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3 召 喚

 さて、入学準備が整ったので、そろそろ子供達を呼び寄せるか。

 とは言っても、マオちゃんは放っておいても来るだろう。


 マオちゃんはこの3年の間、ダンジョンでレベルアップさせたり、栄養のある物を食べさせたりした結果、3歳児程度の体格から10歳児程度には成長した。

 しかも知能レベルも上がって、今では人間の言葉も自由に扱える。

 ただ、魔王だった頃の記憶は、未だに戻ってはいない。


 それでも魔法の技術はかなり上がっていて、元々持っていた能力を取り戻しているかのようだった。

 だから自力で「転移」もできるようになったので、入学の予定日には自ら王都へ現れるだろう。

 基本的にマオちゃんは、約束ごとを破らないいい子だ。

 ただ今頃は、ダンジョンでの修行に夢中になっているはずなので、ギリギリまで学園には来ないと思う。

 なんだかんだで、成長することが楽しいらしいし。


 一方のクオは、人間なのでそこまで強くないし、自力での「転移」もまだ無理だ。

 元魔王でもアリだった所為か、魔法はそんなに得意ではないらしい。

 それでいて強さにはさほどこだわりが無いらしく、人間になってからは魔物であった頃の性質はかなり失われてしまったようだ。

 そんな訳で、ダンジョンでの修行にも消極的で、今頃は入学準備を理由に早めに切り上げているのだろうな……。


 だから先にクオと護衛役のナユタだけ、私が「転移魔法」で呼びだすことになった。

 あの2人だけだと、徒歩か馬車しか移動手段が無いから、下手をしたら数ヶ月はかかるからね。

 

『それではクオとナユタよー!

 おいでませっ!!』


 今の私ならば遠く離れた場所から、任意の人物を呼び寄せることも可能だ。

 これはもう、「転移魔法」というよりは、ある種の「召喚魔法」だね。

 まあ、事前に本人に術式を仕込んで準備しなければならないので、誰でも無制限に呼び出せる訳ではないが……。


 ともかく、召喚の術式が発動すれば、その効果は一瞬で現れる。

 私の目の前に光の柱が生まれ、その中に2つの人影が生じた。

 1人はナユタ。


「来たぜ、師匠!」


 そしてもう1人は──、


「お久しぶりですわ、アイお姉様!」


 元魔王・蟻神(ぎしん)クオハデス改め、クオだ。

 年齢的には14歳くらいか。

 レイチェルもそうだけど、ステータスが高いと成長スピードは遅くなるようで、クオは初めて会った時からあまり変わらない。

 たぶん寿命も、伸びているのだと思う。


 ただ、外見はあまり変わっていないが、お嬢様教育を受けた結果、言葉遣いや所作は劇的に変わった。

 今では何処に出しても恥ずかしくない、貴族の子女に見える。

 実際、立場的にはトウキョウ自治領の女子爵であるセリスさんの娘ということにして、今や名実ともに令嬢だ。

 セリスさんはうちの政治を取り仕切っているので、彼女無しでは自治領が立ちゆかないレベルだよ。

 クオにはその後継者として、立派になってほしい。


「早く契りを結びましょう!」


 ……すぐにメッキは剥がれるのが、物凄く心配なところではあるが。


「……って、あれ?」


 クオは周囲をキョロキョロと見回す。

 私の姿を見つけられなかったからだ。

 いや、目の前にいるんだけどね。


『ここですよ。

 あなたの足下。

 ナユタは気付いていますよ』


 ナユタは先程から私の方を見ている。

 まあ、存在に気付いていれば、どうしても視線は向けてしまうだろうけれど、私は気配を消していたので、気付けただけでも及第点だと言える。

 しかしクオは、私の存在にすら気付いていなかった。

 

「ほわ?

 小さなキツネです?」


 そう、今の私は、仔ギツネのレベルにまで小さくなっていた。

 魔族はエネルギーが不足すると、身体(からだ)を小さくしてエネルギーの消費を少なくするというような機能を持っているようだ。

 そこで私は、身体の中心にエネルギーを集中し、それを魔力で覆って隔離する──。


 そうすれば擬似的にエネルギー不足の状態になる為、私は自由に小さくなれるし、隔離したエネルギーを解放すれば、いつでも元に戻ることができる。

 なので、いちいちエネルギーを再摂取して、時間をかけて成長し直す必要も無い。

 

 で、仔ギツネの姿ならば、学園に侵入しやすくなるのではないかと考えた結果がこれだ。

 私の普段の姿は、目立つからなぁ……。

 それに保護者が頻繁に出入りしていては、生徒も落ち着かないだろうし、警備的にも問題がある。


 でも、クオの従魔という扱いなら、学園には自由に出入りすることができるだろう。

 そして私は、クオとマオちゃんが、学園で問題無くやっていけるかどうかを、すぐ近くで見守ることができるという訳だ。


「こ……これがアイお姉様ですの……?」


『そうですよ、クオ。

 すぐに気付けないようでは、まだまだ未熟ですね』


 わなわなと身を震わせるクオ──。

 失態を反省しているのかと思いきや、彼女は私を刈り取るが如き勢いで抱き上げた。


「可愛いですわ!

 可愛らしいですわ!

 さあ、今から契りましょう!!」


 キツネの姿でもいいんかーい!?

 大体今の私は、人間で言えば赤子のようなものなんだけど……。

 見境無しかよ……?


 やっぱりこの子を、人間の学校に通わせるのは不安があるなぁ。

 いざという時は、私がフォローしないと駄目かも……。

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