16 拠点制圧
麻薬密売組織の拠点となっている洞窟へと、我々は突入した。
アカネの影属性魔法によって暗闇に包まれた洞窟の中は、夜目の利くナユタの無双状態なので、ぶっちゃけ彼女1人だけでもいい感じだ。
ただ、そろそろ灯りが急に消えた状態に目が慣れて、敵が反撃してくる頃だろう。
『アカネ、私達の目の前に影を作ってください。
透けるくらい薄いのでいいです』
「え、はい!」
直後、洞窟内が眩い光に包まれる。
「「「目があああぁぁぁっ!?」」」
ナユタの光属性魔法が敵の目を焼いて、大量のム●カを生み出した。
でも私達の目はアカネの生み出した影で保護されているので、すぐに行動できる。
『アカネ、今!』
「わ、分かりました!」
アカネが敵に斬りかかっていく。
相手は視覚を奪われているので、簡単に倒せるよ。
こんな具合に、ちょっとした工夫で有利に戦いを進めることができることを、彼女には教えたかったんだ。
なお、ここが麻薬密売組織の本拠地なのかはまだ分からないので、組織の構成員は情報を引き出す為に、なるべく殺さないようにしている。
その為にナユタとアカネには、私が生成した特別な麻痺毒を仕込んだナイフを使わせたぞ。
2人が普段使っている武器ではないが、彼女達の実力ならばそれで十分に敵を制圧できるだろう。
事実それからも私達は、順調に敵を制圧しながら洞窟の奥へ進んでいった。
やがて広い空間に出たけど、これは地属性魔法で洞窟の壁を押し広げた感じかな?
そこには無数の木箱が、並べられている。
「これ……全部麻薬か?」
ナユタが積み上がっている木箱を見上げていった。
たぶんそうなのだろう。
私には臭いで分かる。
末端価格で言うと、数百億円とかになりそうな量だな……。
『でもこれは……本拠地ではないですね……』
「え……何故です……?」
アカネは首を傾げるが、索敵をかけて更に奥を探ってみれば、すぐに分かる。
『ここ、もうそんなに奥行きが無いのですよ。
となると、今まで無かった物は、この先にも無い……』
「今まで無かった物……ですか?」
『麻薬の製造工場ですよ』
「あ!」
これだけ大量の麻薬があるのに、それを製造する工場が無い。
この量を作る為には、かなり大きな規模の工場が必要なはずだけど、どうやらそれは別の場所にあるようだ。
『おそらくここは、麻薬を流通させる為の中継地点でしょうね。
ここから各地へと麻薬を送り出すだけで、製造工場や本拠地は別にある……。
当初の予定通り、ここの責任者を捕らえて、聞き出しましょう』
まあ、ここの人間も知らない可能性はあるので、その時ははまた奴隷契約で縛って何事も無かったかのように装わせて、組織の人間が接触してくるのを待つか。
さあ、ここのお偉いさんは、1番奥かな?
「き、貴様ら!?
たった2人で、ここまで──ひっ!?」
奥へ進むと、組織の中でそれなりに地位の高そうな男の姿があった。
護衛も何人か。
そいつらは何故か、私の姿を見て怯えている。
「あ……赤いキツネ……!?
あの、いくつもの組織を潰したという……あの賞金首の……!?
ま……まさか……」
あ~、私って裏社会から、賞金を懸けられていたこともあったな。
でも実際に組織を潰していたのは、ネネ姉さんなんですよ。
まあ、私が姉さんの立場でも潰していたので、私がやったということでもいいが……。
だけどこの誤解が、彼らを必要以上に警戒させることになったようだ。
結果、彼らはいきなり最終手段を使う。
「お前ら、あれをっ!!」
「し……しかし……っ!?」
「ここまで無傷で、乗り込んでくるような奴らだぞ!
あれくらいじゃないと、勝ち目は無いっ!!」
「くっ!!」
意を決した男達が、小瓶を懐から取り出し、その中身を飲み干した。
ん~?
この臭いはさきほどの広間に、大量に積み上がっていた木箱の中身──麻薬の……しかも原液か?
確か今王都で出回っている麻薬って、身体能力を大幅に上げたり、傷を癒やしたりする効能があるという触れ込みで売られているらしいんだよね。
最初はポーションの一種として飲んでいた者達も、その薬の依存性によって繰り返し飲み続け、やがて蝕まれていく……。
それで凶暴化した者達が、通り魔などの凶悪な事件を起こしたと聞いた。
そんな危険な麻薬を、原液で飲めばどうなるかといえば──。
「「「グッ……アアアアッ!!」」」
男達は苦悶の表情を浮かべながら、その身体を大きく膨らませていく。
その姿は最早人間ではなく、魔物──。
あ、これクオを人間にしたのと、逆の効果だ!
じゃあもしかして、黒幕はクジュラウスか!?
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