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11 第三の形

 ルヴェリクから第三の人格が現れた。

 お嬢様タイプで、貴族としての生活を担当する人格のようだ。

 それじゃあ……あの少年の人格は、何を担当しているのだろうか?


 それは気になるけど、まず直面する問題は……。

 

「あの……ルヴェリクさん、これまでのことを理解していますか?」


「……ええ、ある程度は」


 ああ、記憶はあるのか。

 また一から説明しなくちゃ、いけなくなるのかと思ったわ……。

 別人格は主人格を守る為に存在しているのだろうから、外部の状況を観測する手段を持っているのかな?


「あの……お話なら、ここ(玄関)ではなく中でゆっくりとなさった方が……」


「あ、そうですね」


 メイドのケシィーからの進言で、場所を移すことにした。

 で、食堂へ行くと、


「あ、師匠、おかえりー」


 ナユタが晩酌をしていた。

 彼女もドワーフだから、見た目はまだ少女でも、お酒が好物のようだ。


「マオちゃんは?」


「部屋だと思うぞ。

 呼ぶか?」


「いえ、これから大事な話をするのでいいです。

 ナユタも聞きたくなかったら、お部屋へ戻ってください」


「そっか」


 ナユタはそのまま晩酌を続けた。

 話の内容はどうでもいいらしい。

 というか、ルヴェリクの存在も気にしていない。

 彼女もかなりマイペースだ。

 アルコールが入ると、その傾向は更に強くなる。


 というか、クオがルヴェリクに対して殺気立っているから、関わりたくないのか……。

 それでも部屋を移動するほどではないと判断しているのだから、慣れたものだ。


 さて、改めてルヴェリクの別人格に、話を聞こうと思う。

 私達はお互いに向かい合って、席に座る。

 クオは私の隣に座り、誰にも渡すまいとしているのか、私の腕へとしがみついた。


「それでは改めて、お話を聞きたいと思いますが……。

 あなたはあの少年の方の記憶を、持っているのですか?」


 それが分かれば話は早い。

 しかし──、


「私達はお互いに干渉しないことにしているから、それは分からないわね」


 分からないかぁ……。

 となると、ルヴェリク本人が、人格を統合するしかないのかな?

多重人格者が人格を統合すると、他の人格が持っていた記憶をすべて知ることができるという。

 とある症例においては、普通は記憶が残っていないはずの、幼児の頃の記憶まで──。


 そういう話を聞くと、実は私達も幼少期に未成熟なものから成熟したものへと、人格が交替しているのかもしれない……とか、考えてしまうね。

 実際、最初から確立された人格を持って転生した私は、誕生した直後からの記憶があるし、人格の交替が必要無かったことの証左だとも言える。

 

 まあ、仮に普通の人間も人格の交替を経験していることが事実だとしても、交替すると言うよりは、部分的に、そして少しずつ時間をかけて、置き換わっていくって感じなのかもしれないけれど……。

 いずれにしてもこの幼少期における記憶の忘却に関しては、仮説程度の話でしかない。


 さて脱線した話を戻して……。

 現状ではルヴェリクの人格を統合して記憶を戻すことは難しいし、場合によっては少年の人格に直接聞いた方がはやいのかもしれない。

 ただそれは、今すぐには無理だ。 

 

 それじゃあ……。


あなた(・・・)が、麻薬捜査に協力するつもりは?」


 その問いに、ルヴェリクの別人格は押し黙る。

 そんな彼女に、クオが噛みついた。


「ちょっと、お姉様が聞いているのだから、答えなさいよ!」


「クオ、人にはそれぞれのペースがあります。

 ()かさない」


「はぁい……」

 

 私に(たしな)められて、しゅんとなるクオ。

 一方ルヴェリクは、動じていない。

 これがあの弱々しい少女と同一人物なのか……と、驚きを禁じ得なかった。

 それから暫く時間を置いた後に、彼女は口を開く。


「……()なりに必死なのよ。

 邪魔はしたくないですわ……」


「……それでは、ルヴェリク本人が動くのは?」


「……好きにすればいいでしょう。

  ただし、私達を1つに戻すのは、お勧めしないわ」


 ……?

 それはどういう……。

 ルヴェリク本人に、見せたくない記憶があるのか?


「それではあの少年から、直接聞かなければならなくなるのですが……。

 あなたから取りなすことはできないのですか?」


「……彼は私の言葉を、聞かないと思いますわ」


「そうですか……」


 私達の間に、重い沈黙が漂った。

 その時──、


「ママ……おかえり」


「ああ、ただいま」


 食堂にマオちゃんが入ってきた。


「!?」


 しかしその姿を見て、ルヴェリクが明らかに動揺する。

 魔族らしい魔族を、初めて見たから……?

 いや……。


「あなた、やはり魔族と、何かしらの関係がありますよね?」


「……!」


 私の指摘に、ルヴェリクは再び沈黙する。

 しかしそれは、何かを喋りたくないというよりは、彼女の中で精神的な動揺が生じているかららしく、その意識は半ば朦朧としている。


 そして──、


「ふぇ……。

 あれ……?」


 ルヴェリクの人格は、元の状態に戻ってしまったようで、記憶の断絶に困惑する姿がそこにはあった。

 そろそろ除雪作業の為に、更新できない場合がでてきそう……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔法有りファンタジーだし、複数の身体を用意しても造作もないかもw
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