プロローグ 帝国行き
ニューヨー……じゃなくて、クバート帝国へ行きたいか~!?
──と、聞かれたら実はそれほどでもないのだけど、なんだか必要に迫られて行くことになった。
帝国よりの使者でエルフのリーザによると、やはり少し前から帝国でも麻薬の被害が問題になっていたようだ。
そんな時に王国から警告が届いた。
その麻薬は人を魔物にする物で、密売組織の背後には魔族の犯罪者がいるかもしれない──と。
帝国はその警告を深刻に受け止め、王国へ協力を求めることにした……という訳なのだが、何故リーザが使者として来たのかについては、女神からの啓示を受けたかららしい。
『その女神が私に頼れと?』
「ええ、私の顔見知りで頼れるから……と」
ああ、私と女神に面識があるというところまで、リーザは知っているのか。
となると、いよいよ彼女の言葉に信憑性が帯びる。
まあ、他人の記憶を読み取る能力を持っている可能性もあるけど、そのようなスキルを使っているような気配は無かった。
特殊な能力を使う時は、大抵魔力とかの動きがあるからね。
それにしてもあの女神、他力本願じゃない?
麻薬の件は放置すると私も困ることになるとはいえ、女神ももうちょっと何かしてよ……。
ともかくこれから帝国へ行く訳だが、さすがにリーザ1人で王国へ来ている訳ではないので、現在はその随行員達を集めて、帰国の準備をしているところだ。
まあ、色々と手続きもあるので、すぐにとはいかない。
『それにしても、あなたのような小さい子が使者とは……。
やはりそのお告げを効く能力を評価されて、地位を手に入れたって感じなんですかね?』
「あの……一応成人しているのでしゅが……」
やはりエルフ……合法ロリだったか。
「確かに皇帝陛下には評価していただいているのでしゅが、私って他のことは何もできないので、過大評価だと思うのでしゅよ……。
普段はこれからの天気くらいしか、分からないでしゅし……」
確かにドジっ娘だもんね。
周囲から「コネで昇進した」とか、やっかまれていそう……。
でも、天気が分かるのなら十分だろう。
それって、農家にとってはかなりありがたい能力だぞ。
天気が分かっていれば、色々と農作業の計画は立てやすいからね。
その辺を理解してリーザを重用しているのなら、帝国の皇帝はなかなか有能なのかもしれない。
ともかくそんな訳で、出発の準備が整うまでの間、学園で時間を潰していたのだが……。
するとそこへ──。
「ママ……」
マオちゃんが歩み寄ってきた。
『あ、マオちゃん。
最近忙しい所為で、構ってあげられなくてゴメンね?』
「ううん……。
今が大変なの、分かっているから……」
と、理解ある発言をするマオちゃんだが、私を抱き上げて撫でてくる辺り、寂しいのだな……と、感じさせる。
私は尻尾で彼女の頬を撫でた。
『一緒に来ますか?』
「ううん……授業があるし、余が行くと、クオがうるさいから……」
『あ~……はい』
確かにクオは、ついてくると言い出しそうだなぁ……。
あと、アカネとかも……。
マオちゃん1人ならともかく、何が起こるのか分からない帝国へ、大勢引き連れて行く訳にもいかないか……。
不測の事態に、対応できないかもしれない。
しかしマオちゃんは、そういうところにも気が回って偉いなぁ……。
『では私の留守中、色々とよろしくお願いしますね』
「うん……」
聞き分けが良すぎるマオちゃんの頬を、私はペロリと舐めた。
なるべくスキンシップを増やして、彼女が寂しさを感じないようにしなくちゃね。
それから暫くして、準備が整った私達はクバート帝国へと旅立った。
この時の私は、帝国で何が起こるのかまったく予想していなかったけど、壮大なドッキリを仕掛けられていたことに気付いたのは、もう少し後になってからのことだ。
新章ですが、相変わらず先のことはほぼ考えていません。