表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/216

エピローグ 温泉にて

 ダンジョン襲撃から数日──。

 私は魔族達を連れて、トウキョウ村へと帰還した。


 大きく破壊されたダンジョンは、さすがに修復まで少し時間がかかるようだ。

 それにアリ達の残党も、まだいるかもしれない。

 まあ、元女王のクオの話ではもう卵を産める者がいないので、これ以上増えることは無いようだが、今の彼女ではアリ達に命令することはできないので、ある意味暴走状態に(おちい)っている可能性もある。

 

 それでもアリはもう増えない。

 女王アリ単体で子を産み育てることができ、雄は必要無い……という、私達天狐族とちょっと似ような生態だったらしいが、もう女王アリだったクオは人間になってしまったから。

 

 いずれにしてもダンジョンはまだ、安心して生活できるような状態ではないので、魔族のみんなは村に移り住んできたという訳だ。

 

 なお、クオの話によると、彼女達はいつの間にかあの地下にいたらしい。

 食料もある程度あったそうだし、足りなければ土も食べたという。

 やべぇな、アリの食欲……。

 

 おそらく彼女は、クジュラウスによって封印を解かれた後、半覚醒状態でダンジョンの下へ運ばれてきたのだろう。

 で、目覚めた彼女は卵を産み、そして巣を広げた。


 ただ、上にダンジョンがあることは、地中貫通爆弾(バンカーバスター)が落とされるまでは、気付いていなかったらしい。

 爆発の震動で上に何かがあることを察し、上に向かって動き出した──とのこと。


 ちなみにクジュラウスの配下達には奴隷契約の術式を(ほどこ)して、逆らえないようにした上で村に連れてきている。

 そして現在、彼らのリーダー的な存在であったリビーとかいう竜女から色々と情報を聞き出し、シファを中心にして魔王城の奪還の計画を練っているところだ。


 まあ、私としては魔族達にこのまま村へ定住してもらってもいいんだけど、やっぱり人間の国の中に魔族の集落があるのはマズイという意見もあって、別の場所に拠点を移した方が良さそうなんだよね……。

 それにクジュラウスを野放しにしておく訳にもいかないから、奴に魔王城をこのまま好きにさせておくのも問題だからなぁ……。

 でも、作戦を主導するのは、あくまでシファ達魔族だ。


 勿論私も手伝うのは(やぶさ)かではないけれど、私の所属は魔族ではなく、ローラント王国の辺境伯なんでね。

 外野は外野ができる範囲のことをするよ。




 そんな訳でちょっと時間ができたので、私はダンジョン最深部の温泉に来ていた。

 アリに多少荒らされていたけど、温泉は問題無く使える。


 ちなみにクオもついてこようとしたが、あの子はどこでも求愛してくるので、裸の付き合いなんてできるはずもない。

 もうさすがにあの子の自由にはさせてはおけないので、奴隷契約でいくつか決まり事を作っておいた。


 その中に「クオが立派なレディになるまでは、求愛は受け付けない」というのもある。

 だから今頃は村で、セリスさんから淑女としての振る舞いを学んでいるんじゃないかなぁ?

 元々はアリだから、かなり苦戦しているようだが……。


 あと、ただの人間のままだとひょんなことで死にかねないので、ナユタに弟子入りさせて最低限の護身術くらいは学ばせている。

 こちらはアリの頃から強さにはこだわっていたので、真面目に取り組んでいるようだ。

 たぶん頑張れば、私から見て人類最強のレイチェルくらいまでは、強くなれると思うよ?

 人間になっても、アリの頃に獲得したスキルが使えるかもしれないしねぇ。


 まあともかく、今は温泉を楽しむよ。

 

「ふ~、温泉は良いねぇ。

 温泉は人類の生み出した文化の極みだよ」


「あー!」


 私に賛同するかのように、私に腕に抱かれて湯に()かっている魔王が声を上げる。

 彼女は何が気に入ったのか、私について回ることが多く、この温泉にも同行していた。

 

 う~ん……最初に魔力を注入したことが、影響しているのだろうか?

 実際、同じように魔力を注入したネネ姉さんにはそれほど(なつ)いていないから、魔力による刷り込みみたいな現象が起こったのかもしれない。

 ヒヨコが初めて見た物を親だと思い込むという、あれみたいな……。

 

 あ、いつまでも魔王呼びではあれなので、本名の「ゼファーロリス」を略して、「ゼファ」……と呼ぼうかと思ったが、ちょっと可愛くないので魔王を略して「マオちゃん」と今は呼んでいる。

 

 ……というか、「ゼファーロリス」ってシファの姓名なのかと思っていたんだけど、母親の名前を引き継いだということらしいね。

 この際、魔王襲名ってことで、その名前はシファに使ってもらった方がいいだろう。


「あう、マンマ」


 こら、マオちゃん!

 私の乳首を、口に含もうとしない!

 母乳はまだでないからね。


 でも、小さい子供はいいなぁ。

 今の私ならすぐにも妊娠・出産できるはずだけど、キツネの子供が欲しい訳じゃないんだ。

 仔ギツネはシスの子達で、間に合っているし……。


 もしかしたら人型で妊娠したら、人型の子供が生まれるかもしれないけど、不確かなことを実際に試そうとはまだ(・・)思えないなぁ……。

 それに私単独で子供を作るよりは、やっぱり相手が欲しい。

 その候補は何人かいるけど、まだ成長途中だし、もうちょっと様子を見るよ。


 だから今はまだ、子供はマオちゃんで我慢しよう。


 ふぅ……温泉でゆっくりできるのはいいけど、それも今だけの話。

 これからは、またちょっと忙しくなるかもなぁ……。


 ダンジョンが破壊された件については、国の方でもちょっと騒ぎになっているらしく、明日にでもクラリスへ説明しにいくつもりだ。

 それに話し合うことはそれだけではない。

 竜女のリビーから聞き出した話の中には、クジュラウスの情報はあまり含まれておらず、現在は魔王城にも殆どいないらしい。

 だからその行方(ゆくえ)を知る為には、人間達からも情報を集める必要がある。


 そしてもう一つ重要なのが、リビーの兄で最後の四天王のヘンゼルというのが、ローラント王国の隣にある国──クバート帝国に潜んでいるということだ。

 その件についても、対応を考えた方がいいだろう。

 もしかしたらそのヘンゼルによって、帝国が操られて王国へ攻撃してくる……なんて事態も有り得るからね。


 ただリビーの話では、最近は連絡も取れないというし、実際にクバート帝国で変な動きがあるという話も聞かないので、焦る必要も無さそうだけど……。

 今は温泉をゆっくり楽しもう。


「あぶー!」


 湯船でパチャパチャと泳いでいるマオちゃんを眺めながら、私は少しだけまどろんで、静かに目を閉じた。

 今日はワクチン接種なので、副反応次第では次回の更新が遅れます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ