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2 ボクと大魔王

 ボクはアカネ。

 勇者の子孫だけど、そのご先祖が敵対した今、あまり嬉しくない肩書きだなぁ……。


 兄のフブキが大魔王アイ様に命を救ってもらったので、そのお礼としてささやかながらも夕食会を(もよう)すことになった。

 参加するのは主賓の大魔王様、ボクとフブキ(にぃ)、そして両親だ。


「これは辺境伯閣下……。

 この(たび)は、息子の命を救っていただき、心より感謝申し上げる」


 父上は大魔王様と顔を合わせるなり、頭を下げた。

 本来なら公爵家の当主である父上は、家格が劣るトウキョウ自治領の辺境伯に頭を下げることは有り得ない。

 だけど公爵だからこそ、実際の立場の違いを理解しているらしい。

 なんてったって、相手は大魔王で帝国の皇帝の妹でもあるのだ。

 本来なら、我々の方が圧倒的に立場が低い。


「いえ、アカネさんには、私の身内と仲良くしてもらっているので、そのお礼だと思っていただければ……」


「そんな……。

 世話になっているのは、ボクの方ですし……」


 偉ぶらない大魔王様の態度に、むしろこちらの方が恐縮してしまうよ……。


 それから食事会は(なご)やかな雰囲気で進行したけど、ほのかに緊張感が(ただよ)っているように感じられた。

 我が家は勇者の家系だから、潜在的に魔族に対する敵意があるからなぁ……。

 いや、ボクには無いけど、両親達はそういうのを必死に隠しているのだと思う。


 そもそも魔族は人類にとって恐怖の対象だったから、使用人達だって緊張している気配がある。

 魔族と人間の交流が始まってからまだ日が浅いとは言え、もう少しどうにかならないものか……。

 実際に付き合ってみると、いい人が多いんだけどなぁ……。


 ……こんな空気の中でボクが、大魔王様の側近になることがほぼ内定しているって告白したら、家族会議どころかお家騒動になるかな……?

 まだ時期尚早だろうか……?


「おやぁ……?

 フブキが危ないと聞いて来てみれば、元気そうじゃないか」


 その時、空気の読めない声が聞こえてくる。

 実際、食事会の場に乱入してくるなんて、礼儀知らずにもほどがあるのだが……。

 本来なら使用人が全力で止めるところだけど、それが無理なだけの身分がある人物といえば……。

 

「誰?」


「あれはボクの従兄(いとこ)の、オデンです……」


 侯爵家である叔父の長男だ。


「オデン……。

 どのように伝わって……。

 ……煮えるの?」


 大魔王様へそっと耳打ちすると、彼女はなんとも言えない複雑な表情になった。

 おそらく「オデン」という言葉は、大魔王様やご先祖の世界では、人名としては相応(ふさわ)しくない意味があるのだろう。


「おやおやぁ?

 何故こんなところに魔族がいる?

 勇者の末裔たる我が一族が馴れ合うのは、(まず)いんじゃないのぉ?」


 なんだと!?

 大魔王様に対して、なんと無礼なっ!!

 ただ、我が一族に、こういう認識の者が多いのも事実だ。

 実に嘆かわしい。

 ここはボクがお灸をすえてやろうか?


 そう思ったその時──、


「待て待て、俺の命を救ってくれたのは、この御方だ。

 口を(つつし)め!」


 抗議の声が上がる。

 おお、いいぞフブキ兄!

 だが、オデンは──、


「はん、魔族の手で生きながらえるとは見苦しい。

 いっそ腹を切るべきではないか?」


 悪びれた様子も無い。

 これは駄目だな……。


「失礼します」


 ボクは席を立ち、そのまま「影属性魔法」でオデンの前まで「転移」する。

 そして──、


「グボゥっ!?」


 全力でオデンを殴り飛ばした。


「大魔王様と兄上への侮辱、このボクが許さないぞ!!」


「なっ、なななな何をずるっ!?

 伯父上、このじゃじゃ馬を、お叱りぐだざいっ!!」


 オデンは鼻血を吹き出しながら(わめ)いている。

 そんな彼の訴えに対して父上は──、


「……息子を侮辱した()に制裁を加えたのだ。

 アカネにはよくやったと褒めたい」


「な゛っ!?」

 

 すげなくオデンを突き放した。


「それに貴様が侮辱したのは、女王陛下の盟友にして、魔王国の実質的なトップで、クバート帝国皇帝を姉に持つ御方だぞ?

 睨まれれば、この世界の何処にも生きる場所が無くなる。

 弟には貴様を廃嫡するように、伝えておこうと思う」


 あ~……父上はとばっちりを受けたくないと、オデンを一族から完全に切り離すつもりのようだ。


「ぞんな馬鹿なっ!?

 馬鹿なぁぁぁっ!!

 あ゛うっ!?」


 オデンが喚いてうるさいので、蹴りを入れておく。

 こんな馬鹿が従兄だと思うと、恥ずかしくなる。


「まあまあ、誰にでも間違いはあります。

 今後態度を改めるのならば、そこまでしなくても良いのでは?」


 その時、大魔王様がオデンへと助け船を出した。

 こんな奴、助けなくていいのに……。


「おや、怪我をしていますね。

 私の(・・)『回復魔法』は必要ですか?」


「い、いや、ごの程度で、必要無いでしゅ……」


 オデンの言葉通りなら、魔族に助けられたら腹を切らなければならないからね。

 彼は鼻血を垂らしたまま、逃げるように立ち去った。

 それを見送りながら、大魔王様は微笑(ほほえ)んでいる。


 これは……助けたのではなく、ある意味トドメを刺しに行ったんだな……。

 さすが大魔王様だ……!


 ともかく父上が大魔王様の側に付くことが明確になったので、ボクの心は決まった。

 ボクもこのまま、大魔王様に忠誠を捧げよう……と思う。

 明後日は用事があるので間に合わないかも……。

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