4 入学試験開始
仔ギツネになった私に興奮したクオが落ち着くのを待って、私達は学園へと向かった。
今後クオとナユタは領事館に部屋を借りてそこで生活し、そしてそこから学園へ通うことになるので、道を覚える為にも徒歩で向かう。
距離としては20分ほどかかるから、1~2kmってところかな。
「ここが学園ですかぁ……」
クオが呆けたように見上げる校舎は、3階建ての大きなものだった。
学園が創設されたのはここ1年ほどのことなので、勿論校舎は新築なのだが、普通に建築したら数年はかかる規模だ。
だからこの校舎は、前世の記憶と今世の技術を用いて私が1週間くらいで建てた。
その所為で、ちょっと日本の学校っぽい外見となっている。
「これからここに、通うのですわね」
『まだ正式には、決まっていないですけどね』
一応、クオには入学試験を受けてもらう。
実力的にはまず落ちないだろうから、合格は決まっているようなものだが……。
しかし面接試験があるのなら、それでやらかす可能性は残されている。
あと、ナユタもついでに試験を受ける。
「師匠……マジでオレも試験を受けるの?」
『同じ生徒ならば、護衛対象のクオと一緒に行動しやすいでしょ?』
「え~……?」
実際、いくら護衛でも、授業中は教室の外で待機ということも有り得るからね。
そうなった場合、待ち時間で退屈するのはナユタだし、どうせなら一緒に授業を受けられる方がいいだろう。
だから本来は護衛役に試験なんて必要が無いのだけど、合格できるのなら学生として通ってもらった方が、彼女にとっても悪くないことだと思う。
ただナユタは、筆記試験で確実に悪い点数を叩き出しそうな単純な頭をしているので、合格できるかどうかは未知数だ。
実技での一点突破を狙うしかないな……。
当然、試験管に賄賂を渡すとか、辺境伯である私の権限で合格させる……というのは無しだよ。
落ちたら普通に護衛として、学園に通ってもらう。
「あ、マオ!」
試験会場となる教室へ行くと、既にマオちゃんがいた。
自力でここまでくるとは、やっぱりしっかりしているなぁ。
そして彼女は、落ち着いた態度で席に座っていた。
小さい頃は活発だったけど、何故か今はクール系ロリへと成長している。
……そんなマオちゃんだが、周囲から警戒の目で見られていた。
やっぱり魔族に対する偏見というものは、まだまだあるからなぁ……。
ただ、本人があまり気にしていないのは、強者の余裕からだろうか。
でもできれば、人間の友達も作って欲しいけど……。
「来た」
そして、私達に気付いたマオが、こちらに歩み寄ってくる。
というか、完全に私目掛けて一直線だね。
未熟なクオとは違って、いくら姿が変わっていても私だと分かるか。
「ママ、おひさ……」
と、マオちゃんは私を抱き上げた。
相変わらず彼女は、私を母親として認識しているようで、私のことを「ママ」と呼ぶ。
彼女を復活させる時に、私から魔力を注入したことによるインプリンティングの結果なのかねぇ……?
まあ私も別に否定する理由も無かったので、そのままにしているけど。
ちなみにこのマオちゃん、シファに対しては「お姉ちゃん」と呼んでいた。
実の娘に対して、それはどうなの?……と思わないでもないが、記憶が無いのだから仕方がないな……。
それからマオちゃんは、私を優しく撫で回す。
クオのような激しい愛情表現は無いけれど、彼女からも確かな愛情は感じる。
そして、それを見せつけられると、クオも黙ってはいられない。
「ちょっと、私にもさせなさいよ……!」
「……あとで……ね」
マオちゃん、静かに拒否る。
なんというか、この元魔王の2人は対極的なんだよね……。
マオちゃんが「静」や「氷」だとすれば、クオは「動」や「火」って感じだ。
なので相性も悪いのだが──、
『仲良く交替で!』
「「はい」」
私が喧嘩を禁じているので、正面から激しくぶつかり合うことは無かった。
なんだかんだで2人とも、私の言うことに対しては聞き分けがいいからなぁ……。
暫くすると、鐘の音が聞こえてくる。
どうやら試験が始まるようだ。
「みなさん、受験票の番号と同じ席に着席してください」
試験管と思しき人物が、教室に入ってくる。
そして──、
「む……ペットは外で繋いでおきなさい」
私を指さしてそう言った。
あっ、はい。
従魔を持つ者は、視覚を共有するスキルを持っていることがあるから、それを利用してカンニングすることも可能だからね……。
「な……っ!
ペットなどでは──」
『クオ、ステイ!』
クオが激高しかけたが、ここで暴れられては受かるものも受からない。
ここは我慢してもらって、私は大人しく縛につくよ。
……緊縛放置プレイは、初めてだな……。
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