19 増員計画
人間を魔物へと変える麻薬を根絶する為に、国ぐるみで対策をしなければならなくなった。
しかし、その為の人員が足りない。
今回の事件が明るみに出た切っ掛けは、吸血鬼のダリーに素行不良の貴族を調べさせた結果だけど、彼だけではすべての貴族は勿論、国中の隅々まで調べることは不可能だ。
だから人員の増強は急務だが、ダリーほどの隠密捜査能力を持つ者は、シスとココア以外だとシファくらいしか心当たりが無いんだよなぁ……。
ネネ姉さんは大雑把なので、隠密活動には向かない。
いずれにしても、彼女達には他に役割があるので、捜査人員として引き抜く訳にはいかない訳で……。
もう仕方がないので、
「ダリー、眷属を増やしてください。
犯罪奴隷の中から選抜して、捜査に使える人員を育てるように」
あまり良いことではないが、吸血鬼を増やそうと思う。
「ええっ!?
私、ご主人様以外の血は、あまり飲みたくないのですが!?」
と、ダリーは渋る。
彼は私のことが大好きだから、血も私のものしか飲みたがらない。
だけど吸血しないと眷属は増やせないので、ここは我慢してもらうしかなかった。
実際、本当は牛とかでも大丈夫らしいし、私がいない時はそうしているとか……。
「でも、今は人手が足りなくて困っているので、どうかお願いします」
私に頭を下げられると、ダリーも従者の立場としてはこれ以上抵抗できないよね。
立場を利用するのは私も不本意だけど、それだけ非常事態なのだ。
「む~……分かりました。
まずは姉さんに声をかけてみます」
え、シェリー?
姉を吸血鬼にするの?
「いいのですか?」
「前から、いずれは吸血鬼になりたいと言っていたので……」
そうなの?
そういうことなら……。
ということで、「転移魔法」でトウキョウ自治領からシェリーを連れてきたけど──、
「本当に吸血鬼になっても?」
「ええ、喜んで!」
シェリーは迷い無く頷いた。
「人間ではなくなってしまうのに、そんなあっさりと……」
「今はいいですけど、あと数年もすれば、弟よりも凄く老けて見られるんですよ?
そのなの、耐えられる訳無いじゃないですか……!」
「あ~……」
ダリーは吸血鬼になった時点で、成長も老化も止まっているもんね……。
結果として姉のシェリーは、現時点でさえ年子なのにダリーよりも5歳以上は年上に見える。
いや、年相応の美女なんだけどね。
でも、その容姿は、いずれ衰えていく……。
元々そっくりだった弟は、若い姿のままなのに……。
それは嫌だろうなぁ。
「それに私はご主人様と、永遠に生きていきたいので……」
おお、可愛いことを言ってくれる。
私も何年も前から、外見が変わらない。
たぶん魔族だから、寿命も人間よりもかなり長いと思う。
私よりもかなり弱いシファだって、200年以上も生きているしね……。
シェリーもこのままなら、いずれ寿命で私と死に別れことになっていたはずだ。
彼女はそれを恐れていた訳か……。
「分かりました。
それではお願いします」
そんな訳で、ダリーに吸血してもらうことで、シェリーは吸血鬼化することになるのだが……。
あ、吸血鬼にするかしないかは、血を吸う側が選べるそうだが、そうすることで生み出された眷属は、基本的に血を吸った主に逆らえなくなる。
弟が自身の上位になることを受け入れている辺り、シェリーの覚悟が分かるね。
「ん……っ」
吸血が始まった。
弟に首筋を噛まれている姉……しかもお互いにメイド姿というのは、背徳感があってなんかエロい……。
そもそも吸血は双方に快感が伴うと言うから、2人の表情も何処か妖艶だ。
で、5分くらいかかって、シェリーが無事に吸血鬼化したので、今度は私の血を与える。
私の血は魔力の含有量が常軌を逸しているらしく、これを飲んだ吸血鬼は急激に強化されるらしい。
さすがにすぐとはいかないけど、吸血鬼の弱点である日光もいずれは克服できるだろう。
「ほら……シェリー」
「はい……」
ちなみに普通の武器では私の身体は傷つけることができないので、自前の牙で指先を噛み切って血を与えているよ。
痛覚や再生能力もオンオフが可能だ。
姉弟が私をどうこうするとは思わないけど、牙を吸血対象に突き立てないこの方法なら私が吸血鬼にされることも無いようだし、これが1番いい。
まあ、普通に吸血されても、姉弟よりも強い私が支配されるとは思えないけどさ。
あと、さすがに身内以外には、私の血は飲ませない。
他の吸血鬼は暫くの間、夜だけ活動してもらうことにしよう。
「んっ……んっ……」
……って、しゃぶるように私の指に吸い付くシェリーが、エロいんだけど……。
顔も陶酔としているよ……。
ネコにマタタビみたいな感じなのかな?
まあそれはともかく、隠密能力に優れた吸血鬼を、少しずつ増やして麻薬捜査に役立てるつもりだけど、まだまだこれだけでは人員が足りない。
やっぱりママンのところへ行いって、弟妹達をスカウトしてくるか。
麻薬の臭いを覚えさせれば、きっと警察犬のような働きをしてくれるだろう。
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