14 閃く白刃
「シャアァァァァーッ!!」
奇声を上げて、ご先祖が斬りかかってきた。
以前フブキ兄が遭遇したご先祖は、ボクの「アカネ」という名前に反応して戦闘をやめたという。
この名前はご先祖の孫娘からもらったものだけど、その時のご先祖にはきっと、孫娘の記憶が残っていたのだと思う。
しかしボクは今、「アカネ」と名乗りを上げたのに、ご先祖はまったく反応しなかった。
ご先祖は既に、人の心を失っているのか……。
だけど同情してはいられない。
ご先祖の撃ち込みはあまりにも速く、油断をしていたら、怪我では済まないからだ。
まあ、大魔王アイ様による9本尻尾での攻撃に比べたら、ぬるいとすら感じるが。
さあ、ボクも反撃だ。
「百刃っ!!」
二刀流──両手にそれぞれ刀を持つことで、攻撃の手数を増やす。
いや、片方の刀で敵の攻撃を受けて、反撃するってこともできるけどね。
でもこの「百刃」は、純粋に攻撃回数を主眼に置いた技だ。
ボクですら数え切れないほどの、無数の斬撃がご先祖へと降り注ぐ。
しかしご先祖は、そのすべてを躱すか、刀で受け止めていた。
それならば──、
「千刃!」
斬撃の速度を上げる……だけではない。
斬撃の中に、「影属性魔法」で作り上げた刃を混ぜ込む。
攻撃回数が、一気に倍以上へと膨れ上がった。
さすがにこれならば、物理的にすべてを防ぐことはできないだろう。
まあ……「転移魔法」で逃げたり、「防御魔法」で防ぐのならばともかく、ご先祖はあまり魔法を使うタイプではないらしい。
事実ご先祖はボクの攻撃を躱すことができず、鎧に無数の傷をつけることとなった。
でも、浅いな……。
手数を増やしても、威力が足りないのでは、決定打にならない。
もっと一太刀一太刀に、力を込めた方がいいのだろうか……。
そんなボクの躊躇を見抜いたのか、ご先祖は刀を鞘に収めた。
「くっ……!!」
ヤバイ、居合が来るっ!!
それは刃を鞘の中で滑らせて、斬撃の速度を上げる抜刀術──。
しかもただの居合ではない。
『勇者の居合は、厄介だった……』
と、以前マオ様から聞いたことがある。
その居合は、距離なんて関係無かった。
視界に入っていれば、どんな間合い・どんな方向からでも斬ることができる。
おそらく、空間を跳躍する斬撃だ──と。
名付けるならば、「虚空断」とでも呼ぼうか。
「ガッ……!!」
避け損ねたっ!
左の二の腕から、血が噴き出す。
でも、不完全ながらも、回避はできている。
よし、この為に大魔王様から攻撃を回避する訓練を、積んできたのだ。
あの四方八方から来る9つの尾を回避する為には、目や耳で感知するだけでは不可能だった。
五感をフル活用するだけでは足りない。
魔力をも駆使する。
そう、全身を魔力で覆い、それに触れる存在を感知することによって、どの方向から攻撃が来るのかを知ることができたのだ。
とはいえ、魔力の層は薄い。
それを突き抜けてくる攻撃が、身体に届くまでには1秒にも満たない。
皆無ともいえる。
それを条件反射で対応できるようになるまでに、修練を繰り返してきたんだ。
「さすが、ご先祖……!!」
それでも躱しきれなかった。
しかも魔力の層は、防御も兼ねている。
魔力の層は数cm程度の薄さだけど、密度は濃い。
その層を通り抜ける時、攻撃の威力は減衰しているはず。
そうでなければ、ボクの左腕は、今頃無くなっていたかもしれない。
だけどこれ以上は、もう直撃は受けない。
できるできないではなく、そうしなければ死ぬし。
命を捨ててでも勝つ──とか、そんな殊勝な精神は持ち合わせていないよ。
ボクは大魔王様の側近として大成するという、大きな野望があるからね。
だから今まで以上の、安全策をとらせてもらおう。
再び刀を鞘に収めたご先祖──。
また、「虚空断」がくる……!
取りあえず、最初は普通に回避。
今度は無傷でやり過ごすことができた。
が、ご先祖は構わずに、再度「虚空断」の構えに入る。
「虚空断」での連続攻撃──。
さすがにそのすべてを、回避することは難しいだろうね。
そこで──、
「ヌ!?」
ご先祖が「虚空断」を放とうとした瞬間、その体勢が崩れた。
彼の右足が、影の中に沈み込んだからだ。
「影踏み」
これは「影属性魔法」による、「転移魔法」の応用技だ。
崩れた体勢から放たれた「虚空断」は、明後日の方向へと飛んでいく。
その結果、ボクの背後にある住宅が真っ二つになって、その威力には肝を冷やすことになったけどね……。
ともかく、ご先祖が影から脚を引き抜くまでには、もう少し時間がかかるだろう。
今こそが攻め時だ!!
ボクは愛刀である悪断ちと死魔群に、魔力を込める。
そしてそれを、揃えるように振り上げ──、
「雷刃っ!!」
ご先祖へと振り下ろした。
▶どうして技名を叫ぶのですか?
アカネ「格好いいだろう?」