20 帝国よりの来訪者
『さあ、訓練を始めるよー!』
『『『『『はーい!』』』』』
私はママンのところへ行って、麻薬捜査に協力してくれる希望者を募った。
その結果集まったのは、30匹ほどの赤いキツネだ。
もうこの子達が妹なのか弟なのか、それとも姪なの甥なのかは把握しきれない。
随分増えたなぁ。
まあ、それでもまだ個体数としては、レッドデーターア●マルズのリスト入り状態ではあるが……。
私達が単一個体で増える種族でなければ、いつ絶滅してもおかしくない数だ。
でもこの調子なら、いずれは魔族の最大派閥に返り咲くことも可能だろう。
それはともかく、スカウトをしたはいいが、この子達はまだまだ弱い。
そんな訳で、みんなをダンジョンに連れてきて、訓練を施すことにした。
ただ、人数が多く、私1人では手が回らないんだよね……。
そこで訓練は、シスの子供達に任せることにしたよ。
この子達もダンジョンで鍛えて、そこそこ強くなっているからね。
「それでは、お願いします。
隠密と索敵系の能力と、影属性魔法をメインに鍛えてください」
『任せて、おばちゃん』
「おばちゃんはやめなさい」
まだ、女の子やぞ!
そんな感じで人員増強の為に、各地を奔走していた訳だが……。
ようやく目処が付いたので、王都に戻ることにする。
そういえば、帝国の件はどうなったかな?
クラリスに聞いてみるか。
あの麻薬の危険性を、隣国のクバート帝国へ伝えるように、クラリスへ頼んでいたんだよね。
まあ帝国が、麻薬の密造に絡んでいる可能性もあるけど……。
確かまだ遭遇していない四天王が、帝国にいるはずなんだよね……。
そいつが一枚噛んでいる可能性は高い。
それでも今は国内優先だから、いきなり帝国に乗り込む訳にもいかない。
なので取りあえず警告を出して、反応を見てみる……という訳だ。
その反応次第で、対応を考えて見ようと思う。
確証が得られるまでは後回しだ。
実際、その四天王の妹だというリビーにも、接触できないか試してもらっているけど、どうにも接触できないらしいので、動きは無いのかもしれない。
確かその四天王は、勇者にて酷くやられたそうで、まだ完全に復活していないみたいんだよね。
それでも5年位前までは、その思念体と連絡を取り合うことくらいはできたらしい。
それがいつしか途切れたそうで、もしかしたら復活に失敗して力尽きたのでは……というのがリビーの話。
それならば、今は探りを入れるだけでもいいだろう。
王城に辿り着き、クラリスの部屋へと「転移」すると、そこではクラリスが気だるげな表情で机に向かっていた。
少々お疲れの様子だ。
麻薬の件とか、色々と面倒事があるからなぁ……。
「クラリス、帝国の反応は?」
「……一緒に協力して対応したい……と、使者が来たわよ」
え、マジで?
「帝国でも麻薬は、問題になっているみたい。
捜査員の人員が行き来できるように、したいって……」
ふむ……それでスパイを送り込む……とか、何かしらの罠……ってこともあるのかな?
「それで……その使者は、あなたに会いたがっていたわよ?」
「は……?
なんで私なんですか?
帝国に知り合いはいないのですが……」
「私だって知らないわよ。
『赤いキツネはいないか? いや、いるはずだ』……って聞かれて、あなたの存在を確信しているようだったから、誤魔化しきれなかったわ。
だから、今はいないと答えても、『じゃあ待つ』……って」
と、クラリスも困惑気味だった。
う~ん、私は裏社会で賞金首になっていたから、その情報を掴んで……?
あ、そういえばネネ姉さんが人身売買組織を潰し回っていたのって、帝国の方じゃなかったっけ?
その使者は、姉さんと会いたがっているという可能性もあるな。
でも、どういう立場の人間なんだろう?
裏社会側の人間だとすれば、敵ということになるけど……。
それとも、人身売買組織を潰したことで何らかの利益を得た者が、姉さんに礼を言いたい……とか?
「……って、待つ?
まだ国にいるのですか?」
「短期留学ということで、学園に通っているわね」
「なんで!?
生徒は危なくないんですか、それ……?」
視察にしても、ピンポイントで元魔王や勇者の末裔がいるところに通うって、おかしくない?
「さあ……レイチェルがいるから、大丈夫でしょ?」
まあ……レイチェルは勿論、マオちゃんもナユタもアカネも実力者だけど、人質とかを取られたらどうなるかは分からない。
ここはその使者と直接会って、その人となりを見極めた方が良さそうだな。
「それでは、学園に行ってみますね」
「ええ、見ればすぐに分かると思うわ。
くれぐれも問題は起こさないでね」
なにその私がトラブルメーカーみたいな、物言いは……。
ともかく私は、その帝国の使者と会う為に、学園へ行ってみることにした。
ブックマーク・☆での評価・誤字報告・いいね・感想をいただけると嬉しいです。