10 帝都炎上
帝都を囲む魔物の群れ──。
城の上空に浮かぶ皇帝陛下の9つの尾は、その群れ目掛けて「熱線」を撃ち出します。
9つの方向へそれぞれ進んだ「熱線」は、群れの中に着弾すると巨大な爆発を発生させました。
「ふぇ……っ!」
衝撃が帝都の中心にあるこの城まで、押し寄せてきます。
……よくこれで帝都へと、大きな被害が及ばないものですねぇ……。
いえ、木造建築の屋根などが多少は吹き飛んでいますが、倒壊した建物は無いようです。
皇帝陛下が、上手く加減をしているのでしょうね……。
ともかくこれで、普通ならば魔物の群れは一網打尽なのですが……。
「あれ……焼け残っているのが、結構います……?」
「そうでしゅね……。
炎に耐性を持つ魔物が、かなりいるようでしゅ。
その為の装備でしたか。
さすがに爆発に吹き飛ばされて、無傷ではないでしゅが……」
リーザ様の目には、魔物達が装備している鎧などから、何かしらの力が発揮されているのが見えているそうです。
この帝都を攻めるにあたって、皇帝陛下の能力への最低限の対策はしているということみたいですね。
まあ、皇帝陛下は物理での攻撃力も高いので、時間をかければ問題無く殲滅できるとは思いますが……。
しかし問題は、別のところから発生しました。
「ふえっ……?」
帝都の街から火の手が上がっていました。
皇帝陛下の攻撃から生じた火の粉が燃え移った……にしては、燃え上がるのが早すぎます。
あれは……魔法攻撃による爆発の炎……!?
魔物達が、街に侵入している……!?
「あっ、ああ~っ!?
そうでしたっ!!」
「なんでしゅ!?」
「街の地下に、麻薬密売組織の拠点がありましたよね!!」
「アギャッ!?」
何故かリーザ様よりも、仔竜のアレクサンドラの方が反応しました。
でも確か私の別人格が、地下にいた麻薬密売組織に関わっていたとか……。
その拠点に地下から魔物が入り込む可能性については、帝都の外で魔物が地下から現れた時点で気付くべきでした。
「そうか、地下から……。
でも陛下のおかげで、騎士団はまだ帝都の外には出ていましぇん。
既に入り込んだ魔物を駆除する為に、動いているはずでしゅ。
……しかし住民の避難が、間に合わないかも……!」
焦るリーザ様の声。
確かに現状では、帝都に入り込んだ魔物の迎撃に精一杯で、騎士団が住民の避難誘導をする余裕は無いでしょう。
これは文官達も動員しないと……!
しかしその為の時間が足りません。
「私とアレクサンドラで、時間を稼ぎます!」
「お願いしましゅ!」
リーザ様は、文官達を指揮する為に走り出しました。
私も私ができることをしましょう。
私はアレクサンドラの後ろ足に捕まって、そのまま城の最上階から飛び降ります。
アレクサンドラは小さいけど、私くらいの体重は支えて滑空することができるんですよ。
結構怖いですけどね……。
そして街へと着地した私達は──、
「アレクサンドラ、魔物を倒して!」
「アギャッ!!」
魔物はアレクサンドラに任せて、私は常民の避難誘導をすることにします。
「皆さん、城へ!
城へーっ!!」
住民達が城に集まってさえいれば、いざという時に皇帝陛下の「転移魔法」で脱出することができるでしょう。
ただ、この魔物が溢れた街の中で、無事に城まで辿り着くのは大変なことだと思います。
「ひいぃぃぃーっ!!」
今も私の目の前で、魔物に襲われようとしている人がいました。
お年を召された方で足が悪いらしく、自力で逃げ切ることはむずかしそうです。
それならば──、
「えぇいっ!!」
「フゴッ!?」
私は「土属性魔法」で、石の弾丸を生み出して、魔物に撃ち込みます。
上手く頭に直撃してくれたので、無力化することができました。
「早く城へ避難をしてください」
「あ、ありがとうございます」
アイ様に受けた魔法の指導が、こんな形で役立つとは思ってもいませんでしたよ。
昔のままの私だったら、誰も助けられなかったので、必要に感じていなかったことでも身につけてみるものです。
……その為に、死を覚悟するような厳しい修練が必要でしたが……。
経験しなくてもいいのなら、その方がいいような気もしますぅ……。
それでも今の私には力があります。
この力で、1人でも多くの人を助けるのですよ!
「……ふぇ?」
しかしその時、地面が小刻みに揺れていることに気付きました。
そしてそれは、徐々に大きく──。
「ゴアァァァーっ!!」
「ふえぇぇぇぇぇぇっ!?」
直後、地面の中から、巨大な怪物が出現しました。
見上げるような巨人です。
あ……これの相手をするのは、私だけでは無理ですぅ……!
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明後日はたぶん更新できません。