!」
ご先祖が刀を振るう。
今しがた受けた「雷刃」のダメージから、もう回復しているっ!?
死に損ない系特有の、再生能力か!?
しかも──、
「速いっ!?」
全身を覆っていた重い鎧が無くなった所為か、ご先祖の動きが先程よりも俊敏になっている。
そして高速でボクの周囲を走り回り、前触れも無く唐突にボクの方へと突進してきた。
「あぐっ!!」
ご先祖が放った突きが、ボクの脇腹をかすめる。
浅くだけど皮膚が裂け、血が滲む。
元々突き技は速くて躱しにくいとは言え、空間を跳躍する居合「虚空断」に匹敵する厄介さだ。
それに今のご先祖の身体は、斬っただけでは滅ぼせない。
魔法で完全に消滅させるか……。
しかし魔法と斬撃の複合技である「雷刃」で倒せなかったことを考えると、難しいな……。
死に損ない系の弱点だとされている「光属性魔法」ならば分からないが、それはボクにとって得意属性ではない。
う~ん……「光属性魔法」は、姉弟子のナユタさんや、宮廷魔術師のアリゼさんが使えるが……。
低レベルでいいのなら、クオもか。
いや……勇者1人くらい自力で倒せなければ、大魔王様の側近は相応しくないな……。
取りあえず1人で、やれるだけやってみるかな。
しかし鎧を失ったご先祖は、本当に素早いな……!
攻撃を避けるだけでも、かなり大変だ。
ん……待てよ?
鎧を脱いだ方が強いのに、なんで鎧を着ていた?
「ちっ!!」
いてっ、頬にかすった!!
考え事をしながら攻撃を回避するの、ちょっと辛いぞ!!
でも、考えなきゃ……!!
え~と……スピードを犠牲にするというデメリットがあるのに、それでも鎧を着てたということは、それなりにメリットがあったってことだよね。
まさか骨だけになった姿を隠したかっただけ……とは、思えないし。
少なくとも鎧を失ったことで、防御力は落ちているはずだ。
骨だから、刀で簡単に斬ることはできる。
ただ、再生はするんだよねぇ……。
だけど破壊することはできる。
粉々にすれば再生しない?
「千刃!!」
「グガガガガ!!」
ボクの攻撃で、ご先祖はバラバラになった。
鎧には効果が無かった攻撃が通る。
だが──、
やっぱり再生して、元の状態に戻るな……。
それじゃあ、魔法で消滅させたらどうだろう?
……よし、炎で燃やすか。
炎の大魔王たるアイ様の配下ならば、ボクだって炎を究めてみせるさ!
それに炎だって灯りを生むし、広義では光属性だ……と思う。
「秘剣・炎の波濤!」
「ガァッ!!」
ボクは2振りの刀に炎を纏わせ、ご先祖に叩き込んだ。
よし、炎で焼き切った部分は、再生が遅い。
完全に焼き尽くしてしまえば、復活しないかもしれない。
だが──、
「ガッガッガッガッ……!!」
苦しんでいるのか、それとも笑っているのか、ご先祖は炎に包まれながらも不気味な声を上げた。
どうにも今の一撃だけでは、燃やし切れない。
そんなご先祖は、刀を天に向けて振り上げる。
ヤバっ、元祖「雷刃」ともいえる技が来るっ!!
回避は──無駄だろう。
事実、ご先祖が刀を振り下ろした瞬間、ボクのいた周囲一帯に空から巨大な雷が降り注いだ。
閃光と轟音ですべてが満たされる。
「あ゛あ゛っ!!」
ボクは全身を魔力で防御したけど、全然足りない。
身体に電流が流れ、意識までもが断続的に白く染まった。
全身も火傷だらけだろう。
このままでは倒れる。
だけどここで倒れたら、そこで終わりだ。
そのまま殺される。
ならば気力で踏みとどまる。
気力で戦いを続ける。
「お、奥義……炎竜の舞」
ボクは炎を纏った2振りの愛刀を振るう。
振って振って、ひたすら振る。
ご先祖を燃やし尽くす為に、何度でも焼き切る。
でも、まだ足りない。
炎が──火力が。
もっと燃えろ。
このボクの名のように赤く、紅く!!
「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
炎が勢いを増す。
もう、ご先祖の身体を、何回斬ったのか分からない。
そして──、
「ミゴトダ……」
そんな声が聞こえたような気がした。
気がつけば、ご先祖は完全に炎に包まれていた。
「か、勝ったのか……?」
あまり実感は無い。
思えば、途中から火勢が強くなったのも、何かが力を貸してくれたかのような……。
まさか──?
「大魔王様……?」
そう声に出してみたが、誰も答えることは無かった。
あ……限界。
これから倒れるけど、誰かがボクを安全なところまで運んでくれることを期待しよう。
おやすみ……なさい。
▶奥義と秘剣の違いは?
アカネ「ノリだけど?」
なんだかプライベートが忙しくなりそう……ってところで、更に体調も崩し気味……。本格的に忙しくなったら、更新が不定期になるかもしれません。まだ本決まりではないですが……。