3 皇帝への道
我らが長女のアーネが、帝国の皇帝になっていた。
皇帝といえば、人間の国の王様ですよ?
なんでキツネが、そんな立場に?
いや、今の姉さんは、キツネ耳と9本の尻尾を生やした美女の姿なので、キツネには見えないが……。
それでも人間ではなく、獣人や魔族だと人々からは認識されるはずだ。
国民は……納得しているのだろうか……?
ただ、着ている服も皇帝らしく高価そうなものだし、頭上にだって小さいけど王冠も載っている。
それを見ると、姉さんの見た目だけは、確かに皇帝なんだよね……。
『ネネ姉さんが、『いつの間にかアーネ姉さんがいなくなった』……って、心配していましたよ。
今までどこで何をしていたんですか?』
「あ~、ネネちゃんには、もう会っているんだっけ?
あの子、結構せっかちだから、落ち着きがなくってねぇ……。
私はゆっくり旅をしたかったのに……。
だから置いてきちゃった」
おい、なにその「てへ、ペロ」みたいな軽いノリ。
これはあまり悪いとは、思っていないようだね……。
アーネ姉さんは、気分屋なところがあるからなぁ……。
おっとりしているから、あまり人を振り回す我が儘は言わない方だけど、それでも気まぐれな性格をしているから、その言動についていけないところがあるんだよなぁ……。
果たして皇帝なんて大変な仕事を、本当に上手くできているのか……?と、心配になる。
「つもる話もあるでしょうから、お食事をしながらどうでしゅか?」
「あ、そうね。
そうしましょう」
『あ~……じゃあ、私も人型になって着替えますね』
最初に帝国側から面会を申し込まれた時、「赤いキツネ」と名指しされたので私はキツネの姿をとっていたけど、どうやら帝国側も私の正体を知っていたみたいだし、人型を隠す理由はもう無いや……。
というかリーザも私が皇帝の妹だと知った上で、黙っていたな……。
この私を謀るとは……なかなかやりおる……。
その後、宴席が設けられ、私は食事をしながら姉さんから話を聞くことになった訳だが……。
「美味しい~」
「そう……ですね」
アーネ姉さん、ネネ姉さん並みに食べるな……。
これで太っていないのだから、我が姉ながらよく分からない存在だ……。
「で、姉さんはどのような経緯で、皇帝をやることに……?」
「あ~……それねぇ……。
リーザちゃんの所為なのよぉ」
「その言い方は語弊があるでしゅよ!?」
ふむ……やっぱりリーザの能力絡みなのか。
ちなみに彼女も、一緒に食事をしている。
普通は皇族とその配下が、同じテーブルを囲むことは無いのだろうけど、姉さんは身分とかは気にしないだろうね。
「でもリーザちゃんの言うことを聞いていたら、こうなったのは本当よぉ」
確かにお告げの通り行動して、常に正解を引き当てていれば、社会的な成功を収めることは不可能ではないだろう。
でも、さすがに皇帝は無理じゃない?
私が不可解そうな顔をしていると、姉さんは核心に触れる発言をした。
「リーザちゃんが、『皇帝は魔族に乗っ取られている』って言い当てて、その魔族を倒したらこうなったのよぉ」
「……端折りすぎでは?」
でも、大体把握した。
この帝国にいたはずの最後の四天王──。
そいつの妹だというリビーは、「兄と連絡が取れなくなった」と言っていたが、まさか姉さんが倒していたとはね……。
そして姉さんはその四天王から、この帝国を救ったんだ。
だから皇帝になった……というよりは、その座を押しつけられた。
他に魔族に対抗できるほどの能力を持つ者が、この国にはいなかったから……。
1度魔族によって皇帝を乗っ取られた帝国では、2度目の侵略には姉さんとリーザ抜きでは勝ち目が無いだろうしなぁ……。
それにしても姉さんは、私よりもチートな異世界生活っぽいことしてない?
これは外伝の主役になるタイプだな……。
「だけど皇帝って、結構大変なお仕事なのよぅ~」
「でしょうね」
「だからアイちゃんが、私の代わりにやってくれない?」
「……は?」
何を言い出すんだ、この人?
暫く見ない間に、厄介さが増してない?
「私達ってそっくりだから、きっと入れ替わってもバレないよ~」
「それはそうでしょうけども、私も忙しいのですが!?
というか、そもそも麻薬の件で、私を呼び出したのではないのですか!?」
「……?」
「いやいやいや!」
姉さんが首を傾げる。
最初の口実すら忘れているぅ!?
「あの……しゅみません。
どうか陛下の説得をお願いしましゅ」
「あ、はい」
ああ、リーザ的には、姉さんの我が儘を止めて欲しくて、私を招いたのか……。
さて……どうしたものかなぁ……。
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