13 勇者の末裔と大魔王
『まず、ゆっくりと話せる場所に、移動しましょうか?』
「え?
これから授業……」
アカネはこの状況から逃れたいようだったけど、大魔王からは逃げられない。
「はっ!?
……えっ!?」
周囲の風景が突然変わったことにアカネは、驚愕した顔で首を激しく振るように周囲を見渡した。
強制的な「転移魔法」で、何も無い草原に移動したからね。
かつてクオになる前の、クオハデスと戦った場所である。
「『転移』……!?
高等な魔法なのに……こんなあっさりと……!?」
『学園には、公欠扱いとして届け出ておきますよ。
理事長のクラリスとは友人なので』
なんなら有給扱いにしてもいい。
後でお小遣いをあげよう。
「ほ、本当に一体何なのだ、あなたは……?」
『だから言ったでしょう。
大魔王だって……。
蒸……着!』
「え……ええっ!?」
アカネが目を見張る。
彼女の目の前で仔ギツネだった私の姿が、人型へと姿を変えていったからだ。
この間、わずか0.05秒(嘘)。
「私はアイ……アイですよ、アカネ」
「大魔王……アイ?
……って、なんで裸なんですかぁ!?」
アカネは顔を両手で覆って、慌てて背けた。
あら、結構純情だね。
ただ、同性相手にしては、過剰な反応であるような気もする。
多少は性的なものを、感じているのかな?
百合の才能があるよ、君ぃ。
「ああ、今服を着ますよ」
私はいそいそと服を着る。
まだ変身と同時に、服を着用する技術は不完全だ。
変身の直後に「空間収納」から服を出して、「転移魔法」の応用で身体に装着するのは、なかなか難しい。
たまに失敗して服が破れてしまうことがあるので、急ぐ必要が無い場合は普通に着るようにしている。
「さて、アカネ君。
勇者の末裔だというあなたに、私は興味があります」
服を着終えた私は、アカネに話の本題を切り出した。
「ぼ、ボクに……?」
アカネの目に警戒の色が浮かぶ。
まあ、こんな見ず知らずの場所に拉致られて、対等な話し合いというのも考えにくいだろうしなぁ……。
でも、ここを選んだのは、純粋に邪魔が入らない場所だから……という判断だ。
「ああ……別にあなたのことが、将来の脅威になるから潰しておこう……とか、考えている訳ではないですよ?」
「勇者の力が、取るに足らない……とでも?」
アカネ気配が膨らんだ。
戦う為の魔力と気が、身体に充実しつつあるのだ。
彼女にとって勇者の血筋であるという誇りは、軽んじられていいものではないのだろう。
だから戦闘態勢に入った。
しかし──、
「未熟──」
「はっ……!?
く……っ!!」
唐突にアカネがへたり込む。
私が解放した魔力の強大さを感じ、実力の差が理解できたのだろう。
そして一瞬にして、戦意を失った。
ふむ……よし、漏らしてはいないな。
恐怖を感じてはいても、ある程度は抵抗できているようだ。
「未熟ではありますが、可能性は感じますね」
本当なら私が魔力を解放させる前に、その実力を見抜くのが理想だったけど、魔力の差だけで勝てないと理解できるのなら、それはそれでアカネは優秀だ。
ここで折れないのならば、この娘は強くなるだろうな……。
というか相手の強さが分からないまま戦っていては、強くなる前にいつか死ぬだろうし……。
「勇者を軽んじている訳ではありませんが、私とあなたの力の差は歴然──。
それは理解できたようですね?」
ようするに勇者云々は関係なく、アカネ個人の実力が足りないので、それ相応に扱っているという話なのだ。
現状では、仮にアカネが私に敵意を持ったとしても、脅威にはなり得ない。
絡んできたら、ちょっと煩わしいな……程度。
「しっ、失礼しました、大魔王様。
自身の非力さを思い知りました……!
こ、こんなボクに、一体どのような御用で……?」
アカネが跪いて、頭を下げる。
どうやら私を、礼節を尽くすべき相手だと認識したようだ。
さすがは公爵家の令嬢。
その辺はちゃんと弁えているね。
「私は勇者の力を受け継いでいるであろうあなたに、協力してほしいと思っています。
我が魔王国に反逆した男のことはご存じですか?
王国でも指名手配をされています」
「確か……そのような話を聞いたことは……。
しかし恥ずかしながら、詳細は存じ上げません」
「ええ、奴は危険な男です。
いずれはこの世界に、大きな災いを齎すでしょう。
その時に備えて、勇者の力を借りられるようにしておきたいのです」
「そ……そういうことですか……。
しかし私程度の力で、役立つことができるかどうか……」
「あなたが望むなら、私が鍛えてあげても良いのですが、どうでしょう?
そしてゆくゆくは我が近衛兵、黒騎士として取り立てたいと思いますが?」
「黒騎士!?」
おお……アカネの瞳が輝いている。
やはり中二病的には、魅力的な称号か。
これなら彼女は断らないだろうね。
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