12 王都の危機
私の名はクオハデス。
通称クオですわ。
かつての私は魔王でしたが、今はただの人間として、立派な淑女を目指しておりますの。
これも愛しのアイお姉様の為ですわ!
……そのお姉様も今は旅に出てしまい、もう長らくお会いしておりません。
その寂しさから、時折禁断症状にも似た衝動が全身を駆け巡り、お姉様のベッドの上を転げまわっています。
これというのも、お姉様が旅立つ原因になったクジュラウスの所為!
許すまじですわ!
……そんな私は今、お城の女官として女王の傍で働いておりますの。
まあ……女王に忠誠心とかはありませんが。
私、元魔王ですので!
それに私が忠誠を誓うのは、お姉様だけですわ。
だけど女王はお姉様のお友達なので、お手伝いくらいはして差し上げますわ。
……で、現在この国は、ちょっと大変なことになっておりますの。
「多いな、おい……!」
お姉様の弟子であるナユタが、うんざりとしたような声を上げております。
「なあに、ボクの悪断ちと死魔群の、サビにしてあげますよ」
同じく弟子のアカネが、やる気になっていますわ。
他にもシェリーとダリーの吸血鬼姉弟や、マオもこの場におります。
それだけではなく、近くの正門前には騎士団も待機しておりますわよ。
そう、私達が今いるのは、王都を囲む大きな外壁の上です。
昔の私ならば一撃で破壊して突破することもできる程度の、紙のような強度でしょうね。
だけどこの壁を囲む魔物達では、簡単には乗り越えることはできませんわね。
だからかつての強大な力失っている今の私には、ありがたい壁ですわ。
あの魔物達がなだれ込んできたら、さすがに死にますので。
実際、数万もの大軍勢ですからね……。
それにしてもあの魔物達……地面に空いた大穴から突然湧いて出ましたが……。
なんだか身に覚えがある戦法ですわね……?
ともかく非力な私が、何故最前線とも言えるこの場所にいるのかといいますと、私の能力は女性の行動に影響を与えることができるからですわ。
お姉様が言うには、フェロモン?……とかいうものを操ることができるのが、私の能力らしいです。
このフェロモンは、女性が私に従いやすくなる効果があるとかなんとか。
その能力でこの壁から内部の女性に呼びかけて、中心部への避難を促すのが、私の役目ですわね。
私の指示通りに混乱無く避難する女性達を見れば、殿方達も落ち着いて避難をする訳です。
それにこれから戦う女性の騎士や冒険者達の士気を向上させることも、私の能力で可能ですから、戦闘補助の為にこの場で待機しているのですわ。
……まあ、彼女達の出番は無いかもしれませんが。
「さあ、ココアさん達が出撃しましたわ!」
壁の外では、ココアさんを始めとしたお姉様の弟妹達が、魔物の群れに突っ込んでいきます。
並の魔物が数万程度なら、彼女達だけでも殲滅できると思いますが、我が未来の義妹達なのですから、万が一のことが無いようにしてもらいたいですわね……。
「……ボク達は、行かなくてもいいのか?」
戦いに参加できないアカネが、不満そうな顔をしています。
「あなた達は、王都内に敵が侵入した時に対応してもらいますわ」
飛行型の魔物もいますから、ココアさん達の攻撃をくぐり抜けて、壁を越えるものいるかもしれませんからね。
だから騎士や冒険者達は、その時まで待機ですわ。
お姉様の帰る場所を守る為には、失敗は許されませんし、万全の体制を整えておきますわよ!
……しかし現実は、決して甘くはありませんでした。
「ん……。
何か揺れている……?」
「マオ、本当ですの?」
マオが異変を察知しましたが、私には分かりませんわね。
だけどすぐに、私でも分かるほど振動が強くなっていきますわ……!?
「下からくる!」
「退避ーっ!!」
私達がその場から避難した直後、下から壁を崩しながら、巨大な物体が現れました。
その姿は、エビというかアリというか……って、
「私!?」
それはまさしく、かつて魔王であった頃の私の姿ですわね。
でも私はここにいますわよ!?
なんですか、あの偽物は!?
あ~……でも、穴を掘って敵の拠点に直接兵を送り込む戦法は、私もよくやっていましたわねぇ……。
それを真似るなんて、ただの偽物という訳でもないのですか……!?
ハッ、そういえばお姉様が、ヘンゼルとか言う竜の肉体を、クジュラウスが再生させたと言っていましたわね……!?
なんでも身体の一部から、肉体のすべてを新たに作る技術があるとか……。
確かにお姉様と戦った時に、脚を何本か切断されたので、それを回収されていたのかもしれませんわね……。
しかしこの私の身体を、かつてに弄くり回すなんて……!
まったく乙女の玉体を、一体何だと思っているのでしょう!!
本当にもう許しませんわよ、クジュラウスっ!!
……魔王だった頃の記憶は朧気なので、既に顔も憶えていませんがね……。
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