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7 黒髪の乙女

「くっ……私には勝てない……ですわ」

 

 魔法の発動試験も終盤。

 しかし圧倒的な魔法の実力を見せつけられた後で、クオはやりにくそうにしていた。

 まあ……魔法の実力は前の2人よりもかなり落ちるから、劣等感を抱かざるを得ないのは確かだろうけどねぇ……。


 そこへ──、


「やらないのなら、ボクが先にいいかな?」


 と、クオを押しのけて、後ろから少女が歩み出た。

 ボクっ()か……。

 あまり私の周囲にはいなかったタイプだ。


「ふえっ?

 は、はい!」


 クオは素直に順番を譲った。

 普段の気の強い彼女なら反発もしたかもしれないが、今の彼女は気落ちしていて消極的になっていた為、順番が後回しになるのは渡りに船だとも言える。

 だけどそればかりが、順番を譲った理由ではない。

 その少女の迫力に、気圧(けお)されたからというのもあるのだろう。


 少女の身体(からだ)は、大きい方ではない。

 年齢は13歳くらいだと思うけど、同い年くらいの女の子と比べても、身長は低い方だと思う。

 体付きだけを見れば、もっと幼い少年のように貧相だ。


 しかしその身に纏う空気は、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきた武人のような迫力を醸し出していた。

 いや、目つきも鋭いし、実際に彼女は武人の(たぐ)いなのだろう。

 先程の模擬戦でも、キエルを相手に良い勝負をしていたのは記憶に新しい。


 それにしても彼女の目と髪の色は、この世界では珍しい黒色だ。

 同じ色をしているのは、私はアリゼやシェリーとダリーの姉弟くらいしか記憶に無い。

 姉弟は遠い地方の出身らしいから関係はないと思うが、同じ王都出身のアリゼの妹だと言われれば納得しそうだった。

 だが、アリゼは孤児で家族はいないらしいし、そもそも胸部が天と地ほどの開きがあって似ていないな……。


 この場にいるということは、貴族の子弟である可能性が高いと思うが……。


 というかその少女、何処となく日本人的な顔付きを思わせるんだよなぁ……。

 凄く懐かしい。

 まさか転移者ってことじゃ、ないよねぇ……?

 転移者と言えば、異世界物では勇者を連想するけど……。


 しかも彼女は、マオちゃんに射貫くような視線を送っている。

 魔族を敵視しているということは、やっぱり勇者の関係者……?


 そんな彼女の実力はというと──。


「「「おおっ!?」」」


 先程のマオちゃんと同様に、空から雷を落としてみせた。

 しかもマオちゃんのそれよりも、威力が高いように見える。

 まあ、先程のマオちゃんもは、本気ではなかっただろうが……。

 

 それでも少女が見せた今の魔法は、まるで雷撃系は自分の専売特許だと言わんばかりのものだった。

 確かに勇者の専用魔法として、扱われている作品もあるけど……。

 あ~……これは完全に、マオちゃんへの対抗意識を燃やしているなぁ……。


『アリゼさん、今の娘は?』


 ここは試験官に「念話」で聞いてみようか。


『ああ、やっぱり仔ギツネさんは、アイさんでしたか~。

 え~と、今のはコールラント公爵家の三女、アカネ様ですね』


 アカネ……日本的な名前だ。

 やっぱり転移者の関係者だというのは、間違いなさそうだな……。


『彼女はもしや、勇者の……?』


『ええ、そうですね~。

 コールラント公爵家は、かつて魔王を倒した勇者の末裔だと言われています。

 まあ、王族などにも勇者の血は引き継がれているようですが、1番色濃く受け継いでいるのがコールラント公爵家なんだそうですよ~』


 なるほど……。

 公爵家なら、王家へ嫁入りしている者がいても不思議ではないから、クラリスとは遠い親戚になる可能性もあるのかな?


 そしてかつて勇者が戦った、魔王本人との出会い……。

 これはいつ爆発するか分からない、爆弾のようなものだ……。

 本当ならば、お互いになるべく近づかない方がいいのかもしれない。


『大丈夫なのですか、彼女は?

 どうやらうちのマオちゃんを、敵視しているようなのですが……』


『あ~……。

 勇者一族の使命は、魔族との戦いだと思っているのでは~?

 でも、公爵家だと、さすがに思想がちょっと怪しいだけでは、落とせませんねぇ~。

 そもそも実力は問題ありませんし、性根もそんなに悪いとは思えないんですよ~』


 う~ん……。

 確かにあれだけ実力があるのに不合格ということになれば、何処かから圧力がかかったと勘ぐりかねないかぁ……。

 それに私も、同じ日本をルーツに持つ者とは仲良くしたいとは思うから、不利益を与えるようなことはしたくない。


 ただ、一族の使命と言うのは、実に厄介だなぁ……。

 (おのれ)がなさなければならないことだと──それが正義だと──そう信じているからこそ、視野狭窄に(おちい)りやすい。

 視野を広げてよく見てみれば、他にも正しいことはあるはずなのに、それが分からないし、気付けもしない。

 だから間違えたまま突き進み、暴走の末に悲劇をもたらす……なんてことも有り得る。


 アカネのマオちゃんに対する敵愾心は、そんな結末を招きかねない。

 

 これはやはり私も仔ギツネとして学園に通い、アカネの様子を監視しなければいけないかも……。

 できれば仲良くして欲しいのだけどなぁ……。

 なかなか波乱の学園生活になりそうだ。


 なお、アカネの後でクオは、更にやりにくくなったようで、半泣きになっていた。

 仕方がないから、回復魔法を使うように私が助言しておいたよ。

 魔法を使う者の中でも回復魔法の使い手は少ないから、評価は高くなるだろうからね。

 だけど回復魔法を使う為には怪我人が必要なので、クオは自分の腕をナイフで浅く切っていたが……。


 目的の為には手段を選ばない……。

 クオ、恐ろしい子……!!(白目)

 『乗っ取り魂』が9000ポイント目前だけど、あと50弱届かない……。

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