23 危機一髪
女王アリの分身と思われる存在が、私に跳びかかってきた。
わざわざここまで追ってきたのだから、さぞかし私が憎いのだろう……。
彼女の一族を根絶する勢いで、虐殺したからなぁ……。
いや実際、根絶しておかないと、他の生物がヤバイ感じの危険生物ではあるが。
だから徹底的に、叩き潰しておく必要はある。
だけど今は、まともに相手をしている暇は無い。
ネネ姉さんのピンチなのでね。
黒い鎧が姉さんに対して、何か銃のような物を向けている。
あれはちょっとヤバイような気がする。
撃たせたら最後、取り返しが付かないことになる──そんな予感があった。
今は女王アリの乱入に気を取られたのか、まだ撃ってはいないが、撃つのも時間の問題だ。
たぶん、あと数秒とかそんな感じ。
そんな訳で──、
「ほっ、空中巴投げ!」
私は跳びかかってきた女王アリの勢いを殺さないよう、そのまま空中で捉えて投げ飛ばす。
そう、姉さんへ目掛けて。
「ほわ?
びゃうんっ!?」
女王アリに衝突された姉さんは、黒い鎧達が形成した「結界」から撥ね飛ばされて、逃がれることができた。
よし、狙い通り。
しかもタイミング良く、黒い鎧が弾丸のような物を撃つ。
その弾丸のような物は、姉さんと入れ替わるように「結界」へ囚われた女王アリが、その身に受けてくれた。
それがどのような効果をもたらすのかは分からないけど、どのみち何回も撃たれては困る。
今の内に──、
「おりゃ!」
私の尻尾が、横薙ぎに黒い鎧達を斬り裂く。
あの巨大女王アリの脚を斬り裂いた高周波ブレードだから、もう胸の辺りから真っ二つだ。
うん、やっぱりあの巨大女王アリよりも、装甲が弱かったね。
これでもう、おかしなことはできないはずだ。
「危ないところでしたね、姉さん」
「お、おお……。
ありがと、アイ」
はいはい、アイさんですよ~。
三●さんみたいに眼鏡は忘れません。
で、姉妹2人が揃ったところで──、
『天狐族の完全体が二体だと!?』
お、初めて黒い鎧が声を発した。
ただ、肉声ではない。
なんとなく、古いスピーカーから漏れ出たような声で、音質は悪い。
やっぱり生き物じゃないな。
切断面を見ても出血していないし、何か機械っぽい物が見え隠れしている。
これは人造の兵士──ゴーレムみたいなものだろう。
おそらくクジュラウスが、それを遠隔操作している。
『あなた……クジュラウスですか?』
私の質問に黒い鎧は答えない。
その代わり、なにやら恨み言を繰り返してはいるが……。
『おのれぇ……。
一体だけでも手に余る存在が……!
私の計画を、次から次へと狂わせおって……!!』
ふむ……その口ぶりから、やっぱり私のことを知っているな。
となると、クジュラウスで確定か。
そして彼にとっては、今回の計画も失敗だという認識のようだ。
ならばこれ以上の隠し球は、もう無いかな?
『あの巨大アリは、あなたの仕業ですね。
女王を倒すのは、少し手こずりましたよ』
そんな私の言葉に、黒い鎧は──クジュラウスは反応する。
『少し……だと!?
私が復活させた、太古の魔王だぞ……!?
あまりにも凶悪すぎて、魔族自らが総力を挙げて封印した蟻神クオハデスを……!?』
魔族からも敵視される魔王とか、そんなにやべー奴だったんかい。
おそらく完全に制御する手段も無かっただろうに、そんな危険物を解き放ってどうするつもりだったんだ、こいつ……?
私が倒していなければ、世界が崩壊していたかもしれんぞ。
馬鹿なの? 死ぬの!?
……まあ、女王アリにトドメを刺したのは、クジュラウスだけどね。
黒い鎧が発射した謎の弾丸を受けて、女王アリは倒れたまま動かない。
気配がその辺の冒険者よりも小さくなっているから、これはもう駄目だろうな……。
なにか特殊な毒か、呪いだろうか?
姉さんにこれを撃ち込まれていたらと思うと、ゾッとする。
……というか、本来は私の為に用意されたものなんだろうなぁ……。
姉さんがいなかったら、私だけでは対応できなかったかもしれないし、本当に危なかった……。
『だが、私が蘇らせるべき存在は、まだまだいる。
次こそは貴様の最期──ガッ』
クジュラウスの言葉が終わる前に、私は黒い鎧の頭部を踏み潰した。
念の為、他の2体も粉々に潰しておく。
なんだか面倒臭いことを言い残していたが、次もまた叩き潰してあげるよ……!
「ふぅ……この戦いも、これで終わりかな……」
と、私は一息を吐く。
いや、まだ竜女とか、敵の残党がいたわ。
でも最早脅威でも何でも無いので、降伏勧告しておくか。
さすがに大量の「狐火」に囲まれてもなお、戦いを続ける者はいなかった。
これで今度こそ終わりかな。
……と、思っていたら、何者かが私に抱きついてきた。
気配が小さすぎて油断していたが、これは瀕死だった女王アリ……!?
いや──、
『婿殿、捕まえた!』
と、「念話」を飛ばしてきたのは、十代半ばの女の子だった。
誰この美少女……?
というか、婿殿!?
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