18 膨 張
仲間から麻薬の成分を吸収した人造オーガは、更に身体を肥大化させていった。
ただその姿は、最早人型ではない。
肉が無秩序に膨れ上がり、不定形のスライムのようになっていたのだ。
それが吸血していた仲間の身体をも、飲み込んでいく。
あ……これ、AK●RAで見た奴だ。
おそらく再生能力が、暴走しているんじゃないかな?
で、形を失った肉の塊が触手のように伸び、更にもう一体の仲間を飲み込んだ。
その結果、膨張のスピードは加速していく。
これはあかん!
飲み込まれたら、カ●リみたいになるっ!?
『ナユタ、アカネ!
脱出します!!』
これはもう、武器で倒すのは無理だろう。
大規模な範囲魔法で、焼き尽くすしかない。
「はっ、えっ!?」
「おお、外か」
次の瞬間、私の「転移魔法」で、全員洞窟の外にいた。
一応、無力化していた麻薬密売組織の構成員も、連れ出している。
放置して肉塊へ更に餌をやるのはマズイし、あまり期待できないけど、組織の情報源にもなるからね。
少し遅れて、洞窟の奥から肉塊が押し寄せて来るのが見えた。
外へと溢れ出すのも、時間の問題だろう。
物凄い膨張スピードだ。
これは在庫の麻薬も、全部吸収したな……。
もう危ないから、徹底的に燃やすね。
私は大きく息を吸い込み、そして洞窟の入り口へと力強く吹き込んだ。
それは炎の息であり、竜の息攻撃に匹敵する威力があると自負しているよ。
実際、炎を吹き込まれた洞窟は、巨大な竈と化した。
入り口から奥は、赤く燃える炎しか見えず、こちらまで熱風が押し寄せてくる。
おっと、防御魔法の「結界」を形成しておかないと、ナユタ達も火傷をするね。
「これが……大魔王様の力……!!」
アカネが興奮したのか、身を震わせていた。
私が本気で攻撃したのを見たのは、これが初めてだっけ?
人間って、想像以上の大きな力を見せつけられると、なんか知らないけど震えるよね。
それが恐怖なのか畏れなのかよく分からないけど、本能に訴えかける何かがあるのだろうなぁ……。
「……大魔王ってなんだ?」
……ナユタには後で説明しておこう。
お、そろそろ熱で洞窟の壁が、融けて崩れるな。
これでもう出入り口は無くなるから、あの肉塊も逃げ道は無くなるはずだけど……酸素の供給が絶たれて、火力が衰えるかもしれない。
もう一手、何か攻撃を加えるかな?
だがその前に、動きがあった。
「お……!?」
「わ……っ!?」
その時、地響きが我々を揺さぶった。
おお……洞窟のあった小山の上部から、火山のように炎が噴き出した。
あの肉塊、逃げ場を求めて天井を掘ったのか。
つまり肉塊は、あの炎の中でまだ生きている。
もしかしたら地下に穴を掘って逃げようとしている可能性もあるし、徹底的に燃やさないと駄目だね、これは……。
よし、小山ごと燃やそう。
『みんなは後方へ、避難してください』
私は「転移魔法」で、ナユタ達を遠くへ逃がした上で、トドメにかかる。
『そーい!!』
私は数万の「狐火」を生み出して、小山を包み込んだ。
これで逃げ場はもう無い。
そして小山の上部に空いた穴からも、無数の「狐火」を突入させる。
おお……さっきまで火山のようだった小山が、最早巨大な炎にしか見えない。
それからもその小山は、燃え続けた。
石炭か何かに引火したのか、火勢は当分衰えそうに無い。
これは注水しなければ、何年かかっても鎮火しないかも……。
もう肉塊の気配は無くなっているけど、私は暫くその炎を眺め続けていた。
ちょっと考えなきゃいけないことが、沢山あるし……。
……これは思っていたよりも、大事になったなぁ……。
やべぇよ、あの麻薬。
あんな物が国中にばらまかれたら、あちこちで今回みたいに事件が起こるかもしれない。
それに人間さえいれば、無限に魔物を生み出せるというのも脅威だ。
いや……魔物にあの麻薬を与えることで、更に強大な魔物を生み出すこともできるかもしれない。
これはクラリスやシファと協力して、全国的に禁止薬物へ指定して取り締まらないと、大変なことになるぞ……!
もう、所持しただけで死刑にするくらい厳しく取り締まらないと、国が崩壊しかねん!
できれば製造元と思われるクジュラウスという元凶を絶ちたいところだけど、何処にいるのか分からないし、麻薬の製造場所も現時点では不明だ。
そもそも国内にあるのかどうかすら……。
もしも他国で製造しているとしたら、更に面倒な事態になるな、これ……っ!!
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