6 闇を斬る
私達の周囲で蠢いている闇──これはかなり前に遭遇した影狼か?
それが数十体はいる。
だけど今その影は、狼の姿をしていない。
人の姿だ。
いよいよ『犯人の●沢さん』じゃないか!?
……おそらく、殺して食べたドワーフ達の姿に、擬態しているんじゃないかな?
まあ、よく見ればすぐに本物ではないと分かるんだけど、暗闇の中で遭遇すれば、一瞬は同族だと騙せるかもしれない。
そしてその一瞬の油断が、命取りになりかねないという訳だ。
生物としては賢いのかもしれないけれど、ちょっと卑怯に見えてしまうなぁ……。
ただ、今の彼らは、私が作った照明の光を警戒しているのか、襲いかかってこなかった。
私達は夜目が利くので、実際にはそれほど強い光を発してはいない。
それでも警戒しているということは、私の光属性の攻撃が危険なものだと、学習している……?
やっぱり以前遭遇した、影狼なのだろうか……?
それならば好都合だ。
私とて、あれから何も対策を考えずに、のうのうと過ごしていた訳ではないのだよ!
『シス、魔力で身を守ってから、目をつぶって!』
『うん!』
シスが防御態勢を整えるのを確認してから、私は攻撃に移る。
『フラーッシュ!!』
その瞬間、照明の光は弾けるように、強烈な光を放った。
しかもその光には魔力を込めてあり、攻撃力を伴っている。
その光を浴びた影達は、溶けるように形を失っていく。
見たか、某『ハイ●ライド』のを見よう見まねで再現した、スペシャルな必殺技は!
『おや……?』
だけど一体だけ、影が残っている。
他の倒した影は分身か子供で、あれが本体──親だったということかな?
とにかく他の奴らよりも高い耐久力を持っており、通常の光を照射しただけでは倒せないようだ。
『それなら──バ●タービィーム!!』
「ギィィィっ!!」
私は光を一点に集中してレーザーのように影を狙い撃つが、光は影の肩を貫いただけで、致命傷にはならなかったらしい。
影は悲鳴を上げて走り去り、坑道の奥──その闇に紛れて気配も消した。
『逃がしたか……』
う~ん……坑道内に大量の炎を吹き込めば倒せるかもしれないけど、何かに引火したらシャレにならないから駄目だよね……。
炭鉱の火災なんかは、坑道を水没とかさせないと消火が難しいようだし、そうなったらドワーフ達が全滅しかねない。
でも、影には大ダメージを与えたようだから、当面は襲ってこないんじゃないかな……?
それなら今更追跡しても追いつくことが難しい影のことは諦めて、ドワーフ達の安否を確かめよう。
『ノックしてもしも~し?』
私は後ろ足で門を蹴る。
かなり頑丈そうなので、そこそこ本気でね。
そして──、
『ドワーフのみなさーん、ご無事ですかー?
影は逃げましたよー?』
と、「念話」で呼びかけた。
それを何度か繰り返すと……、
『~~~?』
門の向こう側から、返事があった。
しかし言葉が分からない。
すまねぇ、異世界語はさっぱりなんだ。
「念話」なら漠然とした言葉のイメージは伝えられるので、ある程度は違う言語を持つ者とでも意思疎通ができるけど、相手の言葉の意味はまったく分からない。
『言葉が分かりません。
念話を使える人はいますか?』
そう呼びかけると、暫くして中から──、
『……何者だ?』
と、「念話」での問いかけがあった。
『通りすがりの者です。
あの影の魔物は追い払いました。
もう安全だと思うので、ここを開けてくれませんか?』
『……何が目的だ?』
う~ん、信用されてない感じだなぁ……。
実際、門を開けた途端に襲いかかるなんてことも有り得る……と、思われているのだろう。
まあ、諦めるのはまだ早い。
もう少し、会話を続けてみよう。
洞窟の外には農地は無かったし、穀物や野菜類を手に入れる為には、人間の町と交易しているはずだ。
その情報が欲しい。
『私はこの辺の地理には明るくないので、人間の町がある場所を教えていただけるだけでも構いません。
しかしそちらはかなり長い期間、籠城していた様子。
魔物の肉などの食料を持っていますけど、必要ありませんか?』
『……』
あ、迷っているな?
『よかろう……。
今門を開けるが、決しておかしな真似はするでないぞ』
『分かりました』
暫く待つと門が開き、その奥から──、
『うわぁ……』
『お姉ちゃん、あれ敵?』
重武装をしたドワーフの戦士達が、ゾロゾロと出てきた。
気持ちは分かるけど、警戒しすぎぃ!
応援ありがとうございます。




