6 魔法の力
「はーい!
それではみなさん、魔法の実力を見せてくださーい」
さて、次は魔法の発動試験だ。
この試験の責任者はアリゼ。
今や彼女は宮廷魔術師だけど、この場だと男子生徒を惑わせる美人教師感が凄いな……。
もしくは保険室で、白衣が似合いそう。
ただ、おそらくアリゼは、この入学試験の最終関門だ。
彼女の判断が、そのまま合否に直結する。
それは魔法の使い手が貴重で、その才能を見出すのがこの学園の目的の1つでもあるので、宮廷魔術師のアリゼのお眼鏡にかなうようならば、合格は確実というのもあるが……。
それよりもアリゼの「オーラ視」のスキルが、人材の選別に物を言う。
あのスキルは、人の善し悪しや才能を見抜くからね。
私も真似しようとしているけど、彼女ほどは使いこなせない。
ともかくアリゼが駄目だという受験生は、どんなに成績が良くても絶対に合格できないだろう。
能力云々よりも、人格に問題があると判断されたのだから。
つまりこの魔法の発動試験は、実質的にアリゼによる面接試験だと言える。
まあ……今のところ、それほど問題がある人物がいるとは思えないけど。
だってアリゼは、チラチラと私の方ばかりを見ているし。
これは正体がバレているなぁ……。
そして私以上に注目すべき相手は、いないということだ。
で、アリゼの面接試験に問題が無いのならば、重要になるのは魔法の実力ということになる。
これは筆記試験が不調で、更に身体能力に自信が無い為に先程の模擬戦へと参加しなかった者にとっては、最後のチャンスとなるだろう。
魔法の使い手は重宝されるから、一発逆転も狙える。
筆記試験が壊滅的だったらしいナユタは、ここで頑張らないと合格ラインに届くのかは、ちょっと分からないなぁ……。
一方、筆記試験は問題無くても、模擬戦では平均的な結果に終わっているクオも微妙なところだが、彼女は魔法が得意ではないのでここが正念場かもしれない。
たぶん危なげなく合格できるのは、マオちゃんだけだ……。
それはさておき魔法の発動試験な訳だが、同い年の冒険者が普通に使っているような魔法でも、貴族の子弟は実戦で使うということはまず無い。
実戦で使うということは、つまりは生命の危険があるということだから、貴族がそんなリスクを負うはずが無いからだ。
だから大抵の受験生が使う魔法なんて、実戦経験が伴わない未熟なものだと言える。
「殆どの者が、魔法の発動で精一杯ですわ……」
「ああ……これならオレでも、いけそうだな」
ナユタは一応、光属性や火属性などの魔法を、実戦レベルで使えるからね。
クオはまあ……蟻酸を生み出す魔法は使えるけど、それはあまり人に見せない方がいいな……。
それ以外だと、着火とか飲料水を作るとか、生活にちょっと役立つ程度の魔法しか使えない。
それでも他の者と比べると、使えるだけマシな感じではあるが……。
まずはナユタが実演する。
「あれ……さっき試験官と、互角に戦った子だ」
「あんなに小さいのに……」
どうやらドワーフだとは思われていないらしい。
そんなナユタは、拳に光属性の魔法を宿し、それを地面に叩きつけて見せた。
その結果、地面は直径50cmほどの窪みができて、その威力の高さを窺わせる。
それを目の当たりにした周囲からは、どよめきの声が上がった。
「魔法も使えるのかよ!?」
私から見れば未熟なナユタの魔法でも、受験生の大半から見ればかなり高度に見えるらしい。
ちなみに光属性って、作品によっては使えるのが勇者か聖女だけと言う場合もあるけど、この世界ではそんなことは無い。
ただ、使える者が少ないのは事実だから、今後ナユタは一目を置かれることになるかもしれないなぁ……。
それから……おや?
あれはス●ッタ……じゃなくて、リチアのところにいたタヌキ獣人の娘じゃ……?
確かコロロとか言ったかな?
ああ、孤児院から推薦枠を得る為に、リチアが試験官を請け負ったというのもあるのかな……?
「獣人かよ……」
「獣人が魔法なんか使えるのか?」
なにやらヒソヒソと囁かれているけど、まだ獣人に対する差別感情は残っているんだなぁ……。
元々奴隷階級だった獣人も今や一般国民だし、中にはマルガレテのように高い地位に就いている獣人もいる。
結果的に既得権益を奪われた形になっている貴族ならば、反発はなおのことか。
だが──、
「「「おお────っ!?」」」
コロロが発動した魔法が、そんな囁きを、驚愕の声で塗りつぶす。
彼女は大きな火球を生み出し、激しい爆発を発生させたのだ。
ほほう、なかなかの実力者じゃないか。
さすがは我らがキツネのライバル。
水星の魔女の名にふさわしい。
……おっと、私が感心している間に、マオちゃんの番が来た。
「魔族だ……」
「さっき、試験官をあっという間に倒したぞ」
「こわ……」
獣人以上に、差別的な視線を集めているなぁ。
王都には魔族がいないから、まだまだ未知の存在だし、だからこそ怖がるという気持ちも少しは分かるけれど……。
「「「「────っ!?」」」」
マオちゃんが電流を生み出し、それを上空に向けて撃ち出した直後、それは雷のように地面に降り注いだ。
手練れの魔法使いでも難しいと思われることを、あっさりとやってのけたマオちゃんの姿に、受験生達は唖然としている。
これなら少なくとも、喧嘩を売る馬鹿はいないかな……?
「凄いポン!
今のどうやったポン?」
「ん……今のは……」
お、コロロがマオちゃんに話しかけている。
友達ができそうで良かった。
だが一方で、絶望に打ちひしがれている者もいる。
「お姉様……。
私、あの2人の後にやるのは嫌ですわ……」
と、クオ。
まあ、コロロとマオちゃんの後じゃ、クオが発動する魔法なんてショボく見えるだろうねぇ……。
私がクオの魔法で操られているように見せてもいいんだけど、アリゼには見抜かれるだろうから駄目だな……。
『ま、頑張ってください!』
私の声援を受けて、クオは更に泣きそうな顔になった。
いつも応援ありがとうございます。