16 突入した先に
「おお……。
地下にこんな広い場所が……!」
「ナユタ、静かに」
みんなを連れて「転移」した。
そこは敵拠点の船着き場だ。
ドワーフのナユタは地下だということで、少しテンションが上がっているようだ。
最近はダンジョンへ行く機会も減っていたし、地下が恋しかったんだろうなぁ……。
「これは、鹵獲しておきましょうか」
私は船着き場にある潜水艦と思しき物体を、「空間収納」の中へと仕舞い込んだ。
何かに使えるかもしれないから……という一方で、敵の逃走手段を奪う目的でもある。
『ダリー、地上の監視をお願いします』
『かしこまりました』
念話でダリーへと、指示を改めて送った。
彼には無数のコウモリを用いて地上を監視し、何か変化があった場合にはすぐに報告するよう、言い含めてある。
私は今回の突入で、麻薬事件に決着をつけたいと思っているが、その為にも関係者は誰1人として逃がさない心づもりだ。
「……では、可能な限り、敵は捕縛する方向でお願いします。
色々と情報を引き出したいので。
ただし自分の命が最優先ですから、危険を感じたら相手の生死は気にしないように」
「おう、行くぞ!」
「承知!」
ナユタとアカネが、先陣を切って進む。
「……」
「ふえぇ……」
その後にマオちゃんとルヴェリクが続き、私は最後尾でバックアタックを警戒する。
いや、一応前方にいる敵の存在や罠も感知するけれどね。
ただ、ここは敵の拠点なので、あちこちに罠を仕掛けていたら自分達が不便だ。
そこまで警戒する必要は無いのかもしれない。
問題は魔族の強者がいるかどうかだ。
またクオ……蟻神クオハデスのような存在がいれば、たぶん私以外では対処できないだろう。
そんな奴がいなければいいけど……。
しかし私の危惧とは裏腹に、拠点の攻略はスイスイと進んだ。
出現する組織の構成員も普通の人間ばかりで、無力化は難しくない。
いつも通り「奴隷契約」で反抗できないようにしてから、王都へ「転移」させておく。
それに出荷前の麻薬を発見したら、それも押収しておくよ。
それから私達は、麻薬の臭いを辿りながら奥へと進む。
この臭いの濃さは、大量の麻薬がある証拠。
どうやら探していた製造工場が、ここにはありそうだ。
そして私達は、そこへと辿り着いた。
そこは広い空間──。
「プール……?」
1辺が30mほどはあるだろうか。
正四角形の水面が見える。
その周囲で数人の作業員らしき者達が、何かをしていた。
「……この強い麻薬の臭い。
あれ、全部麻薬の原液ですか!?」
いや、原液をあんな剥き出しの状態で、保存していいの!?
プールにガソリンを満たすくらい、危険じゃない?
気化したのを吸い込むだけでも、ヤバそうだけど……。
「一応、私達の周囲を空気の層でガードしますが、激しく動くと散ってしまいます。
ここの空気は、なるべく吸わない方がいいですね。
あと、麻薬製造方法を知りたいので、あの人達は必ず生かしたままで捕らえてください」
「分かったぞ、師匠。
あいつらを捕まえてくる!」
「お任せあれ!」
ここにいる組織の人間は、ナユタとアカネでどうにかなるだろう。
私は麻薬の原液を回収するかな。
膨大な量だけど、私の「空間収納」の中になら全部入るだろう。
そして回収した麻薬は、後日に焼却処分しようかね……。
で、プールから麻薬の原液を回収していると、水位が下がった原液の中から、何か巨大な物が姿を現した。
「ひ……ひぇ……」
ルヴェリクが怯えた声を上げる。
だけどそれは、無理もないことだろう。
これは……竜?
死体ではないと思うけど、生きている感じでもないな……。
なんというか、魂が入っていないというか……。
もしかしてこの竜からとったダシが、麻薬の原料なのか!?
いや……ダシと言うよりは、細胞というのが正確なところかな……?
原液を飲んだ人間が、超再生能力を持った怪物に変化していたし、ゴ●ラ細胞みたいなものか。
じゃあ、これを完全に焼却してしまえば、麻薬問題は解決かな?
でもこれだけ巨大な物を燃やそうとすると、この拠点を全部燃やす勢いの炎が必要かなぁ……。
もうちょっと質量が少ないのなら、対象だけピンポイントで燃やすこともできるんだけど、さすがに数十m規模の怪獣は厳しいな……。
その時──、
「これは……ヘンゼル……」
マオちゃんが、ボソリと呟く。
知っているのか、マオちゃん!?
というか、マジでその名をどこで知った?
それ、アーネ姉さんが倒した四天王の名前でしょ?
……いや、魔王ゼファーロリスなら、元部下の名前くらいは知っているはずだけど、その記憶はマオちゃんから失われているはず……ではないのか?
「え?」
「あ」
私の反応を受けて、マオちゃんは思いっきり目を逸らした。
きさま!
知っているなッ!?
次回が今年最後の更新かなぁ?