13 勇者の帰還
ボクの名はアカネ。
今は学園を卒業して、騎士の見習いをしている。
勿論、王国のではなく、魔王国の騎士だ。
将来の黒騎士だぞ!
そんなボクの任務は、この王都で生活しているマオ様の護衛だ。
大魔王アイ様が留守の今、魔王国と王国の平和はボクが守る!
この世界は大魔王様の物だから、誰かの好き勝手にさせる訳にはいかないからね!
しかしこの王国は今、逆賊の襲撃を受けていた。
今も王都の絶対防衛線ともいえる外壁が、巨大なアリのような怪物に破壊されてしまうという、非常事態だ。
しかも地中から現れた巨大アリ──そいつが作った大穴から、魔物も這い出してきた。
ついにボク達の出番だな。
このままでは王都の街に、魔物が侵入する。
そうなれば夥しい数の犠牲者が出てしまうだろう。
それだけは何が何でも、防がなければならない。
……けど、さすがにあの巨大アリだけは、ボクの力で止められる気がしないなぁ……。
その時──、
「キシャアアァァ!?」
100mはあろうかという巨大な岩が突然現れて、巨大アリに直撃した。
大きさとしては巨大アリの方が大きいけど、物凄い速度で飛んできた大岩は、その巨大アリの巨体を王都の外へと押し戻す。
こんなことができるのは……。
「あれは余が受け持つ……」
「マオ様!!」
マオ様は元魔王だと聞いている。
それどころか、現魔王であるシファ様の御母上だとも。
そしてかつては、我がご先祖である勇者様と戦った、魔王ゼファーロリス本人──。
……まあ、今はボクの護衛対象だが。
過去の因縁なんてどうでもいい。
そもそも護衛というのは名ばかりで、マオ様はボクよりも余っ程強いんだよね……。
元々魔王としての実力を持っている上に、大魔王様に鍛えられているんだもの。
おそらく魔王だった頃の、全盛期よりも強いと思う。
仮に戦っても、ボクには勝てる気がしないね。
だから巨大アリは、マオ様に任せよう。
彼女ならば、あの巨大な化け物も倒せるはずだ。
「ギシャアァァァ!!」
今もマオ様が撃ちだした「風属性魔法」の刃が、巨大アリの脚を切り落としていた。
名付けるならば、「真空断裂刃」ってところか。
「偽物とはいえ、私が負けているみたいで、なんだか複雑ですわね……」
クオが何故か面白く無さそうな顔をしていたけど、そんな場合?
「クオは、さっさと避難した方がいいんじゃない?」
たぶんこの場で1番弱いんだからさぁ……。
「わ、分かってますわよ!
シェリーさん、一緒に領事館まで下がって防衛しますわよ」
「かしこまりました」
物は言いようで、トウキョウ領事館は大魔王様のものだから、そこを守ると言えば大魔王様の専属メイドであるシェリーさんは文句を言わないだろうな。
彼女は「影属性魔法」を使って、クオと一緒に影の中へ消えていった。
あの「転移」方法も便利だよね。
さて、ボクはボクができることをやるか──って、
「いた!!
姉弟子、ここは頼みます!」
「あっ、おい!?」
姉弟子のナユタさんの声を背に受けつつ、ボクは走り出す。
それは街へ侵入しようとしている魔物の中から、1つの影が飛び出したのが見えたからだ。
鎧姿をしているその姿は、以前麻薬組織の拠点で、ボクの愛刀「黒鉄」を折った奴と同じ──。
つまり魔族クジュラウスによって復活させられた勇者──つまりボクのご先祖様。
ボクが倒すべき相手だ。
「待てっ!!」
ご先祖は街の中に入り込み、そして猛スピードで走り出した。
ボクはその背を追う。
ご先祖が一直線に進目指しているのは、王都の中心にある王城であるようだった。
狙いはクラリス女王陛下か?
襲撃してきた魔物達の──そしてその黒幕であるクジュラウスの目的は分からないけど、大魔王様に負けて以来、彼は嫌がらせのようなことをしてくるようになったらしい。
なので今回も、そうなのかもしれないな……。
おそらく大魔王様の交友関係を害することで、間接的にダメージを与えたいのだろう。
普通に正面から戦ったら、絶対に勝ち目は無いからね。
情けない奴!
そして我がご先祖の安らかな眠りを邪魔するなんて、クジュラウス許すまじ!!
かつては多くの民に、英雄としてその帰還を祝福されたご先祖が、招かざる客へと貶められた屈辱──。
それは子孫であるこのボクが、晴らさなければならいものだ。
「『常闇の帳』!」
「!」
ボクは「影属性魔法」で、真っ黒な壁を生み出した。
その正体は影であり、それに飲み込まれると、まったく別の影から吐き出されるという、ある種の「転移魔法」だ。
殺傷力は無いけど、ご先祖の進行を止めることはできる。
事実、ご先祖は足を止め、こちらに向き直った。
周囲は影の壁に囲まれているから、術者であるボクを倒さなければ、これ以上は進めない。
「今度は不覚をとりませんよ!」
ボクが悪断ちと死魔群という、2振りの愛刀を抜いて構えると、ご先祖もまた刀を抜いて構えた。
「我が名はアカネ!
大魔王様の忠実な僕なりっ!!
勇者よ、いざ尋常に勝負っ!!」
そんなボクの口上が終わらぬ内に、ご先祖は斬りかかってきた。
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