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7 引き裂かれた心

 麻薬密売組織の拠点から連れ帰った男装少女が目覚めると、その様子はすっかりと変わっていた。


「ふえっ、なんで私、こんな格好を!?」


 粗野な少年風だった印象から一転して、彼女はか弱い小動物のような雰囲気を醸し出している。

 もしくは身体(からだ)の大きな幼女。


 しかも彼女は、自身の現状をまったく理解していない。


 これではまるで別人だ。

 演技……ではないよな?

 だとすると、魔法で精神を操られていたけど、その術が解けた……?

 いや……これはもしかすると……。


 う~ん……どれどれ。

 私は少女のオーラ()てみる。

 本家のアリゼほどではないけど、私も練習したので人のオーラを視ることができるようになった。

 オーラはその存在の本質を表すものだ。

 そこから得られる情報はかなり多い。


 で、少女のオーラを視ると、色は綺麗なようでいて、所々で濁った色が重なっている。

 つまりこの少女のオーラは1つではなく、幾重にも重なっている。

 本来、オーラは1人に1つ。

 それが変質することはあっても、複数持つことは通常では有り得ないという。


 あるとすれば、何かしら霊的な魔物に取り付かれているとか、何者かの魔力に──たとえば呪いのようなものに浸食されている場合だと聞くけれど、この少女の場合はすべてのオーラが根本の部分で繋がっているように見える。

 となると、これは……。


 いや、取りあえず、本人から話を聞いてみようか。


「えーと、君。

 自分の名前は言える?」


「ふえっ、皇帝陛下!?」


 彼女は私に話しかけられて、初めて私の存在を認識し、そして驚愕する。

 ふむ、アーネ姉さんのことは知っているのか。


「いえ、私は妹です」


「え……そんな御方がおられるとは……?」


 まあ、知らないだろうな。

 私も姉に皇帝がいるなんて、最近まで知らなかったわ……。


「で、お名前は?」


「は、はひ、アシュライ伯爵家の長女、ルヴェリクと申します」


 ふむ、自分の名前は把握しているんだ。

 ならば普通の記憶喪失ではない。


「では、今まで自分が何をしていたのかは?」


「えっ……朝に食事をして……それから……それから……。

 分かりません……気がついたらここに……。

 また……?」


 また(・・)……?


「過去にも、記憶が途切れたことがあるのですね?」


「あ……!」


 図星を突かれたかのよう、目を見開く。

 ルヴェリクには、心当たりがあるようだった。


 やっぱりこれ、解離性同一性障害──いわゆる多重人格の症状じゃないかなぁ……。

 この異世界では同一の物として扱っていいのかは分からないけど、前世で多重人格者について記した本を読んだことがある。


 複数の人格の発生については、多大なストレスから精神を守る為に、新たに生み出した人格にそれを押しつける……そんな感じだったと思う。

 ただ、そうして生まれた人格の中には、元々の人格が持ち得ない技術を使えたり、他国の言語訛りがあったりと、何処でそれを身につけたのか、不可解な部分もあった。


 それはまるで、他者の霊魂が取り憑いているかのようにも見える。

 あるいは、前世が表面化しているのか……。

 実際に輪廻転生を経験している私だからこそ実感できるけど、前世の人格が何かしらの影響を与えている可能性があるんじゃないかなぁ……と、思わないでもない。


 いずれにしても、前世が云々ということを検証して、その真実を究明するつもりもない。

 そんな暇も手段も無いからね……。

 そもそも、そういう原因的なことは重要でもないんだ。


 問題なのは、目の前にいるルヴェリクが、その多重人格らしいということだけなんだよね。

 多重人格の症状の中には、彼女と同様に記憶の欠落というのはあったと思う。

 そして他人から見れば、性格が他人のように豹変するというのも。


 ルヴェリクの記憶が欠落している間は、別の人格に切り替わっているのだろう。

 それがあの少年のような人格だ。

 おそらくそちらの人格ならば、麻薬密売組織の詳細を知っていると思うんだけど、そいつが表面に出てこないと、話を聞くことすらできない。


 確か本来の人格が、他の人格を統合して1つになれば、すべての記憶を知ることができるらしいけど、どうやったら統合できるのか、確実で即効性のある方法が無いんだよなぁ……。

 かといって、自然に症状が好転するまで待つ訳にもいかない。


 ルヴェリクの別人格がしてきたかもしれないことは、最悪の場合は極刑も有り得る。

 本人は関係していないのだから減刑することは可能だろうけれど、このまま放置は有り得ない。


 取りあえずルヴェリク本人に、自分の現状を把握してもらおう。

 その上で別人格の罪を、彼女自身が償う必要がある。

 彼女にとっては理不尽かもしれないけど、そうしないと問題が解決しないのだ。


「それではあなたに、麻薬密売組織の捜査協力をしてもらいましょう」


「ふえっ?」


 ルヴェリクは、私の言葉の意味が理解できなかったのか、一瞬ポカンとした表情になったが──、


「ふええええええぇぇぇ~っ!?」


 一拍おいて言葉の意味が理解できたのか、悲鳴のような声を上げた。

 あくまで異世界のことなので、実際のものとは異なると思ってお読みください。

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