1 宿 命
ボクの名はアカネ。
コールラント公爵家の三女なんて身分だけど、今のボクは大魔王アイ様の忠実な僕だ。
先日ボクは、麻薬組織の拠点攻略作戦に参加した。
しかし突然現れた曲者によって、愛刀黒鉄を折られ、何の役にも立てなかったのだ。
なんたる不覚……!!
ただ、大魔王様によると、あれはボクのご先祖である勇者様らしい。
だけど邪悪な者の手に落ち、敵となるのならば、ボクはご先祖でもこの手で討つ!!
それなのに今のボクには、刀が無い。
ご先祖と互角に戦えるだけの、実力だって……!!
ボクがもっと、闇の力に目覚めていれば……!!
と、落ち込むボクを見かねたのか、
「オレが刀を打ってやろうか?」
「いいのですか、姉弟子……!?」
大魔王様の弟子で、ボクの姉弟子にあたるナユタさんが申し出てくれた。
「オレもあの場にいて、何もできなかったしな。
かといって、オレの実力じゃ手も足も出ないだろう。
ならば別の形で、一泡吹かせてやりたい」
「そんな……姉弟子!」
姉弟子は決して弱くはない。
だが、これは相性の問題だ。
あのご先祖、大魔王様の攻撃すら回避していたし……。
あんなスピード、ボクでもついていくのは難しい。
ましてや種族的に俊敏さでは劣る、ドワーフの姉弟子では……。
「……では、よろしくお願いします、姉弟子!」
「おう!
じゃあ……どういうのがいいかな……。
硬度は師匠の魔法付与でどうとでもなるから、切れ味に特化させてみるか。
極限まで刃を薄くしてさぁ」
「いいですね」
普通は刃を薄くすれば脆くなり、折れたり欠けたりするだろう。
それどころか、グニャグニャと波打つ恐れすらある。
しかし大魔王様の付与魔法で強化すれば、その欠点は無くなるはずだ。
まあ……以前使っていた「黒鉄」も、「硬化」の付与はされていたのに折られたから、より強く術をかけてもらう必要があるけれど……。
でも、薄ければ紙でだって、指を切ることもある。
決して折れないほど硬い刃を、限界まで薄くすればどれほどの切れ味になるのか……。
それはちょっ楽しみだ。
だけどこの時、ボクの話を聞いたフブキ兄が、勝手にご先祖の墓所に向かっているなんて、ボクは知らなかったんだ。
墓所での鎮魂の儀式なんて10年に1回で、前回幼かったボクは参加していなかったし、存在そのものを失念していた。
数日後、学園にいたボクの元に、家からの使者が来た。
「兄上が初代の墓所で、瀕死の重傷を!?
治療は……大丈夫なのか!?」
「それが……状態が芳しくなく。
このままでは、いつまでもつか……」
「そんな……!」
ボクがご先祖のことを、話したばかりに……!!
一族に関わることだからと、一応家には報告したけど、誰も本気にしていないと思っていた。
ボク自身でさえ、半信半疑だったし……。
それがまさかこんなことに……!!
もっと真剣に考えておけば良かった……!
と、ボクが自己嫌悪で打ちひしがれていると──、
「では、私が治療しましょうか?」
「よろしいのですか!?」
どこからともなく大魔王様が現れ、治療を申し出てくれた。
「誰も彼も助けていたら切りがありませんが、身内の親族くらいは構いませんよ」
身内……。
こんな未熟者のボクを、そう呼んでくれるのか……。
あ……目頭が熱くなる……!
「ありがとうございます!!
どうかよろしくお願いしますっ!!」
それから大魔王様の「転移魔法」や「飛行魔法」を駆使して、ボクの実家へと急行する。
そして失っていたフブキ兄の右腕を、大魔王様はあっさりと生やしてしまった……。
切断された部位を接合するだけでも高度な回復魔法なのに、完全に再生させるとは……。
やはり大魔王様は凄い……!!
そんな大魔王様は、治療が終わるとすぐさま墓所の様子を見る為に出発した。
まだご先祖がいるかもしれないが、あの方ならたとえ勇者が相手でも、敵ではないだろう。
暫くして、フブキ兄が意識を取り戻した。
その顔を見てボクの口から出たのは、
「フブキ兄の馬鹿っ!!
な、なんて無茶なことを……っ!!」
その無謀な行動を、責める言葉だ。
危うく命を失いかけ、家族に心配をかけたのだから、これくらいは許されるよね?
しかしフブキ兄は、ボクの顔を見て笑う。
そして──、
「ああ……アカネか。
相変わらず泣き虫だなぁ。
だが、そんなお前に救われた……」
「え……?」
不可解なことを言った。
「お前の名を出した途端、初代の動きが止まり、そして何か葛藤するような仕草を見せた後に去って行った。
アカネの名は、初代の孫娘からもらったもの……。
あれは間違いなく初代で、その記憶が残っている……!!」
そうなんだ……。
じゃあ、今フブキ兄が生きているのは、ただの偶然みたいなものなんだね。
そう思うと、背筋が凍りそうな感覚になった。
そしてやはり大魔王様の言葉通り、あれはご先祖で間違いないんだ……。
そのご先祖と子孫のボクが戦わなければならないなんて、なんという悲しき宿命……!!
だけど……フブキ兄の命を奪おうとしたご先祖と、戦うことに躊躇いはない!!
でも、今墓所には大魔王様が向かっている。
ボクの出番は無いかな?
しかし──、
「いやぁ、いませんでしたね。
私を恐れて逃げた可能性もありますが……。
おそらく勇者の復活を確認する為に訪れた者に対する、一度きりの罠だったのでしょう」
戻ってきた大魔王様は、軽い口調で告げたのだった。
やはりボクが、ご先祖と戦わなければならないようだ。
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