6 奇妙な在り方
麻薬組織の拠点に乗り込んだら、貴族と思しき少年がいた。
地位がある立場の人間が、犯罪組織と関係している……ということは、もしかして組織の黒幕とか……?
でも、まだ少年が黒幕ってことは無いでしょ……?
親の使いっ走りか、組織に騙されて利用されているってところかな……?
いずれにしてもこの少年を捕らえないと、話は聞けないな。
そして少年も私と戦うつもりのようで、魔法の発動を補助する杖──と言っても、菜箸のような小ささだが、それをこちらに向けていた。
「抵抗するつもりですか……」
「当然だ!
皇帝を僭称する、憎き化けギツネめ!!
まさかこんなところまで、乗り込んでくるとは……っ!!」
おや?
この少年、私をアーネ姉さんと勘違いしている?
そして姉さんのことを、以前から恨んでいる感じ?
まあ、姉さんもどこからともなく突然帝国に現れて、横からいきなり皇帝の座を掻っ攫っていった形だから、帝国の権力構造に大混乱を招いたことは想像に難くない。
そりゃあ……権力の座から滑り落ちた貴族からは、恨みの1つや2つは買っているだろうなぁ……。
この少年は、姉さんに恨みを持つ貴族の関係者かな?
「地獄へ墜ちろ!!
この姦婦めっ!!」
おいおい、あまり強い言葉を使うなよ。
弱く見えるぞ。
……まあ、実際に弱いのだろうけど。
ともかく少年は、私に向けて攻撃魔法を放つ……が、よりにもよって「火属性魔法」かよ。
「あ、それ私に効かないんですよ」
火では私にダメージは与えられないし、そもそも少年の未熟な術では、私が着ている耐火性能が付与された服ですら焦はすことができない。
「なっ!?
それならばっ!!」
「無駄無駄無駄ーっ!!」
次は氷の礫がこちらに飛んでくる。
弾丸のような勢いだから、当たれば痛いでは済まないが……。
けれどそれは、「空間収納」に格納しちゃうよ。
そしてすかさずその礫を、少年に向けて開放!
「ぎゃっ!!」
礫の直撃を受けた少年は、簡単に気絶する。
当たり所が悪ければ即死したかもしれないけど、そこは急所を避けるように上手く調整した。
「これで拠点の制圧は完了」
他には人の気配は無いようだし、麻薬も全部回収した。
後は帝国の手に委ねよう。
これだけの地下空間なら、地下街としても防空壕としても活用できるだろう。
そのように行政の手で管理している間は、おいそれと犯罪組織に利用されることは無いはずだ。
「……って、え?」
気絶した少年の気配が変化している。
あれぇ……これ、男装女子?
でも馬鹿な……!?
私が女の子の──こんな美少女の変装を、見破れなかったなんてことは有り得ない。
さっきまで確実に、男の子の気配だったぞ……?
しかし今は、艶やかな茶髪に、繊細で儚げな顔立ち、白い透き通るような肌──。
やっぱり美少女だよなぁ……?
先程までの粗暴な少年とは、まったく別人のように見える。
いや、よくよく見れれば、外見自体は変わっていない。
ただ劇的に気配だけが、変わったような……。
この子は一体何なんだ……?
これは色々と調べて見る必要があるな……。
で、謎の少女を連れて城に帰ると──、
「アイちゃん、お帰りなさ~い」
アーネ姉さんがベッドの上でだらけていた。
その横で、リーザが大量の食器を片付けている。
「……姉さん、分身を作る特訓は?」
「え……?
丁度今、休憩入ったところだよ~」
ええ~?
ほんとにござるかぁ?
リーザが片付けている食器の数を見るに、結構な量の飲み食いをしていたようだが……。
食べ放題90分コースかな?
「それでは、特訓を再開しましょうか?」
「ええ~?」
嫌そうな顔をするなよ。
自分が将来、楽する為でしょ。
「あ、リーザさん。
麻薬組織を潰してきました。
他にも拠点があるかもしれませんが、最大級の拠点を潰したことは間違い無いと思うので、しばらくは帝都も平和になるでしょう。
しかし根絶には至らないので、引き渡した構成員から情報を引き出して、取り締まりを強化してください」
「はい、分かりましたでしゅ。
でも地方で起こった事件の情報については、まだかかりそうでしゅ……」
ああ……まだ麻薬の生産拠点は、突き止めていないからなぁ……。
輸送のことを考えると、帝都と王都の中間地点にあると思うんだけどねぇ……。
それを知る為にも、この謎の少女からは、色々と聞き出さないとね。
しかし──、
「ふえぇ……ここ何処ですかぁ?
どうして私、こんなところにいるんですかぁ……?」
……何処の朝比奈み●るだよ?
どうやら目覚めた本人は、何も覚えていないようだった。
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