4 代 理
「ねえ、皇帝やってよ、アイちゃ~ん」
アーネ姉さんは、私に縋るように請うた。
まったく……それが誇り高き皇帝の姿かね……。
そして私の答えはというと、それは当然──、
「嫌どす」
絶対にノゥ!!
なんだか姉さんから、物凄く面倒臭いことを押しつけられそうになっているけど、嫌ですぅ~!!
それに皇帝の代理なんて、私じゃなくてもいいだろう。
「そもそも皇帝の実務って、宰相の人がやっているんですよね?」
「そうでしゅね」
リーザに確認すると、やっぱりそうだった。
キツネ育ちの姉さんが、小難しい政務とかをまともにできるとは思えないもの。
姉さんが受け持っているのは、たぶん儀礼的なことと、国の防衛だけだろう。
「それならば姉さんの負担は、大したことないですよね?
我が儘を言わないでくださいよ……」
「え~、面倒臭いよぉ~!
大したことが無いなら、アイちゃんがやってよ~」
だから嫌だって、言っているだろ!
「姉さん……その地位は、姉さんだからこそ与えられた責任ですよ。
簡単に投げ捨てていいものではありません。
立派な後継者を育て上げるまでが、あなたの責任です」
「そんなぁ~……」
とはいえ、このままだといつか何かをやらかしそうだな……。
別の方法を考えよう。
「仕方がありませんね……」
「皇帝、やってくれるのぉ!?」
「やりませんが……」
私は大きく溜め息を吐く。
「代わりに分身を作りましょう」
「……分身?」
「私達の尻尾は、切り離しても操ることができるでしょう?」
「え……できるのぉ?
そんな痛いこと、しないよ……」
何故かドン引きされた。
痛覚軽減のスキルを使えば、大した痛くはないよ。
再生させることだってできるし。
大体、野生の世界ではケガが日常茶飯事なんだから、多少の痛みなんて慣れっこでしょ。
「ほら、こういう風に」
私は尻尾を1本切り離して、うねうねと空中を泳がせてみせた。
「うわ、気持ち悪い!」
なんだとぉ!?
綺麗な尻尾やろ。
エリマキにもできるぞ!!
素人は黙っとれ──。
で、切り離した尻尾に魔力を込めて、自在に操るところまでは、そんなに難しくない。
しかしそこから一歩先へと、難度を高めると──。
「え……?」
「尻尾が人の姿に……?
って、裸でしゅ!?」
私がキツネの姿から人型に変化する──その時の感覚を尻尾にも適用した。
そうすることで、尻尾を人型へ変化させる訳だ。
おっと、裸のままではアレなので、皮膚を変化させて衣服に見せかけよう。
これで分身は完成だ。
「あとは奴隷術式の要領で命令を書き込んで、行動パターンを決めておけば、簡単な代理くらいは務まるでしょう」
自律活動もできるが、必要なら遠隔で操ることもできる。
「凄ーい!
これ、私にくれるのぉ?」
「いや、あげる訳無いじゃないですか。
私の尻尾ですよ。
私がいなくても使えるように、姉さんもこの技術を習得するのですよ」
と、私は分身を尻尾の形に戻して、元の場所にくっつけた。
まあ、くっつけなくても、いずれは生えてくるけどね。
しかし姉さんは嫌がった。
「ええーっ!?
そんな痛くて、難しそうなことをーっ!?」
「なんでも私に頼られても困るので、自分のことは自分でできるようになってください……」
姉さんがいくら嫌がっても、私は姉さんが習得するまで教えるのをやめない!!
スパルタ式でいくよ~!
「うえぇ~……」
そんな訳でこれからは、姉さんに分身を作る技術指導しつつ、麻薬対策を講じることにする。
そもそもこの為に、帝国へ来たんだからね。
まずはリーザにお願いして、国内で麻薬関係の事件が起きた場所をリストアップしてもらう。
おそらく事件が多く起きている地域の周辺に、麻薬密売組織の拠点がある。
まあ当然というか、流通の発達していないこの世界では、麻薬を運ぶ為には時間やら費用やら人員やらと、色々なコストがかかるしね……。
だから拠点に近いところから、麻薬が広まるのは当然だろう。
ただ、「転移魔法」とかを使われると話は違ってくるので、あくまで参考にしかならないけれど。
「というか……、麻薬組織の拠点について、女神のお告げは無いのですか……?」
「今のところ、無いですねぇ……。
ただ、アイ様を呼べ……とだけ」
私に全部丸投げかい!
う~ん……。
取りあえずその麻薬事件発生地域のデータが上がってくるまでは、帝都にある拠点だけでも突き止めて潰しておくかな。