14 勇者と魔王の混成クラス
あれから私とアカネは、軽く模擬戦をしてみた。
彼女にとっても私の力がもっと分からなければ、彼女も私の下につく決断はできないだろう。
で、その戦いではアカネには本気を出させたが、私はただ立っているだけで、反撃もしていない。
それでも──、
「はあっ、はあっ……!!
ま、参りました……」
アカネは本気で戦ったが故に、あっという間に体力が尽きた。
持久力がまだまだ足りないね。
それ以前に私と互角に戦う為には、攻撃力が圧倒的に少ない。
「ま、まさか……埃をつけることすら、できないとは……」
「魔力でガードしていましたからね。
これを突破できるようになるのが、今後の課題でしょうねぇ。
それができれば、大抵の魔物は倒せるようになると思います」
私は全身を、薄い魔力の膜──ただし高密度のもので覆っていた。
これにより微細な砂粒1つ、私に触れることができないようになっていた訳だが、アカネの攻撃もこの膜を破るほどの威力は無かったのだ。
勿論、他の魔族が相手なら、多少はダメージを与えることは可能なだけの威力はあったので、彼女は決して弱くはないが……。
「私の実力はよく分かったでしょう?
私が鍛えれば、あなたは更に強くなれる……。
なんなら……闇属性の魔法も教えてあげましょうか?」
「闇っ!!」
「闇の力を使いこなす黒騎士……素敵ですねぇ……。
暗黒卿の称号が似合いそうです」
「ああ……暗黒!!」
アカネは両手で口元を覆い、フルフルと震えていた。
やっぱ中二病なら、その辺の単語は好きだよねぇ。
「……よ、よろしくお願いしますっ!!」
アカネは勢いよく頭を下げた。
ふっ、堕ちたなな……。
私は授業が終わった頃を見計らって、欠席していたアカネと一緒に教室へと戻った。
すると教室に入った途端、私達へと視線が集中する。
アカネが抱きかかえている仔ギツネ姿の私は、いつもはマオちゃんの腕の中だから、何事かとみんなは思っているのだろうなぁ……。
そしてその視線に耐えかねたのか、彼女は視線を逸らせた。
心なしか私を抱える腕も、わずかに震えている。
そんなアカネに、クオが物凄い形相でツカツカと歩み寄ってくる。
「ちょっとあなた!?
私のお姉様と、何処で何をしていらしたのっ!?」
「え……ボクは……その……!」
クオに詰め寄られたアカネは、アワアワと焦っている。
ああ……うん。
マオちゃんのことが気になるのに、なかなか声をかけられなかったようだし、コミュ障気味なんだよな、この子……。
もしかしたらシファと、気が合うかもしれない。
……共鳴して負のスパイラルを生み出しそうだから、あまり会わせない方がいいかもしれないが。
『クオ~、その子は私の弟子にしたから、絡まないように』
『え……私というものがありながら、また女を増やしたんですの……!?』
おい、人聞きの悪いことを言うなよ!
恋仲になった娘はまだいないよ!?
……まあ「念話」だから、誰にも聞こえていないけど。
それよりもまずは、アカネを落ち着かせようか。
『な、何者なのですか、この人は!?
大魔王様と、どのような関係が!?』
『ああ、クオは元魔王・蟻神クオハデスですよ。
私でも倒すのにはちょっと苦労しました。
でも、今は只の人間になった所為で弱くなってしまったので、軽くあしらってもいいですよ』
『元魔王!?
それが人間に……そんなことが……?』
『色々とあったのですよ……』
アカネはクオの正体に困惑していたが、さすがにマオちゃんがかつて人間との戦争を戦った魔王ゼファーロリス本人だということは秘密にしておいた方がいいかなぁ……。
こればかりは、公になると問題になりそうだ。
『さあ、クオは放っておいて、マオとお話してみましょう』
『え……でも……』
憧れの相手を前に、ヘタレるアカネ。
そういうのはシファだけで充分です。
『これから行動を共にすることも増えるのですから、仲良くなっておかないと色々と不都合があります。
いきなさい!』
『え……あう……おぁ……はい』
アカネは静かに、マオちゃんへと歩み寄っていく。
その結果、2人にクラスメイトからの視線が集中し、緊張感が高まっていった。
このクラスでは彼女とアカネは、ライバル関係だと認識されているようだからねぇ……。
「あの……その……お返しします……」
アカネはまるで贈り物を渡すかのように、マオちゃんへ私を差し出した。
『マオちゃん、この子を私の配下に加えたから、仲良くしてあげてください』
「ああ……そう……。
よろしくね……」
マオちゃんは左腕で私を受け取り、そして右手をアカネへと向ける。
「えっ……あっ……はい!」
数秒遅れて握手を求められていることに気付いたアカネは、慌ててマオちゃんの手を握った。
『ボク、もうこの手を洗わない!』
いや、洗えよ!
この日、マオちゃんとアカネの対立が終わった──と、クラスメイト達に認識されることになった。
それもアカネの方が折れる形で──。
その結果、クラスのメイトの間でマオちゃんは、実質的なクラスのボスとして扱われるようになったのだった。
そういえばアカネの髪の色について、同じ色はアリゼくらいって以前に書いたけど、よく考えたらシェリーとダリーもそうだったわ……。その辺を修正しておきました。