1 第一村人発見
影狼の襲撃からどれくらい経過しただろうか──。
とにかく結構な距離を、南下した。
辿り着いた場所は、故郷から比べれば温暖で、定住するのも悪くない感じの土地だった。
……と思ったんだけど、なんだか動物をあまり見かけない。
これでは餌に困りそうだ。
う~ん、しかしなんで動物がいないんだろう?
こういう場合、強大な魔物が餌を食い尽くしているから……というのが考えられる。
あのグリフォンもそういう存在で、私が倒していなければ故郷の土地は死の森と化していただろう。
そんな存在がいるのなら、早めにこの土地を通り過ぎた方がいいかな?
あえて危険な戦いをする必要も無いし。
そんな訳で、南に向かって走っていると──、
『……お姉ちゃん、何かいるね?』
『私達を囲もうとしているね』
私達姉妹は、何者かの気配を察知した。
数は結構多い。
ただ、あまり脅威には感じなかった。
強い魔物ならば、もっと圧力を感じる。
これは弱いな……。
ただ、数が多いことには、警戒が必要だ。
私が暫く様子を見ていると、そいつらは木々の影から姿を現した。
『ゴブリンか!』
『……ゴブ?』
私達の前に、小柄で緑色の肌をした人型の生き物が現れた。
この世界で初めて、人型の生物を見た!
しかもこいつらは、どう見てもあの有名なゴブリンじゃないか!
私はテンションを上げたが、それに対してシスは首を傾げている。
このフィクションの中でしか会えない相手と、現実に会えたことに対する感動は、転生者じゃない者には理解してもらえないかぁ……。
ともかくゴブリンだ!
一部では女の人に乱暴して孕ませるという、凶悪な存在として有名だよね。
やめて! 私達に乱暴する気でしょう?
エロ同人誌みたいに!
エロ同人誌みたいに!
……ただ、このゴブリン達は、皆一様に痩せ細っている。
乱暴どこか、戦闘できるかどうかも怪しい衰えぶりだ。
これはこの周辺に動物がいないことと、明らかに関係があるのだろうね……。
そしてゴブリン達が、私達の前に現れたその意味──。
まあ、私達を食べる為だろうなぁ。
キツネが2匹……倒しやすい相手だと判断したか。
だが、浅はかなり!
「オオっ!?」
私の身体から、巨大な火柱が立ち上ったことに、ゴブリン達は動揺し逃げ惑う。
でもそれでいい。
この世界のゴブリンがどんな存在なのかは知らないし、もしかしたら邪悪で駆逐すべき敵なのかもしれないけれど、私は「生きる為」という理由が無ければ、無用な殺生はしたくない。
ゴブリンを殺すのは、私と本格的に敵対した時か、彼らを食べる時だ。
……さすがに、人型は食べたくないから、さっさと逃げて欲しい。
しかしゴブリンの一部は、逃げなかった。
その中から、他のゴブリンよりも身体が大きな個体が、前に出る。
ちょっと強そうだけど、群れのボスかな?
ボスとしては、戦わずに逃げるような弱腰では、権威を保てないということだろうか?
う~ん……半殺しにすれば、引いてくれるかな?
それでも戦い続けるようなら、最早殺し合いしかないが……。
私は覚悟を決めて、戦うことに決めたが、その瞬間──、
「!?」
ゴブリンのボスは、地面に五体を投げ出した。
それに倣うかのように、他のゴブリン達も同じポーズを取った。
何かの宗教的な祈りのポーズにも見えるけど、意味合い的には土下座かな?
降参したということ?
それじゃあ、話し合いは可能だろうか?
言葉を持たない者が相手でも、「念話」でならこちらの言いたいことは伝わる。
まあ、ある程度の知能の高さは必要だけど、このゴブリン達なら問題は無さそうだ。
『あの……』
私がゴブリン達に話しかけようとしたその時──、
パァァァァァン!
と、大きな音が響き渡った。
「「「「「!?」」」」」
シスがうつ伏せで降参のポーズを取っているボスの後頭部に、前足を振り下ろして引っぱ叩いたのだ。
猫パンチのように見えなくもないけど、その威力はかなりのもので、ボスは一撃で気絶してしまった。
……私も驚いたが、ゴブリン達も驚いた。
『ちょっ、やめなさーい!
何やってんの!?』
『いや……隙だらけだったし』
判断が早い。
野生の世界では、隙を見せた者から捕食者に狩られて命を落とす。
だからシスの対応も間違ってはいないんだけど、私はそんな殺伐とした関係ではなく、もっと文化的な交流ができる関係を築きたい。
でも結果的に私達とゴブリンとの間で、上下関係はハッキリと決まったので、その後のゴブリン達は、私達に従順となったのだった。
あれ……?
これってもしかして、何処かのスライム魔王と同じルートに入りかけている?
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