10 一時帰国
「そんな訳で、この娘を私の助手として、連れていきますので。
必要に応じて王国へも同行させますが、よろしいですね?」
「うん、いいよ~」
アーネ姉さん、軽いなぁ……。
何も考えていないだけかもしれないが……。
ともかく姉さんの許可を得たので、ルヴェリクを捜査に連れて行ける。
「ほ、本当に皇帝陛下の、妹さんなんですねぇ……」
ルヴェリクは姉さんを前にして、茫然としている。
姉さんに対しては、挨拶すらしていない。
本当なら臣下として、色々と礼を尽くさなければいけない立場だけど、礼儀作法などの勉強も別人格に押しつけていたようなので、その辺もちょっと駄目っぽいな……。
いや……マジでこのままだと、いつか不敬罪とかやらかすぞ、この娘……。
現時点でも、礼儀作法とかにこだわりがない姉さんが相手じゃなかったらアウトだ。
人格の統合に時間がかかるようなら、彼女自身に再教育を施さないといけないかもなぁ……。
「それではリーザさん、アシュライ伯爵家の捜査の方はお願いします」
「分かったでしゅ」
なお、ルヴェリクの実家であるアシュライ伯爵家については、彼女が接触を嫌がったので、捜査は他人に任せることにした。
実家とはいえ、彼女にとっては何も良い感情は無いようで、むしろ今回の件で叱られるのを恐れている様子。
まあ、実際に実家で厳しい教育を受けていたルヴェリクが、親達の圧力を受けて捜査を邪魔するような言動をとるかもしれないし、もしかしたら実家と共犯関係にある別人格が表に出てきて妨害してくる可能性もある。
ここは接触させない方が良いだろう。
さて、1度王国に戻るか。
あちらでも麻薬関連の事件が起こった地域について調べさせているけど、そろそろ情報が纏まっているはずだ。
それにマオちゃん達の顔も、見たいしね。
とりあえずもう夜なので、クラリスのところへ行くのは明日にして、王都の領事館へ帰るか。
という訳でルヴェリクと一緒に、「転移」で移動する。
「ふぇ……?
一瞬で違う場所に……?
ここはもうローラント王国なのですか?」
「ええ、私の王都での拠点である、トウキョウ自治領の領事館です」
「自治領の……?」
「ああ、言い忘れていましたけど、私は王国の辺境伯なのですよ」
「ふぇ~」
ルヴェリクは驚いているけど、相変わらず態度は変わらない。
他国とは言え、一応侯爵クラスの地位で、ルヴェリクの伯爵家よりも上なんだけどね。
まあ、皇帝の妹が相手でも変わらなかったので、もうずっとこのままかもしれない。
で、玄関の前までいくと、メイドのケシィーとクオが待ち構えていたかのように出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「おかえりなさぁい、お姉様!」
……イヌ型獣人とイヌっぽさを競って、何処へ向かうつもりなんだ、この元アリは……。
「って、またお姉様が、女を連れ込もうとしていますわ!?」
「だから人聞きの悪いことを、言わないでください……」
私、女遊びをしたことなんて、ないんですけど……?
キツネとしての発情期がある所為か、普段はそんなに恋愛をしたいという気持ちが湧いてこないんだもの……。
勿論、発情期が来たとしても、私には理性があるから、恋仲でもない相手に対して、強引に迫るつもりはない。
そもそも私の周囲にいる娘達って、私から見ればまだ子供だし。
まあ、女の子の知り合いばかり増やしていることだけは否定できないので、クオの危惧も分からないではないけれど……。
「あなたは何者ですの?
名乗りなさいな!」
「えっ……そのっ……」
クオの迫力に押されて、ルヴェリクは言いよどむ。
クオは元魔王とは思えないほど小物な性格をしているので、脅威に感じた相手にはすぐに噛みつくんだよねぇ。
弱い犬ほどよく吠えるんだよ?
「なんですの?
挨拶もできませんの?」
クオが詰め寄る。
これじゃあ小動物のようなルヴェリクでは、怯えて答えられないだろうな。
ここは私が助け船を出してやろうか……と、思っていたところ──、
「なんなのですか、この無礼者!!
人に名を問うのなら、まず自分から名乗りなさい!!」
「「は?」」
突然ルヴェリクが、居丈高な口調で喋りだした。
さっきまでとは、まったく印象が違う。
この突然の変貌に、私達は唖然とした。
こ、これはもしかして……ルヴェリクの第三の人格?
おそらくこれは、貴族社会での生活を受け持つ為の人格なのだろう。
貴族のお嬢様タイプのクオに詰め寄られて、それに対応する為に眠っていた人格が表に出てきたのか……。
やばいな……。
他にも人格があるのなら、結構面倒くさいぞ……。
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