20 手術が必要ですね
除雪作業に時間を取られて、間に合わないところだった……。
炎の巨人──「炎神」。
これは「蟻神クオハデス」との戦闘を経て、巨大な怪物と戦う時に必要だろうな……と思ったことと、大魔王を名乗るのなら第2形態も必要だろうと思って考えたものだ。
他にも最終形態を用意してあるけど、ぶっちゃけこの「炎神」だけでも過剰戦力なので、そのまま使う機会が無いのならその方がいいだろう。
使ったら目に映る範囲の景色が、すべて焦土になりかねないし……。
ともかくこの「炎神」は、自分の身体と同じように操ることができるから、体操選手のごとく俊敏に動き回ことも可能だ。
一方のヘンゼルは、手足が短いゴジ●のようなな体型なので、そこまで素早く動くことができず、私の攻撃を躱すことさえできない。
ホラホラホラホラホラホラホラ!!
一方的に殴り続けるぞ。
ただ、この「炎神」の巨体から繰り出される攻撃は、ウル●ラマンのように凄まじい威力で、更に超高熱も纏っている。
その直撃を受けているのに、ヘンゼルは負った傷を瞬時に回復させているのか、殆どダメージを感じさせない。
凄まじい回復能力だと言えるだろう。
それでも反撃さえできない状況はもどかしいようで、ヘンゼルからイラだった思念が伝わってくる。
『くっ……この赤ギツネがぁ!!』
ヘンゼルは長い尻尾を、鞭のようにしならせて反撃する。
それは木々をなぎ倒し、その破片を周囲にまき散らす。
その破片に当たるだけでも、人間ならば命に関わるだろう。
だが──、
「忍っ!」
まあ、「転移魔法」で回避するけどね。
私はヘンゼルの頭上へ移動し、そのままイナズ●キーック!!。
『ゴッ!?』
でも、頭部を蹴られても、ヘンゼルが受けたダメージはイマイチ。
彼も無限に再生できる訳ではないのだろうけど、もうちょっと強力な攻撃を使わないと切りが無いな……。
それじゃあ……「炎神」の両手を、刀のような形状に変形させる。
名付けてビームセイバー!
そのビームセイバーから繰り出された斬撃が、ヘンゼルの両手足、そして尻尾を斬り落とす。
『グオオッ!?』
その切断面が炎の熱で焼けているから、再生には少し時間がかかるだろうし、再生したとしても再び斬り落とすのは容易だ。
そして私は、両手のビームセイバーを合掌のように合わせる。
その炎の刃は高速で回転し、螺旋を描くように絡み合った。
そこに生み出されたのは、巨大なドリルだ。
ギガぁ……ドリルぅ……。
「ブレェイクっ!!」
『グガガガガガガ!!』
ドリルはヘンゼルの胸へと突き刺さり、ついには大穴を穿った。
ここまでやればヘンゼルとて、もう勝ち目が無いことは理解できただろう。
その気になれば、すべてを消滅させることだってできる。
「どうです、そろそろ実力差が理解できましたか?
今の魔族は、私の庇護下にあります。
あなた達さえ余計な真似をしなければ、魔族は安泰なのですよ。
それが分かったのなら、ば大人しく降伏しなさい。
奴隷契約を受け入れるのならば、命まではとりませんが?」
『人に尻尾を振り、阿るような獣に誰がぁっ!!』
「……そうですか」
ヘンゼルは武人としての誇りか、それとも人間への憎しみを捨て切れないのか、屈することはなかった。
それならば仕方がない。
少々強引な手段を使わせてもらおう。
『なん……?』
私は「炎神」を解除する。
その意図が分からず、ヘンゼルは呆然とした気配を見せた。
しかし私の9つの尻尾が伸びるのを目の当たりにして、顔色を変える。
『やめ……グフッ!?』
ヘンゼルは抵抗しようとしたようだが、それよりも先に私の尻尾が彼の全身へと突き刺さり、そのまま地面へと縫い止めた。
なお、尻尾には「浄化魔法」を通しているので、半ば不死系の魔物と化しているヘンゼルは、その魂も縫い止められた状態になっているはずだ。
無理に抜け出そうとすれば、魂ごと引き裂かれるだろう。
仮に魂だけ抜け出せたとしても、念の為にヘンゼルの周囲も「浄化魔法」で覆っているから、逃げ出すことは不可能だ。
さて、あとはヘンゼルの魂から、少年の魂を取り除く……いや、逆かな。
丁度ルヴェリクの身体から分離したんだから、彼には今後ヘンゼルの身体を使ってもらおうと思う。
まずはヘンゼルの身体から漏れ出るオーラを視て、その状態を確認する。
少年のものだと思われるオーラは弱々しく、眠りに就いているようだった。
これではちょっとやりにくいので、活を入れよう。
「さあ、少年よ目覚めなさい!
それともこのまま、ルヴェリクがどうなるのか見届けぬまま、消え去るつもりですか?
彼女と分離した今、あなたが消える必要も無くなったのに?」
少年の人格が消えようとしていたのは、ルヴェリクにとって知られてはいけない記憶を彼が持っているからだ。
人格が統合されれば、主人格がその記憶を知ってしまう恐れがある。
だけど別の身体になってしまえば、その心配は無い。
「あなたはルヴェリクを守る為に、存在してきたのでしょう?
ならば生き続けて、彼女を守りなさい!」
そんな私の呼びかけに、少年のオーラの輝きが増す。
それに反して、ヘンゼルのものと思われる濁ったオーラは、更に暗くなる。
光が強くなれば、影もまた濃くなるという訳か。
「よし、そのままヘンゼルの動きを止めておいてくださいね」
『なっ、何をするつもりだ!?』
ヘンゼルは暴れようとしていたが、少年の魂が抵抗しているのか、その身体は動かない。
そしてそれはオーラの動きも同様だ。
私はオーラの濁った部分だけに、「浄化魔法」をかける。
おそらくこれがヘンゼルの魂だ。
魂は複雑に混じり合っている。
少年の魂に影響が及ばないように範囲を絞って、メスを入れるかのごとく慎重にヘンゼルの魂だけを浄化していく。
それはまさに、外科手術のような作業だった。
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