9 帝国の危機
私はルヴェリク。
クバート帝国のしがない文官ですぅ。
私はつい最近まで、ローラント王国へ留学していました。
あそこでの生活は、本当に大変でしたよ……。
学園で勉強をするのはともかく、戦闘訓練では何度も死ぬような思いをしましたねぇ……。
訓練とはいえ、対戦相手が強すぎるんですよ。
元魔王とか、勇者の末裔とか、赤いキツネ達とか、ちょっと次元が違うと思うのです……。
クオとかいうお嬢様だけが、私と同レベルで癒やしでしたね……。
何故か彼女と相対していると、記憶がよく飛びましたが……。
とにかく私は、仔竜のアレクサンドラに守られながら、なんとか戦闘訓練を無事にやり過ごすことができたのです……。
今思い出しても、本当に大変な日々でした。
ただ、今まで嫌なことを別の人格に任せてきたことの、ツケを払うことになっただけだと、言えなくもありません。
それにその生活を乗り越えたからこそ、少しは自信を得ることができたような気がします。
その後、帝国へと帰国した私は、アイ様が姉上である皇帝陛下へとお口添えをしていただいたおかげで、陛下のお近くで働く文官になることができました。
まあ、このお仕事も楽ではありませんが、それでも将来は安泰だと思います。
……安泰のはず……だったのですが……。
最近、帝国国内で、魔物の襲撃による事件が頻繁に起こっています。
その対応の為に、私も国の各地へ飛び回ることが増えました。
私、文官なんですけど……?
しかしアイ様に鍛えられた所為で簡単には死なないのと、アレクサンドラがそこそこ強いので、魔物の討伐に駆り出されるのです。
本当ならこれは、騎士団の仕事です。
でも、騎士団だけでは手が足りず、文官の私までもが駆り出されるという、異常な事態なのですよ。
しかもようやく一仕事を終えて、帝都に帰還すると──、
「ふえぇぇぇぇ……」
「なんでしゅか、これは……!」
今もまた、私とリーザ様が、予想外の事態に陥り、困惑していました。
城の最上階からは、帝都の外側までよく見えます。
城壁の外にいる、魔物の群れの姿も……!
「しかもただの魔物じゃないでしゅ。
武器や鎧で、武装しているでしゅよ……!」
エルフの血を引いているリーザ様は目が良いようで、私には見えていないところまでハッキリと見えているみたいです。
私は悍ましい者は見たくないので、見えなくて良かったのかもしれませんが……。
その悍ましいのが、数万もの大軍勢で現れました。
それが帝都を囲むように、突然に──。
これは「転移魔法」……?
いえ、アイ様ほどの膨大な魔力を持っていなければ、万単位の軍勢なんて運ぶことはできないはずです。
兵士達からは「突然、地中から現れた」という報告が上がっています。
地中に穴を掘って、進んできた?
どれだけ時間をかけて、そして慎重にことを進めてきたのでしょう?
だけど、アイ様の姉上である皇帝陛下が気付かないって、そんなことあるのですか?
あ……でも地下から注意を逸らす為に、各地で魔物が暴れていたのかも……。
いずれにしても、あれだけの数の魔物を相手にしては、帝都の騎士団だけでは太刀打ちできません。
帝都にいる騎士は、精々2000人程度……。
あくまで帝都の治安維持が目的で、こんな戦争規模の戦いを想定した人員ではありませんからね……。
軍隊同士の戦いって、普通は国境付近で始まるもので、そこに至るまでに各領地から兵を集めて軍勢を形成するのです。
こんな帝都の間近にいきなり敵の軍勢が出現したことなんて、これまでの歴史の中には無かったので、それを警戒した戦力は帝都には配備されていません。
「これは皇帝陛下に、お任せしないと駄目ですね……」
「そうでしゅね……。
こういう時にこそ、働いてもらわないと……」
普段は、何もしていないですからね、あの皇帝陛下……。
政治は宰相様に任せきりですし、国の儀式的なことも尻尾で作った分身で誤魔化していますから……。
しかしそれが許されているのも、圧倒的な戦闘力で国を守っているからです。
「え~……。
またなの~?」
ただ、リーザ様によって寝所から連れ出された皇帝陛下も、うんざりとした様子でした。
皇帝陛下もまた、昨今の魔物の襲撃事件に対応する為に、各地へ出向いていたので……。
「妹達にやらせちゃ、駄目なのかしら~?」
「妹様達は、各地で魔物を退治しているでしゅ」
皇帝陛下の親族である赤いキツネ達は、この国にも何匹かいますが、今は帝都を離れています。
おそらく5匹もいれば、あの魔物の軍団にも対抗できると思うのですが……。
今帝都にいないのが、とても残念です。
「仕方がないなぁ~。
じゃあ、ちゃちゃっと片付けてくるね~」
と、皇帝陛下は軽い調子で、空へと飛び立ちました。
これですぐに、魔物の群れは殲滅されるはず……。
あれ……?
でも何か重大なことを、見落としているような……。
ちょっと忙しいので、更新が不定期になる可能性があります。