5 イヌの気持ち
アイです。
現在、学園の玄関近くにある柱に、繋ぎ止められています。
イヌのように!
ふぅ……こんなこともあろうかと、首輪とリードを「空間収納」の中に用意しておいてよかったぜ……。
……これがコンビニの前とかに繋がれて、ご主人様を待つイヌの気持ちか……。
楽しくはないが、これも貴重な経験ではある。
うむ……今、全裸であることを考えると、特殊なプレイ感もあるね……。
まあ、折角こんな姿なんだから、地面に転がるとか、ケモノのように過ごすのも良いだろう。
「おや?
なんでこんなところにキツネが?」
あ、職員らしきお姉さんに見つかった。
そしてお姉さんはしゃがみ込み、私を撫で回し始める。
「可愛いねぇ、お前~」
ふふ……そうだろう、そうだろう。
この私の愛らしさを前にしては、無視などできはしまい。
「キュ~ン」
あっ、そこ駄目っ、くすぐったい。
「…………」
はっ、お姉さんの背後を通りかかった人に、「何やってんだ、お前」って風に引いた目で見られた!?
って、眼鏡をかけて変装はしているけど、レイチェルじゃん!?
「シシルナさん、お仕事は……?」
「ああ、これはレイン先生。
い、今ちょっと休憩をしていたところです……っ!
すぐに戻りますね」
お姉さんは、そそくさと去っていった。
それにしても、レイン先生だと?
レイチェルは教員として、あの2人を見守るつもりなのかな?
「何をやっているのです、アイちゃん?」
『たぶんあなたと同じ目的です、レイン先生』
「私は縄に繋がれる趣味は無いのです」
『はは……ペットは試験会場に入れないって、試験官に言われてね……』
これは不可抗力だ。
「それでは、実技試験は許可されるように手続きしておくのです。
従魔の扱いも、実力のうちということで」
『ありかどう、レイチェル』
「はい。
……それでは、私も……」
と、レイチェルも私をなで始めた。
『レイン先生、お仕事は?』
「私も休憩中……なのです」
まあ、そういうことにしておくか。
それから暫くして鐘が鳴ると、筆記試験が終わったクオ達が外へと出てきた。
ナユタはちょっとあかん顔をしているな……。
クオとマオちゃんは、問題無さそうだ。
で、15分ほど休憩した後に実技試験が始まる訳だけど、試験官と模擬戦をしてその実力見る試験と、魔法を実際に発動させてその才能を見る試験があるようだ。
「さあ、模擬戦をしようか。
全員でかかってきなさい」
「来るにゃ!」
うん……この学園は国営だから、クラリスの親衛隊であるキエルとマルガレテが派遣されているのは分かるのだが……。
「さあ、お嬢さん方の相手は、私がするよ!」
何故いる、ロリコン……?
確かにクラリスとは面識があるけど、今は孤児院の運営をやっているはずだし……。
あ、でも最近国から補助金がおりるようになったらしいから、その返礼ってところかな?
元Aランクの冒険者が持つ技術を、眠らせておくのも勿体ないしね。
ともかく3人の試験官が、3箇所で十数人ずつを相手に模擬戦を行うようだ。
彼女達の実力ならば、多勢無勢でも問題無く対応できるだろう。
だが……、
『ナユタとマオちゃんは、最後に戦うように』
と、私は「念話」を送った。
この2人の実力ならば、さすがに1対1でも試験官が負ける可能性はある。
実際、ナユタは今やSランクの冒険者だし、たぶん近接戦闘だけならばあの3人と互角以上の戦いができるはずだ。
マオちゃんも魔族であるが故に、身体能力はかなり高いし、この模擬戦では使えないけど、魔法まで使い出したら手に負えない戦闘力を発揮するだろう。
問題はクオだが、この3年間では人間としての振る舞いを習得するだけで精一杯だったらしく、身体を鍛えるだけの余裕はあまり無かった。
身体能力だけで言うのならば、Dランク冒険者と同等って程度だ。
まあ、魔王であった頃のスキルや各種耐性が充実しているから、ダンジョンの浅い階層ならば単独で歩き回っても、まず死にはしないと思うけど……。
実際今だって、配下のアリ達を操る能力の応用で、周囲の女子達に対して無意識にクオを守るような動きになるように仕向けている。
アリって雌ばかりの社会だから、人間の女子限定で能力が通用するらしい。
ただ、それは精神を支配するほど強力なものではなく、思考をほんの少し誘導する程度らしいが、それでも貴族社会で女性の味方を作りやすいというのは、結構有利な能力だと言えるだろう。
だけどクオは身体能力が微妙な所為で、攻撃面では攻め手に欠ける。
結局彼女は他の受験者と同様に、キエルに負けていた。
一方マオちゃんは、リチアをあっという間に倒したけど、あれは好みのタイプを目の前にして油断したリチアが悪いので、必ずしも実力を発揮したとは言いがたい。
そしてナユタは、マルガレテの素早い動きに翻弄されるが、マルガレテもナユタの堅い守りを突き崩すことができずに、時間切れの引き分け……って感じ。
ナユタが専用の武器や防具を使えていたのなら、結果は違ったのかもしれないけど、これは仕方がないね。
さあ、次は魔法の発動試験だね。
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