6 脱 出
私はネネ。
今、巨大なハエの大群に囲まれている。
多いな……ちょっと多すぎるな。
燃やしても燃やしても、切りが無い。
私はこいつらを食べながらエネルギーを補給できるから、敵がいる限りは無限に戦えるけど、街の方がもたないぞ……。
街は炎の壁で囲っているけど、ハエ達は構わずに突っ込んでいくし、さすがに何千匹も突っ込まれると突破されそうだ。
『ネネ殿!
撤退じゃ!
避難民を連れて、トウキョウまで退避してしてほしい。
避難民は、城内に集めておる』
ん~?
シファちんからの「念話」か。
『いいけど、街を守れなくなるよ?』
『構わぬ!
どのみち時間の問題じゃろう』
う~ん、確かに。
私自身は負けていないのに、それでも逃げるみたいで癪に障るけど、仕方がない。
『分かった。
炎の壁は少しの間維持できるけど、「転移魔法」に集中したら維持できなくなると思う。
大丈夫?』
私はアイほど魔法が得意じゃないから、「転移魔法」みたいな難しいものを──しかも何千人もの人を運ぶとなると、他のことに注力していられる余裕は無いんだよね……。
『良いぞ、魔王城の「防御結界」と、壁面に取り付けられた500門の魔道砲で時間を稼いでみせよう!」
『じゃ、任せた!』
私はハエとの戦闘をやめて、魔王城へと向かった。
よし、ネネ殿は脱出に向けて動いてくれたな。
あとはこの魔王シファが、全力を尽くす番じゃ!
さあ、魔王城の防衛システムを全解放しようかのぅ。
妾は王座に座る。
この王座こそが魔王城の制御装置であり、ここに座ることで魔王城の内部や外部の状況を把握することができるし、魔王城の機能を掌握することもできるのじゃ。
こんな時の為に、母上から魔王城の動かし方について、手ほどきを受けておいて良かった。
本来魔王城は、魔王として認められた者にしか応《こた》えてくれない。
妾は散々苦労して、動かせるようになったのじゃ!
その努力が、今報われる!!
……そしてここに母上がいなくて、本当に良かった。
母上はまだ、王都の学園に通っておるからのう……。
「よし、ネネ殿は城内に入ったな。
『防御結界』作動!!」
これでネネ殿の炎の壁が崩れても、ハエの群れはすぐに城内へは侵入できないじゃろう。
同時に「対空防御」用の魔道砲の準備を……。
城の壁面や底面に500門も設置されているから、接近するハエ達もある程度は撃墜できるぞよ!
お……炎の壁が消えかけておる。
ハエどもが、そろそろ生きたまま突破してくるのぅ。
よし──!!
「全砲門、開けぃ!!」
城の魔道砲が、全方位に向けて撃ち出される。
この魔道砲は1門につき、秒間2発の魔力弾を発射することができる。
それが500門──1秒で1000匹のハエを叩き落とすことが可能じゃ!
あれだけ密集している大軍じゃから、外すということもまず無いしのぅ。
逆に言えば、それだけ撃ち落としても、焼け石に水ということでもある。
弾幕をすり抜けて、ハエ達が城へと突っ込んでくる──が、「防御結界」によって弾かれ、まだ城内への侵入は許しておらぬ。
だが、城のエネルギーも無限では無い。
いずれは魔道砲の弾も尽き、「防御結界」も消え失せるじゃろう。
『ネネ殿、「転移」の準備は良いか!?
もう長くはもたぬぞ!!』
『そろそろ行けるぞ!
……でも、シファちんは?
なんか転移対象に入れられないんだけど』
ネネ殿の困惑した「念話」が届く。
まあ、私は一緒に行けないからな……。
『妾がいる城の中枢は、「転移魔法」は使えぬ。
ネネ殿は先に行っておくれ。
妾がここを動けば、ハエどもが一気に城へなだれ込む』
中枢で「転移魔法」が簡単に使えるようでは、敵の侵入も許しかねんのでな……。
『じゃあ、シファちんは!?』
『まずは住民の避難が先じゃ!
妾も「転移」が使えるから、後で行く!!』
『でも、そこは「転移」使えないんでしょ!?』
『中枢から出れば使えるから、早く住民を!!』
ハエどもが城へなだれ込んだら、そんな余裕は無いかもしれんがのぅ……。
『くっ、すぐに迎えに行くから、待っていてよっ!!』
それからすぐに、ネネ殿は「転移」した。
……これで、肩の荷が下りたのぅ。
あとは妾自身の脱出じゃが、ネネ殿を待ってはおられぬ。
正直言って、もう城のエネルギーは残っていないのでな……。
もって2~3分……ネネ殿では、「再転移」に10分はかかるじゃろう。
それでは間に合わぬ。
妾自身が、脱出の為に動かねば……!!
しかしこの身が王座を離れた途端に、城の防御機能はすぐに停止するじゃろうな……。
ハエどもが城壁を突き破り、内部になだれ込んでくるまでにどの程度の時間がかかるのじゃろうか?
それまでの間に、転移可能な区域まで行くことができれば……!!
妾は王座を離れ、中枢の外に向かって走る。
直後、城が激しく振動し始めた。
ハエどもが、城に突っ込んだか!?
妾は走る。
走って走って、ようやく城の中枢区域の外が見えてきたその瞬間──。
「!?」
妾の目の前で、壁を突き破ってハエが現れる。
それだけではない。
通路の奥からも、ワラワラと。
あー……こりゃ、脱出は無理じゃのぅ。
不思議と冷静な自分に、変な笑いが出そうになった。
こうなれば、一匹でも多く道連れにしようか。
久しぶりに、「暴走」とやらでもしてみようかのぅ……。
と、魔力を高める妾に、
『お見事。
あの弱虫だった娘が、よくぞ逃げずに国民を救いました』
そんな「念話」が届く。
な……他に誰か残っておるのか!?
その直後、周囲が激しい炎に包まれた。
ブックマーク・☆での評価・いいねをありがとうございました!