表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/216

7 紅の空

 あたしの名前はシス。

 この名前はおアイ姉ちゃんから貰った。

 それどころかこの命だって、お姉ちゃんがいなければ、今頃は無かったかもしれない。

 ……まあ、子供の頃だったから、よく憶えていないけれど。


 お姉ちゃんからは、色々と教えてもらった恩がある。

 それを抜きにしても、大好きで大切な存在だ。

 だからお姉ちゃんの旅にも、あたしはついていった。


 でも、いつの頃からかあたしは、お姉ちゃんににとって足手纏いなのではないかと、感じるようになっていったんだ。

 お姉ちゃんってあたしには理解できないことを沢山知っているし、強さだってあたしは足下にも及ばない。

 あたしなんていなくても、お姉ちゃんは大丈夫な人なんだと悟ってしまった。


 あたしがいてもいなくても、お姉ちゃんは揺るがない。

 あたしでは、お姉ちゃんの役には立てない。

 それを知ったあたしは、お姉ちゃんについて回るのをやめた。

 

 まあ、結果として子供もできたし、その子供達がお姉ちゃんの役に立っているから、これでいいんじゃないかな。

 あたしものんびりできるしね。


 ……それなのに、なにこの状況?


『お母ちゃん、いくら倒しても切りが無いよ!!』


『あんなに食べられないよ!!』


「ネネお姉ちゃんじゃないんだから、食べるのはやめておきなさい!」


 子供達が慌てている。


「どうすればいいんだ!?」


「王都に応援の要請を!!」


 住人達も慌てている。


 まあ、気持ちは分かるよ。

 空を埋め尽くほどのハエの魔物が、トウキョウの領都を襲っているのだから。


 あたしと子供達が総出で対抗しているけど、街を守るだけで精一杯だよ……。

 お姉ちゃんがいれば、きっと全部焼き払ってくれるのに……!


 その時──。


「ん?

 誰かが『転移』してくる!?」


 何者かがここへ「転移」してくる気配があった。

 そしてそれは──、


「なんだぁ!?

 こっちもハエだらけじゃん!?」


 と、ネネお姉ちゃんは出てくるなり、(わめ)いている。

 どうやら魔王国から、脱出してきたらしい。

 あたし達も魔王国への避難を考えていたけど、その選択肢は消えた。


 ……というか、来たのがアイお姉ちゃんだったら、話は簡単だったのに……。


「違う……今欲しいお姉ちゃんは、これじゃない……」


「ああん!?

 なんだい、顔を合わせるなりさぁ!?」


 ネネお姉ちゃんじゃ、頼りにならないと言いたい。

 実際、アイお姉ちゃんにも完敗したっていうし。


 でも、丁度いい。


「お姉ちゃん、魔力を頂戴!」


 あたしは尻尾で、お姉ちゃんを雁字搦(がんじがら)めにする。

 そしてお姉ちゃんから、魔力を吸い上げ始めた。


「ちょっ、私はシファちんを、迎えに行かなきゃいけないんだけどっ!?」


「この状況じゃ、そんな場合じゃないでしょ。

 このままじゃ、お姉ちゃんが連れてきた人達ごと、ここも駄目になるよ!」


 お姉ちゃん達は魔王国から逃げてきたばかりだけど、あのハエ達をどうにかしなければ、あたし達と一緒に別の場所へ逃げなければならなくなるんだよ……。


「くうぅぅ……仕方がないっ!

 持ってけ、ドロボーっ!!」


 お姉ちゃんが抵抗をやめたので、一気に魔力がこちらへと流れ込んでくる。

 そしてお姉ちゃんの身体(からだ)が、見る見るうちに縮んでいった。

 なんだろうね……?

 あたし達は魔力が減っても、あんな簡単には幼くならないんだけど……。

 なんか変なクセが、身体についているんじゃないのかな?


 それはともかく、お姉ちゃんの魔力だけじゃ、まだ足りないなぁ……。


「お前達、ありったけの炎をあたしに!」


『はいよー!

 母さん!』


『いいですとも!』


 子供達が生み出した炎が、あたしへと集中する。

 よし、これならいけそうだ。


 あたしはハエ達の侵入を防ぐ為に作った炎の壁──領都を取り囲んでいるそれへと力を(そそ)ぐ。

 直後、炎が雲を突き抜けるほどの高さにまでそびえ立ち、それから外側に向けて動き出した。

 炎はハエの大群を飲み込みながら、瞬時に数十km先まで輪を広げていく。


「おお、凄ぇ!!」


 奴らが空を覆い尽くすのなら、今度は、あたしの炎が空を覆い尽くす!

 そして周囲の敵を焼き払ったら、そのまま魔王国の方まで炎を伸ばすよ!

 

 これならさすがに、ハエ達も全滅したんじゃないかしら?

 実際、炎かが届いた範囲には、もうハエ達の気配は感じなかった。

 ちなみに燃やす物はハエに限定したから、周囲の土地への被害は、それほど無いはず……。

 まあ、あたしはアイお姉ちゃんほど器用じゃないから、完璧とは言えないけれど……。


「ふ~……。

 お姉ちゃんのおかげで、なんとかなったよ」


「じゃあ、シファちんを迎えにいってよ!

 魔王城に残してきたから、危ないかもしれないし。

 私は魔力が残り少ないから、行けないんだよ」


 シファが……。

 あたしはそれほど思い入れは無いけど、あの子に何かあったら、アイお姉ちゃんが悲しむだろうなぁ……。

 疲れているから休みたいけど、迎えに行くか……。


 しかし──、


「なんか近づいてくる!?」


 魔王城の方向から、何かが猛スピードで接近してくる。

 それはすぐに、あたし達の視界にも入った。

 何故ならば──、


「うわ……でっか!」


 それは今まで倒してきたハエ達よりも、数十倍は大きなハエだった。

 アレが親玉!?

 いつも応援ありがとうございます。

 そういえば、いつの間にか目次ページの仕様が変わっているのね……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ